括れ杭 賊食う子の名 果肉蟻 ~五七五~

 十二月二十五日。

 奇跡だ。

 そうか、これが世に言うクリスマスの奇跡という物か。


「朝から呼び出すような不躾ぶしつけに、快く応じてくれてありがとう。感謝だ」

「構わないよ。それよりさ」

「どうした?」

「今日は、十河そごうがいつもと違って見える」


 クリスマスに大好きな女の子と会って、開口一番にこのセリフ。

 世の男性は俺をけなすのだろうか。憎らしく思うのだろうか。


 俺の言葉に、少し怒ったような表情を見せている女性は十河そごう沙甜さてん

 長い黒髪のクールビューティーである彼女は、俺たちのすぐ脇に建つログハウス風喫茶店、『シャマイン』のオーナーでもある。


七色そらはしも、今日はいつもと違って見える。驚くべきことに、地面で丸まっていない」

「これがクリスマスの奇跡か。下から見上げていない十河と会えるなんて、慣れてないから落ち着かない」

「慣れろ。風習の違いに戸惑うかもしれんが、地球ではこれが普通だ」

「それにしても……、可愛いな」

「ん? どうした、じっと見つめて。何かおかしいところがあるか?」

 

 惚れ直す、とはこういうことなのだろうか。俺は、十河の服装に心を奪われた。

 例える言葉も恥らうだろうが、『白い妖精』と言い表すことにしよう。

 純白ふわっふわ、そでの無いケープコートは綿毛のように風に揺れ、その合わせから垣間見える、これまた白いワンピースドレスが清楚さと可憐さを演出している。 


「驚いた。今日は、十河がいつもと違って見える」

「あたしは寒いのだ。ループするなら付き合ってやるから、屋敷でやらないか?」


 十河はいつものクールな無表情のまま、ケープと黒髪をひるがえしてゆっくりとした足取りで歩き出す。

 俺はいやおうも無くそのあとを追った。


 開店前で慌ただしく店内を駆けずり回るクワットロ・ペンキーネ。

 彼らを窓越しに見ながら店の脇に作られた小路こみちを行くと、その眼前には塀代わりの灌木かんぼくで仕切られた小さな芝生の丘が見える。

 そして緑の丘の頂上には、巨大で真っ白な洋館が建っていた。


「ウェヌス・アキダリア」


 灌木を左右に隔てるように建てられた白いゲートにレリーフされた文字を、つい音読してしまった。


「うむ。あたしと美嘉、そしてサーバント達の家だ」


 十河はゲートを軽く撫でるようにして潜りながら、いつにも増して硬い表情の横顔で話す。

 自宅へ俺を迎え入れることに緊張などするタイプとは思えないのだが、この堅苦しい感じはいったい何だろう。

 芝生の前庭を縫うように走る石畳。俺は肩を並べて歩く十河に、さりげなく探りをいれてみた。


「今日は何をしたらいいのかな。またパーティーの手伝い?」

「パーティー……、か。まあ、やつらはそんなことを言っていたが。あたしはコンビニで買ってきたビスケットしか準備していない」


 暗い十河の横顔から、重たげなため息が漏れる。

 そこまでテンションを下げる、「やつら」とは一体……。

 例の四人組のことでは無さそうだし、美嘉ちゃん先生だったら複数形で語るのはおかしい。

 そんなことを考えながら歩いていた俺の耳に、とんでもない物が叩きつけられた。


「……お前と出会ってからというもの、気持ちの起伏が激しくて疲れてしまった」

「いきなり別れ話!? ま、待ってくれ十河! 俺は……!」

「え? ち、違う違う! 別れ話じゃない!」

「そうなの?」

「当たり前だ、こんなに気に入っ……、ごほん。そういう話では無くてだな……」


 感電もいとわず真っ白なケープコートにすがりついた俺に、盛大なため息がかかる。

 そしてため息の主は、ケープの中から俺を指差して、


「つまり、それだ。あの日以来、お前はあたしを振り回して疲弊ひへいさせているのだ。自覚があろう?」

「……そ、そうだね。ごめん」

「今日、どうしても会わねばならん連中がいるのだが、これだけ疲労した状態であれにさらされたら倒れてしまうやもしれん。そこで、この疲労の原因たるお前に、責任を取ってもらうことにした」

「つまり、俺が客の相手をすればいいのか」


 十河は頷き、再び歩き出す。

 彼女が嫌がる、倒れてしまうかもしれない客。

 話の感じだと、やんちゃな子供とか話の長いおばちゃんとかかな?


「もちろん引き受けるよ。十河はゆっくり休んでいていいから」

「ああ、助かる。とりあえずやつらが来るまでに対策を説明して……」

「ぐほっ!」


 何っ!? 急に何かが首を絞めっ!


