第4話 身近すぎた年下先輩
「「あ」」
タイミングを合わせたわけでもないのに俺と睦美ちゃんの声が重なった。
俺より数分前に職場を後にした睦美ちゃんと会社の最寄り駅で鉢合わせたのだ。
ガクブルと体を震わせながら顔を硬直させ、とても驚いている様子の睦美ちゃん。
いや、どうしようという感じだ。
武藤睦美。
先輩ではあるが、俺と一つ違いの年下だ。
俺は専門卒で入ったが、彼女は違う。
このフールスは基本、専門卒か大卒しか採用しないのだが、睦美ちゃんは高卒での入社を実現させた。
はっきりと言おう、彼女は天才なのだ。
社長は彼女の類い稀ないデザインセンスにベタ惚れし、即採用した。
それがなぜWEBチームへ配属されたのだろう?
彼女曰く、WEBのデザインはやったことがなかったらしい。
それでも一年仕事をこなしてきた彼女はすごいと思う。あの二人と一緒で、よく……ね。
そんなことよりも俺は睦美ちゃんに聞きたいことがあるのだ。
ちょうどいいから、今聞いてしまおう。
「ねえ、睦美ちゃん」
「ひ、ひゃいっ!」
声をかけると、睦美ちゃんは頬を赤く染めながらビクッと飛び跳ねるように驚いた。
ちょっと小動物みたいで可愛いな。
「この間、アニオタ発言をしていたけど本当なの?」
「え、えーっと……そうです……ダメですか?」
「全然ダメじゃないよ。俺もアニメ好きだからさ。俺なんかもうアニメを観ることが生活の一部になってるくらいだよ」
「そ、そうなんですかっ?」
俺のアニオタ発言を聞いた睦美ちゃんは目を大きく見開いて驚いた。
同志を見つけて喜んでいるのだろう。
電車が到着すると俺と睦美ちゃんは乗り込み座席に着いた。
「俺でよければいつでもアニメトークしてもいいよ。結構幅広く観てるから」
「あ、ありがとうございます! 沙織さんもアニメはよく観ると言っていたんですけど、すぐかけ算の話になってしまうので……」
「ああ、想像できるよ。俺もそっち方面には弱いからついていけそうにないや」
ガタンゴトンと電車に揺られながら、軽く今期のアニメの話を繰り広げた。
何駅か過ぎた頃、俺は話題を変える。
「睦美ちゃんはどこに住んでるの?」
「えーっと、花小金井です……」
「あ、そうなの? 奇遇だね、俺も花小金井なんだ」
「え?そ、そうなんですね。あ、次ですよ……」
電車が停止すると、俺と睦美ちゃんは降車し、駅の改札を通り抜けた。
「睦美ちゃんはどっち?」
「……北口です」
「俺も北口だ」
また一緒か。こんなこともあるんだな。
暗い夜道をスタスタと睦美ちゃんのペースに合わせて歩いていく。
「睦美ちゃんはWEBの仕事好きなの?」
「好きなんですかね……よくわからなくなりました」
「まあ仕事はしなければいけないものだし、そういう感覚に陥るのも致し方ないことなのかな」
「新垣さんは好きなんですか?」
睦美ちゃんの質問に対して俺は少し悩む。
確かに最初は好きというかやりたいからこの職を選んだ。
しかし今はどうだろう。
正直言って仕事はつらい。
でもやらなければならない。
ならばつらいということは好きではないのか?
必ずしもその感情に直結しているとは断言できないだろう。
だから俺は睦美ちゃんにこう答える。
「難しい質問をしてごめん」
「いえいえ、気にしないでください……あ、着きました」
と言って、睦美ちゃんが指を差した先には二階建のアパートがあった。
しかしこのアパートには見覚えがある。
いや毎日見ている……というか俺が出入りしている。
そう、ここは俺が住んでいるアパートなのだ。
「睦美ちゃん、本当にここなの?」
「えっ、どうして嘘をつく必要があるんですか?」
デスヨネー。
じゃあ本当に同じアパートに住んでいるのか。
さて、種明かしといこう。
「睦美ちゃん、実は俺もこのアパートなんだけど……」
「そんな嘘とかいらないですよ〜」
「いやいや、嘘とかじゃないから!」
「だって新垣さんは野宿なんですよね? エミリーさんが言ってましたよ」
あのなまけものはなんて法螺を吹きやがるんだ。社会人一年目が野宿とか、どん底スタートすぎるだろ。
「そんな嘘は真に受けなくていいから」
「えっ、それじゃあ本当に……」
「うん、俺もここに住んでる」
「……何号室ですか?」
「三◯二号室」
「お、おちょなり……!」
まさかのお隣さん!
見たことなかったから誰も住んでいないのかと思ってたけれど、睦美ちゃんが住んでいたのか。
「じ、じゃあまた明日ね……」
「は、はい……」
僕らはお互いの部屋の扉の前で挨拶すると、それぞれ家の中へ入っていった。
ガチャン。
なんだろう、気まずい。
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