「おっはよー! あたしら悪魔がクリスマスパーティーとかうけるっ! たはっ!」


 女の声?

 それに、飛びつき胴締めチキンウイングフェイスロックだとっ???

 三木か? あのお調子アサシンか? いや、あいつにこんな高度な技は無理。

 じゃあ誰だ! 肘が痛い! 首が苦しい! 重い! あと、背中で極められて、胸で押さえつけられてる左手が……、その胸に? 指が? …………埋まる、だと?


「いよっ! 相変わらず暗いねえ沙甜は! 挨拶は二人のベッドルームに至るための玄関だってよく言うじゃない! ほれ、おはよー!」

「知っている。だから挨拶しないのだ」

「たはっ! 黒船でも連れてこなけりゃこの玄関突破できねえぞ? 照準、沙甜のへそ下よりもうちょい下に固定! 俺のペリーを一斉発射! ってなあ、そう思うだろお前! で、誰だお前」

「そでは、おでのセリ……」

美優みゆ。それはあたしのだから。とっとと返さないと、愛用の蕎麦そばがら枕の中にタニシを五匹入れておく」

「そいつは勘弁シロナガセクジラ! 誰だよ長瀬って! お前か? たはっ!」


 十河がいい加減にしろとばかりに俺の左から手を伸ばすと、このとんでも女は俺の背中に両足をかけて、おそらくバク宙しながら地面に降り立った。

 もちろんそのアクロバットについては空想だ。背中を蹴られれば、前に倒れる。目を後ろに向けている暇などどこにもない。

 必死に地面に向けて腕を伸ばし、迫る石畳にファーストキスを奪われることだけはなんとか回避した。


「いてっ! くぁ、危なかった……」


 石畳に打ち付けた肘をさすりながら身を起こすると、背中越しに笑い声が響く。

 振り向いた目に飛び込んできたのは、癖のある金髪をショートにまとめた、猫目の女子。

 彼女は多羅たら高校三大有名人の一人、


「君は、えっと……、たしか王様……」

「そうそう! 美優は、八雲やくも美優! 王様だ! よろしくな、長瀬!」


 この寒空をものともせず、ボア付きのショートジャケットに、大きな胸がこぼれるほど緩いカットソー、マイクロミニの革スカートというパンクな服に身を包んでへらへらと笑っているこの人。

 彼女は十河と同じ魔界の三王、その一人だ。


 しかし、こいつやばい。

 もちろん高校生にあるまじき胸の話しじゃない。自分のシンボルマークを刻印したシルバーのネックレスが谷間に挟まってまるで見えない件はちょっと後で。

 なにがやばいって、とてもじゃないがこんなマシンガントーク、脳が処理しきれるものではない。

 十河がこいつの相手をしたら倒れるって言うのも頷ける。

 俺は助け舟へと振り向いたが、舟は何も言わずに桟橋を離れていた。


「ちょ……、十河、待ってよ」

「そうだぞ沙甜! 年内最後の首脳会談なんだから、楽しくいこうぜ! 美優は既にご機嫌マックス、クリスマックス!」

「楽しくいかない。お前ひとりで行ってこい。留守は任せておけ」

「たはっ! おい聞いたか長瀬? 沙甜のデレ期、このルートの中にねえんじゃね? でさあ長瀬、お前だれだよ?」

「……長瀬じゃなくて、七色そらはしっていいます」

「そうか! 長瀬の苗字、変わってんなあ!」

「ちきしょう! 突っ込み方がさっぱり分からん!」


 俺が頭を抱えているうちに石畳は途絶え、両開きの大きな扉の前に着いた。

 建物のサイズに合っているとは思うけど、無駄にでかい扉だ。ゾウくらいならなんとか通りそう。

 だが、ぼけっと見上げる俺を置き、十河は扉を左手にそのまま通過して建物に沿って歩き出す。


「あれ? どこに行くの?」

「……会合は、食堂で行われる。そこへは外から入ることが出来るのだ」

「そうそう! 美優が石膏像とか壊しちゃうからさ、食堂しか入らせてもらえねーんだこれが! うけるっ!」

「すっごくよく分かる」

「美優のおっぱい並みにでけえ屋敷、いつか探検したいんだけどね~。そういえば長瀬はさっき、美優の秘境をもみもみって探検してたな? 戦果はどうだったよ! 美優のお宝、探し当てた?」

「揉んでないでしょ!? そりゃ、あの姿勢じゃ手が胸に当たるけど……ぞくっ!」


 思わず擬音が口から洩れるほどの黒いオーラ。昨日の三木の時と同じパターンだ。

 でも、あんなやきもちなんてレベルじゃない。

 黒髪がゆらりと傾いて、氷の視線が肩越しに俺をにらみつけている。


「怖っ! 待てっ! 今日のも不可抗力! 俺が好きなのは十河だけです!」


 慌てて弁明する俺の目の前までずかずかと近寄って来た氷の女王は、へっぴり腰のせいで下がった顔を上から覗き込み、


「では貴様は、無駄にでかいこいつの脂肪よりもあたしの胸の方が好きだと、そう言うんだな」

「もちろんだ十河! 俺はどっちかというと貧にゅぐはあ! 手を握ってどうする気だだだだだだだだ!」

「そんなに言うなら、お前の大好きなを触らせてやる。嬉しいと言えばな」

「いだだだだだだだだ!」

「嬉しいと言え!」

「いだだだむむむむむねねねねね、しいいいいいいい」

「あたしの胸がCなんてことあるかっ!」


 俺は手を掴まれたまま、合気道の要領で投げ飛ばされた。

 何から何まで不条理だ。嬉しいって言ったのに触らせてもらってないし。


 仰向けに倒れて悶える俺の元から荒い足音が立ち去ると、代わりに猫目の方の王様が近寄ってきて、顔の横にしゃがみ込んだ。


「長瀬は馬鹿だな~。あいつに餅つきの話は禁句だっての」

「………………ぺったんことか、誰がうま」


 俺は、荒い足音がずしゃりと止まった音を聞いて慌てて口を押えた。

 だが覆水ふくすいが戻るはずなど無し。

 一歩一歩、恐怖がヒールの甲高い音と共に近付いてくる。


 結局今日も、俺はすっぽんのお世話になるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 十河の心労たるやどれほどのものだろう。

 疲弊していると聞いたうえでの大騒ぎ。失態だ。


 ようやく折檻せっかんをやめてくれた十河が、いよいよ疲れ果てた溜息をついて建物の端へ向けて歩き出したので、俺もその後を少し離れて付いていく。

 そして建物に沿って端を曲がると、外壁から庭へ飛び出したような部屋が見えた。

 そこには十河が話していたように、外から上がる階段が据え付けてある。


「あそこが食堂だ。もう一人を外で待っている気にもなれん。先に入っていよう」

「……忘れてた。やつって言ってたっけ。こんなのがもう一人いるの?」


 俺もとうとう十河と同じくらいに両肩を落としながら、親指で隣を指した。

 

「ベクトルの向きは違うが、長さは一緒だ」

「うそだ……」

「まあ、奴が来るまでひと時の平和を満喫していてくれ」

「……まさか、今までのを平和だったと感じねばならんのか」


 驚愕の宣言を受けながら、俺達は食堂の階段を上る。

 そして目の前で、扉を開けた十河が膝から崩れ落ちてうなだれた。


「うむ。遅かったな。待ちくたびれたぞ」


 まあ、家主が知らないうち、勝手に家に入っている男がいたらそうなるわな。

 そして今の、ブロックしようがないからね? 俺を役立たず扱いしないでね?


 ふらふらと立ち上がった十河の後に続いて食堂に入ると、三方に窓を持つ真っ白な世界が待っていた。

 そこには大きな白いダイニングテーブルが置かれ、壁面を埋め尽くすように花が飾られている。

 そして建物へ通じる側には大型のアイランドキッチンが設置され、黒とウッドで統一されたシックな調理器具が並んでいた。


 そんな空間に、花を愛でる長身痩躯そうくの男がいた。

 彼も有名人なので名前くらいは知っている。

 九谷くたに飛鳥あすか。やはり三王の一人だ。


 グレーのスーツにパリッとしたYシャツ。スカーフをネクタイ代わりにふわりと巻いたおしゃれ心など、高校生の域を超えている。

 だが、知性と気品を感じる大人びたルックス。オールバックにした真っ白な髪。高級そうなインテリ眼鏡。どこをとっても、この服に引けを取ることなどない。

 むしろ、素材を生かした最高のコーディネートとすら感じた。


 ……まあ、不法侵入しちゃうような人だ。中身はどうなのか知れんのだが。

 そんなことを考えながら食堂と九谷さんとに目を奪われている俺に、十河がひそめた声で話しかけてきた。


「いいか、七色。あたしはそこのキッチンでお茶を淹れてくる。助けが欲しくなったらそこにあるシンバルを鳴らせ」


 そう、こんな豪華な部屋に唯一の違和感。

 床に、無造作に置かれた二つのシンバル。


「こんなの鳴らしたら、じゃーんじゃーんじゃーんって、すげえ音鳴るぞ?」

「いいから鳴らせ」

「でも……」

「両足で持ちながら」

「助けを頼むなという意味なら最初からそう言え」


 できるかそんな器用な真似。

 あ、そうだ。忘れるところだった。

 俺はボディーバッグからペットボトルを取り出して、十河に見せた。


「これ、冷蔵庫で冷やしてていいか?」

「かまわん。好きに使ってくれ」


 返事を貰うと共に小走りでキッチンへ向かい、牛が一頭まるまる入りそうな業務用の冷蔵庫に手をかけた。

 何から何まででかい家だこと。

 そして宣言通りのペットボトルを適当な隙間に置いて、その陰に、ポケットに入れておいた小さな箱を隠した。


 さて、準備はOK。あとは、十河の平穏を守るだけ。

 俺は頬をはたいて気合を入れてから振り返ると、すぐ後ろに、涙目の女子が立っていた。


「うわっ!? ど、どうした、十河?」

「この首脳会談は毎週日曜の朝に行うのだがな、初めてなのだ!」

「ん……、何が?」

「あたしがやつらの相手をしないで済むかもしれないということが!」

「泣くほどのことなのか。……わかった。できる限り、頑張る」

「頼りにしてるぞっ!」


 十河は電撃と共に手をぎゅっと握って俺を見つめる。

 痛いけど、嬉しいな。

 頼ってくれる。手を握ってくれる。そして俺の前だと色々な表情を見せてくれる。


 十河は俺の返事に口元をほころばせると、楽しそうに鼻歌など口ずさみながら、


「では、飛び切りの紅茶を準備してやる。待っていろ」

「ああ、楽しみにして…………、おそっ!」


 鼻歌の軽やかなテンポとまったく合わない、太極拳のような動きでキッチンを進み始めた。

 どうやら、時間内にテーブルに戻る気は無いらしい。


 思うところはもろもろあれど、こいつは俺を頼ってくれたんだ。

 頑張ろう。

 俺は再び頬を叩いてから、二人の王が待つ白いテーブルへと向かった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 テーブルには十河が言った通り、コンビニのレジテープ付きのビスケット袋が封も切らずにぽつりと置かれていた。

 そんなテーブルを挟んで正面に、九谷さんが静かに腰かけている。

 もう一人の方は、俺が座る椅子の背もたれに片肘を突き、くっ付き過ぎの家庭教師というポジションに落ち着いていた。


「あの、八雲さん。こんだけ椅子があるんだから、座ったら?」

「たはっ! ばばあじゃねーんだからいらねーって! なんならテーブルに座ってやろうか? 長瀬の正面に! えろっ!」

「会談できないでしょーが」

「どうせ美優が聞いても分かんねえから一緒とか? いやまいったね! あ、長瀬に座ろうか? いやいや、どうせなら沙甜に座りてーなーテナーサックス! サックスだってこりゃまたエッチいな! うけるっ!」


 ああうるさい。

 それに引き換え、九谷さんは物静かな感じだよね。

 彼と話した方が建設的かも。


「九谷さん。俺、場違いじゃないです? 首脳会談なのに」

「何を言う。同級生だろう、気を使うことなどない」

「……はあ」

「うむ。それに会談と言っても、今日は議題など無くてな。年内最後ということで簡単なクリスマスパーティーをしようということになったのだ。遠慮など無用」

「そうゆーこっと~。お菓子もーらい! とうっ!」


 なんだ、この人はまともじゃないか。なんで十河はこの人を疲れるカテゴリーに入れてるんだろう。

 やたらとお堅いから、話していると疲れる、ということなのかな。


「さて、君は七色君だったね。沙甜から同級生のゲストを呼ぶと聞いていたので楽しみにしていたのだ。砕けた話し方で構わんよ」

「そういわれると嬉しいんですが、俺、敬語になっちゃうと思います。そっちの方が失礼でしょうか」


 二人とも同級生とは言え初対面。しかも王様だ。どこに逆鱗げきりんがあるやもしれん。

 しかし終始無表情なへの字口の九谷さんは、


「うむ。安心したまえ。我々の社交性を舐めないでいただきたい。誰でもすぐにタメ口で話せるようになる」

「そうだと嬉しいんですが」


 ほんと、いい人だな。気を使って少しはフランクに話すよう心がけよう。

 俺が肩の力を抜いて笑いかけると、彼もへの字の口を少しだけ緩めてくれた。

 だがリラックスできたところで、また頭痛の種がビスケットの食べかすを撒き散らしながら戻って来た。


「しっかし、長瀬はあれだな! 堅っ苦しいっての! お前の下半身みたいじゃね? カチカチか! たはーっ! まいったねこりゃ!」

「堅っ苦しくなってないってば!」

「そうそう、いい突っ込み&コール&レスポンス&突っ込むってどこにだよ! じゃあやっぱり準備万端、下半身もよーそろーじゃねえか長瀬! よーそろーってこりゃまたエロいな! うっせー美優! うけるっ!」

「うるっ……、おおう、突っ込みが間に合わん」


 流鏑馬やぶさめかよ。やったことないけど。


「なんでお前らエロワードで笑わねーんだ? 少しは沙甜を見習えっての!」

「あたしはそんっ…………」


 あ、一瞬参加しやがった。

 でも否定しきれずに悔しがってるだろうな。


 キッチンの方をちらりと見たら、案の定、俺の横で高笑いしている八雲さんをにらみながら紅茶の葉を一枚ずつポットに落としている十河の姿があった。

 あの作業、夕方くらいまでかかりそうだな。


「とにかくそのカチカチのを何とかしねーとな! 後でプレゼント交換すっけどそれとは別にプレゼントしてやっから! 美優の愛を受け取れーカチカチ!」

「ちょ! ズボンのポケットに手を突っ込むな! ……って、あれ? 何入れた?」

「たはーっ! 手じゃねーんだこれ! 美優からの愛、四角っ! うけるっ!」

「え? ほんとにプレゼント? あ、あり……」


 お礼を五分の二ほど言いかけたところで、まるで俺を鈍器で殴り殺す時と同じような音がキッチンから響いたので、なんとか我に返ることが出来た。

 好きな子がいるのにこんなの貰う訳にはいかないよね。


「いや、お気持ちは嬉しいんですが……」

「ぜってー今夜役に立つから! 使い捨てだし遠慮すんなって! 美優、気が利く女なんだこれ胸でかいから! おっぱいかんけーねーっ!」

「うむ。七色君。迷惑かもしれないが、美優に悪気はないんだ。沙甜も喜ぶと思うから是非受け取ってくれ」


 九谷さんも中身知ってるのか?

 そうまで言われちゃうと断りにくいな。

 しかし、今のは言い方が上手い。大人のトーク術だ。参考にしよう。


 俺は再びキッチンを確認すると、十河はやむなしと言った表情でやかんに水を入れていたので抵抗をやめることにした。

 ……なるほど。美味しい紅茶を淹れるためにはミネラルウォーターを小さじで何度もやかんに移すんだね。


 それにしても十河が九谷さんのことを疲れさせるやつとか言っていた理由が分からない。

 これだけ落ち着いてるのに変な人とは思えないし。


「で、飛鳥はプレゼント交換にどんなの持って来たんだ? 美優のと、かぶったりとかしてな! そしたら戦争だ! たっは!」

「うむ。交換用の品をテーブルに出しておこうか」


 九谷さんは落ち着いた物腰で、机の下からネックが折れて穴だらけになったギターを引っ張り出してテーブルに乗せた。


 ………………なにこの落ち着いてる変人?


 泥ついてるじゃん。拾ってきたの? え? 何?

 今までとのギャップに恐怖すら感じて身じろぎ一つできない俺の耳元で、八雲さんが大笑いし始めた。

 君に助けを求めるの、間違ってるとは思う。でもさ。


 俺が八雲さんを見つめながら、震える指で九谷さんを指差すと、


「そうそう! 飛鳥は変な奴なんだこれ! うけるっ!」

「変? そんなレベル?」

「ラッピングしなきゃ中身見えるっての!」

「うむ。これは失念していた」

「そこじゃねえっ!!!!」


 椅子を倒しながら立ち上がって突っ込む俺をよそに、八雲さんはショートジャケットのポケットからテーブルの上にプレゼントを出した。

 そこには、リボンで完全にコーティングされたザリガニが開けなくなった手を一生懸命上げている姿があった。


「お前らの進化途中に箱って文化は生まれなかったのか? あとなまものはNGだ!」

「そっか! リボンがびしょびしょになっちまうからなこれ! 笑えねえっ!」

「ボケてるんだよな!? わざとだよな!」

「そうだ。新鮮なことは評価に値するが、私のように日持ちのする物が好ましい」

「お前のは新鮮さがゼロなんだよ!」


 ほんとだ。もうタメ口だ。


 しかしこれ、ほんとにやばい。俺一人で対処できるレベルを軽く超えてる。唯一の味方が太極拳速度でガスコンロに火打石をかざしているので、ひとまずシンバルを足元に寄せておいた。

 まあ、足で持てない以上気休めなんだけど。


「美優、ビスケットじゃなくてさ! あれ! あれ食いてえ!」

「うむ。それは同意だ。過酸化水素水に合う」

「飲むな」

「そうそう、クリスマスだしなこれ!」

「グミは良いな」

「合うんだな! ほんとだな!? じゃなくてクリスマスにそれって……、ああ! 一言で二つ分ボケるんじゃねえ! 見えるか? 俺の口は一個!」

「そっちもいいけど丸焼きの方だって! 鳥が……、えっと、こういうやつ!」

「こっちはこっちでテーブルに油性ペンで絵とか書くな! 鳥の丸焼きってヒントで分かるから! そいつの名前は…………、まるでわからん」


 幼稚園児並みの画力。

 一筆書きで書かれた、車を横から見たような物。


「これは何だ!」

「バカだなあ長瀬は! 答えを知りたいから絵にしたっての!」

「こ・れ・を! どうやって食えという!」

「なるほど、七色は食さんのだな」

「まてこら!」

「うむ。好き嫌いは誰にでもあるから気にするな。特にふなずしは苦手な者が多いと聞くからな」

「びたいち寿司成分なんかねーだろこの絵! 助けてくれ! 誰か助けてくれ!」

「ああ、思い出した! さば寿司だっての! うけるっ!」


 じゃーんじゃーんじゃーん


 ……窮地に立った者は不可能を可能にする。

 俺が涙交じりに起こしたクリスマスの奇跡は、不服そうな救世主をキッチンから引きずり出すことに成功した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 少し灰色がかった空全体から間接照明のように柔らかい光が注がれる、そんなクリスマスのお昼前。

 二人の王は、一言に対して三言は突っ込みたくなるトークを延々と続けていた。


 俺はまともな話し相手を得て心の崩壊はまぬかれたものの、十河と共に頭を抱えながら苦痛に耐えていた。


「あたしは、日曜の朝の静かな時間まで奪われた。こいつらはあたしが大切にしている物を上から順に奪って行く」

「沙甜の一番大切な初めては美優が貰う予定だからな! いやわりーね長瀬、お先に頂いちゃいまーす! って、そんなにしょぼくれたツラしてんじゃねーよ! そんなら長瀬も同時にいっとく?」

「うむ。私も力を貸そう。沙甜が初めて舐めるアルトリコーダーは、七色の名を書いて美優が存分に吹き鳴らしたものを準備しよう。これなら二人同時」


 十河の処世術を見習おう。相手にしちゃだめなんだ。

 こいつらは無視して十河とだけ会話しよう。


「そうだ。いつものやつを見てくれないか? 今日のはちょっと特別版だ。きっと今までで一番気に入ってくれると思う」

「いつものだったら、今日は出さないでくれ」


 あれ? 意外にも冷たい反応だ。

 でも、これを解いてもらわないと困るんだけど……。


「バイオケミカルで発見があったから、もうレトリビューション・チェーンも消えているのだ。それに……」

「ぐほっ!」


 十河の話は、金髪猫目が俺の背中に飛び乗ってきたせいで途切れてしまった。

 相手をしないと決めても無駄なようだ。

 白髪眼鏡も席を立ち、こっちに寄ってくるとか最悪だ。


「いつものって何だ? やっぱり下半身か! カチカチか!? もうそういう関係なのかよたっはー! 美優もまぜろ! ほれカッチカッチ山の~たぬきさん~」

「誤解だ! あと、何が始まるんだよその変な歌で!」

「隠すな隠すな! 美優の携帯渡しとくからムービー撮っといてくれよな! でも長瀬のは見たくねーなー! そっちは隠しとけっ! ちっさ! うけるっ!」

「聞けよ人の話! 十河のために、こんなの作ってるんだよ」


 まったく。暗号を見せたら何が言いたいかくらい分かるだろう。

 だが、俺がズボンの後ろポケットから紙を取り出すと、十河が声を荒げた。


「出すんじゃない!」

「こんなの作ってるってなんだよ長瀬? わかった子供か! どうやって作ってるのか紙に書いてんのかちきしょーっ! ……よ、読ませろよ……」

「ああもう違う違う。こんなのだって」

「待て……っ!」


 何を慌ててるのか知らないけど、急に見たって読めやしないよ。

 暗号を作ってるって説明したらしまえばいい。

 俺は紙を広げて、テーブルに置いた。



 括れ杭 賊食う子の名 果肉蟻



「うむ。冷蔵庫の中に何があるというのだ? クリスマスケーキならいただこう」

「え? ………………ええーーーーーーーーーーーーっ!?」


 驚きのあまり、自分でも信じられないような大声を上げてしまった。でも、


「ま、待て! そんな一瞬で? ただ文字を読む速度で解読するなんて!」

「うむ。俳句だから「く」を読まなかっただけだが?」

「廃「く」かようけるっ! で、何が俳句なんだよ長瀬?」

「……飛鳥は、無駄に大天才なのよ」


 十河はそう言いながら、肩を落としてうなだれた。

 驚くならともかく、なんでだろう、酷い落ち込みようだ。


「……帰って頂戴」


 そして、生気の無い言葉で俺達を拒絶した。


「あの……、十河? 俺……」

「あなたはいいの。こいつらに言ったの」

「ふむ。ケーキをいただいてからな。こう見えて私は甘いものに目が無く」

「出てけ」

「たはっ! 彼氏と二人になって何する気なんだっての! えろいか! イカじゃなくてタコか! ちゅーちゅーたこ、んちゅーーー! ぷはっ!」

「うわっ! なにすんだ!」


 首にぶら下がっていた八雲さんが、ほっぺたにキスをしてきた。

 こんなの、今の十河に見せた…………、ら………………っ!


 俯いていた十河が、音もなく椅子から腰を浮かせる。

 立ち上がるにつれ、眼前を覆っていた黒髪が左右に割れていく。

 そこに現れた、柳眉りゅうびを逆立てた彼女の瞳には、殺意を越えた何かがどす黒く揺らめいていた。


 俺はあまりの恐怖に腰を抜かして床にへたり込んだ。

 いや、恐怖という言葉が正しいのかどうか。この感情を、俺は正しく知らない。

 知っている言葉で一番近いものは、蛇ににらまれたカエル。すべてを達観たっかんした心境。

 そして今、蛇が全てを飲み込むべく、大きなあごを広げた。


「出てけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 王の咆哮ほうこうは、白い部屋にあるすべてのものを震え上がらせた。

 窓ガラスが振動でヒビ入り、花瓶がいくつか倒れ、九谷さんと八雲さんは取るものもとりあえず、扉から我先にと飛び出していった。

  

 俺が呆然と扉の方を見つめていると、すぐ隣にふわりと風を感じた。

 慌てて振り向くと、さっきまでの蛇という印象は夢だったとしか思えない、綿毛のような白い妖精がしゃがんでいた。

 下唇を噛み締めながら、ぽろぽろと涙を流しながら、小さくしゃがんでいた。


「あ……、その……」


 この騒ぎは九割方あの二人のせいだと思うが、俺も少々迂闊だった。

 謝った方がいいと思って口を開いたが、うまく言葉が出てこない。

 俺が焦りに目を泳がせていると、十河がふわふわのケープを頬に押し当てて、ごしごしと拭き始めた。


「いてててててて! 電気っ! ちょっ!」


 俺が体ごと逃げた分、十河は身を寄せる。

 体が密着して痺れの範囲が広がると、体の自由が段々利かなくなってくる。

 最後には顎を掴まれ、むきになって頬をこすられた。


 ……悔しそうに涙を流す少女に、ずっと頬をこすられ続けた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ようやく清浄作業から解放された時には、そのまま仰向けに倒れ込んでしまった。

 だが一分ほどのインターバルを得て体の自由が利くようになってきたので、テーブルに手をかけてなんとか体を起こす。

 すると、椅子に座り、俺が作った暗号の紙を膝に置いたまま未だ泣き続ける十河の姿が目に入った。


「……あたしの為に作ってくれたのに」

「え?」

「これ………………、あたしのなのに。なんであいつが取っちゃうのよ……」


 十河は、あの二人が自分の物を取ってしまうという言い方をしていた。

 騒がしくて疲れることよりも、そのことの方が彼女を苦しめていたんだ。


 そして今日も、謎を取られた。

 そして今日も、俺を取られた。


「ふう…………。あたしらしくなかったな。…………軽蔑したか?」

「いや、全然? そんなところも含めて十河だって知れたんだ。楽しいくらい」

「そう言われると、助かるやら情けないやら」

「情けないとか言うな。助けてるんだから」

「ああ。……ありがとう」


 すっかりしょぼくれてしまった姫を、なんとか元気にさせないと。

 あ、そうだ。サプライズの予定は狂ったけど、あれがある。


 俺は冷蔵庫まで走ると、中から小さな箱を取り出した。

 それを背中に隠しながら戻ると、顔だけ振り向いた十河が待っていた。


「あたしはな、お前が作ってくれる謎がたまらなく好きなのだ。難しくて、でも必ず答えにたどり着く。そして、答えには素敵な想いが詰まっている」

「そうじゃないこともあるけどね。東西南北みたいな」

「いや、同じなのだ。なぜならもっとも重要な想い、つまり、あたしの為に作ってくれていることが暖かく伝わってくるからな」

「ん……、えっと、それはどうも……」


 面と向かって言われると照れくさい。

 でも、十河の事を想って暗号を作っているのが伝わってるなんて、嬉しい。


「だからな。お前と出会ってから、あたしは毎日心のこもったプレゼントをもらっている気持ちになっていたのだ。……だが、今日はそれを取り上げられた。悔しいし、七色に申し訳ない気持ちで一杯だ」


 そうか。

 十河は、俺の想いのために涙を流してくれたんだ。

 ありがとう。

 でも、


「だったら安心していいよ。プレゼントは取られてないから」

「え?」

「はい、プレゼント。今日の暗号は、これのためのおまけだから。取られたからって気にするな」


 十河は一つ頷くと、無言のままプレゼントを受け取ってくれた。

 そしてラッピングを外して箱を開き、中から現れた物を目の前にかかげて見つめる。


 それは、シルバーのネックレス。

 ペンダントトップはシルバーの三日月と、その中で揺れる小さな青い宝石。


「悪魔ってさ、元々付けてるからネックレスをプレゼントで貰ったことないだろ? いつも付けてるネックレスと一緒に、二連に付けるときっと可愛いと思うんだ」


 十河の表情は変わらない。ひょっとして、喜んでもらえなかったかな?

 ちょっと不安になった俺の耳に、かすれた小さな声が聞こえた。


「もう。普段通りのあたしでなんかいられないじゃない」

「え? 何?」


 聞き取り難くて近寄った俺の手にネックレスを押し付けた十河は、コートの合わせをほどいて背中に落とした。

 そして右手を首の後ろに回して髪を左肩に寄せ、真っ白な首をあらわにしながら、


「付けて」


 優しい声色で、そうつぶやいた。


 色っぽい仕草に目を奪われていたところに、信じがたい言葉が飛び込んできたのでまったく反応できない。

 俺が?

 付ける?

 これを?

 まじで?


「あ、えっと……、そんなことしたら、びりびりが来るよ?」

「いいの。我慢するから」

「それに、その、首に手を回すなんて……」

「早くして」


 気付けば、十河の口調からいつもの貴族然とした仮面が外れている。

 今までも何度か、彼女は王である前にただの女の子なんだと感じたことがあったけど今日のは極め付けだ。


 俺は震える指で金具を外し、なるべく肌に触れないよう首に手を回す。

 緊張のせいか、電気のせいか、腕の筋肉が必要以上にこわばって、小さな金具がなかなかはまらない。


 息がかかるほどの距離。唇と唇が、気を抜いたら触れてしまいそうなほどだ。

 目の前で微かに震える十河の長いまつげ、その一本一本が淡い光につやめきを放っている。


 気の遠くなるような長い長い数秒間。

 体温すら感じる近さから離れて初めて、俺はまったく呼吸をしていなかったことに気付いた。


「ふううううう……。つ、付けたぞ」


 吐き出した息は、緊張のあまり震えていた。

 そんな俺の気持ちに気付いているやらいないやら、十河は口元を子供のようにほころばせて、胸元のネックレスをしきりに触っていた。


「ありがとう。……少し、ほんの少し、分かった気がするの」


 この言葉、多分、十河が分からないと言っていた恋人同士の愛情についてだろう。


 今がチャンスだ。

 付き合って欲しい。

 このセリフを言うなら今しかない。

 だが、さっきから鼓動がやばい。心臓が爆発しそう。緊張のあまり流れる汗の量も半端じゃない。

 ちょっと、汗を拭いて落ち着いてから……、ん?


 ハンカチを探そうとズボンのポケットへ手を入れたら、小さな箱に指が当たった。


「ああ、八雲さんのくれたやつか。何が入ってるんだろね。見る?」

「……うん、見る。それと、何が出てきてもあたしの方が素敵なものをあげるって約束してあげる」

「お、おう」


 素敵なもの。

 十河のセリフに、頭が真っ白になった。返事もろくにできないよ。


 俺は顎から落ちかけた汗を手の甲で拭うと、十河の見ている前でラッピングを剥がしていった。


「ふふっ。何を緊張してるのかな? 汗も凄いし。ハンカチないの?」

「お、おお。これ、開けてからな」

「中身、ハンカチだったりして」


 上目遣いとか、勘弁しろよ。ほんと、心臓が限界だから。

 結び目も解かず強引に外したリボンと、びりびりに破いた包みをテーブルに置いてふたを開けると、なんと十河の予言通り、中からハンカチが出て来た。

 でもこれ、赤いレース生地に真っ白なフリルがたっぷり付いているのだが。

 ほんと、常識でははかり知れん人だな。

 こんな女性もの、俺にプレゼントしてどうする気なんだ?


「なんだこりゃ。俺にはちょっと似合わないかな。十河、使う?」

「うん、いいけど。これで拭いてあげようか、汗」

「勘弁してくれ。正直に言おう、心臓が爆発しそうなんだ。これ以上は……」

「ふふっ。じゃあ、心臓にハンカチを当てたりしたら、どうなっちゃうのかな?」


 悪戯っぽく、かなり怖いことを言いながら十河が両手を差し出してくる。

 俺は箱から縁がフリルで飾られた真っ赤なハンカチを取り出して、十河の手に赤いスケスケのパンティーを乗せた。


「ばかな!!!! どこですり替わった!? てか、えろ……」

「っきゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「ぐばばばばばばばばばばばば!」


 俺が何をされているのか、意識が飛ぶ前に少し考えてみよう。

 十河は、下着を俺の胸に突き返したのだろう。

 それはよくある反射行動だ。

 でも、考え方によっては、さっき君が言った実験を行動に移しただけなのでは?

 ちきしょう。今日こそ付き合えると思ったのに、お迎えが来ちまった。


 俺はそのまま意識を失い、十河と出会って以来最大のチャンスを棒に振ることになるのだった。



 生きてたら、続く。

 走馬燈に続いていたら、がんばれと声をかけて欲しい。


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