mother´s love

 コギト達三人が洞穴を抜けると、その先には、休火山の火口が見えた。

 「ここが……」

 「山頂……?」

 「らしい、ね……」

 ロブ、ハナ、コギトの順番に呟いた。

 その時、火口から、何か巨大な物が昇ってきた。

 「何だあれ、UFO?」

 コギトが呟いた。

 「何それ?」

 ハナが聞くと、

 「未確認飛行物体の事」

 コギトが答えた。

 「……ふーん」  

 ハナが呟いて、三人はそれぞれの武器を抜いた。

 UFOらしき物体はコギトの斜め上まで浮かぶと、円錐形の光を地面に放った。

 そこから、球体が降りてきた。

 中身が何やら液体で満たされたその中には、角と尻尾が生えた、ひょろ長い何かがいた。

 『やはり来ましたか』

 「……あなたが、サンドロスですね?」

 『察しがいいようですね』

 自らをサンドロスと認めた宇宙人がそう言った瞬間、

 「きゃっ!?」

 ハナが吹っ飛んだ。

 「ハナちゃん!?」

 『コギト、あなたの一族、特にあなたの曾祖父と曾祖母、ジョニーとユリには本当に感謝しています』

 「うぐっ!?」

 ロブが吹っ飛んだ。

 「ロブ君!」

 『幼かった私を本当の母親のように育ててくれた、ユリ』

 「うぐっ……!」

 コギトの体がくの字に曲がった。

 『私達に、この星の遥か昔に失われた技術を教えて、私達の技術と結び付け、PSIの研究を手伝ってくれた、ジョニー』

 「ぐっ……!」

 コギトが一歩後ずさった。

 『そして、遥か彼方の星に飛ばしても、この星の意思が呼び戻した、コギト!あなたの事だ!』

 「うわあっ!」

 コギトは、吹っ飛ばされた。

 「う……。そっか、私がこの世界に来たのって、それが理由だったんだ……」

 三人は、よろよろと立ち上がった。

 「サイコキノシールドβ!」

 コギトは、左手の『シルバーバトン』をサンドロスに突き付けて叫んだ。

 『その程度ですか』

 サンドロスは憐れみの感情と共に、正体が掴めない攻撃を再開した。

 「うぐ!」「うわっ!」「きゃっ!」

 三人は、同時に吹っ飛ばされた。

 「……さっきよりは、痛くないけど……」

 「ドラゴンの時みたいに、完全に防げる訳じゃないのね……」

 『もうお帰りなさい、醜いこの星の人達と滅んでください。その、虫ケラのような力では、どうにもなりません』

 「うぐ!」「あっ、ぐ……」「きゃうっ……!」

 「っ、例え、虫ケラみたいでも、こんな所で逃げ帰るワケにはいかないんだ!」

 ロブが、血を吐くかのような形相で言った。ゆっくりと立ち上がった。

 「そう、よ!」

 ハナが、己を奮い立たせるかのように立ち上がった。

 「…………」

 コギトは、ゆっくりと無言で立ち上がった。その目には、何の感情も窺えなかった。

 『……コギト、あなただけなら助けてあげてもいいです。私と一緒に、上のマザーシップに乗りなさい』  

 「……そう、だね。それもいいかも」

 「コギトさん!?」「コギト!?」

 「何て、言う訳ないでしょ。友達置いて、あなた達の仲間には、なりません」

 コギトは、微笑んで言った。

 『ならば、その友達とやらとこの星と共に眠りなさい』

 「げほっ……!」

 今度は、コギトだけが吹っ飛ばされた。

 「……シュアッ!」

 コギトは立ち上がると、サンドロス目掛けて走り出した。

 『無駄です』

 コギトは、何度も何度ものけ反りながら、それでも走るのを止めなかった。 

 『っ!』

 コギトは、サンドロスの眼前まで迫ると、

 「シュアアアアアッ!」

 勢いを止めずに、『シルバーバトン』で切りかかり、菱形の軌跡を描く斬撃を繰り出した。

 無印流剣術むじるしりゅうけんじゅつ奥義、『花鳥風月』。

 「ディエエエエイッ!」

 コギトは、『シュトロームソード』で斜めになった、少しだけ歪んだ正三角形の軌跡を描く斬撃を繰り出した。

 無印流剣術奥義、『雪月花』。

 繰り出された七つの斬撃は、サンドロスの入ったカプセルを切り裂き、叩き割った。

 「シュアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 コギトは、渾身の右突きを繰り出した。

 『シュトロームソード』の切っ先がサンドロスの体に触れて、 

 『う、あああああああああああああああ!』

 サンドロスが叫び、コギトが吹っ飛ばされた。

 「うっ、ぐ……!」

 コギトは、二人の側にまで転がった。

 『……あなたの、その努力は認めましょう。ですが、無駄だと言ったはずです』

 「コギト、大丈夫!?」

 ハナがコギトに駆け寄った。

 「大丈夫、だけど……、あれが、最後の切り札だったんだ……。万策尽きた」

 「そんな……!」

 「何か、何かないのか!?力じゃなくても、あいつを追い払える方法……!」

 ロブが言った、その時だった。

 「……ライフアップ、Ω」

 コギトは、ライフアップΩを閃き、唱えると、ゆっくりと立ち上がった。大きく息を吸って、

 「サンドロス!私はこれから、最後の賭けに出る!これでダメだったら、本当に打つ手がないから、ここで大人しく死んでやる!」

 『……それはまた、大きく出ましたね。いいでしょう、見せてご覧なさい』

 サンドロスは、余裕たっぷりに言った。

 

 Time is frow……

 

 『!?』

 

 Looks wind and……

 

 コギトは滑らかに歌おうとして、

 「がっ!?」  

 体をくの字に曲げた。

 『何かと思えば、歌ですか。ふざけているのですか?』

 「コギト、何を!?」

 「……いいから、いいから歌って。私のひいおばあちゃんが残した、あの歌を……!」

 『何をふざけた事を……!?』

 

 Time is frow……

 Looks wind and water……

 

 ハナは、少しだけ音痴な歌声で歌おうとして、

 「ぐううう……!」

 激痛に身をよじった。

 『歌うのをやめなさい……!?』

 

 Time is frow……

 Looks wind and water……

 Life is no……

 

 ロブが、可もなく不可もなく歌おうとして、

 「ぐあああっ……」

 首をおさえつけた。

 『いい加減に……!』

 

 Time is frow……

 Looks wind and water……

  Life is no forever……

    

 「ふああぁっ、あ、ぐっ……!」

 コギトは、苦しそうに胸をおさえた。

 『う、歌を止めろ……!』

 サンドロスが手をかざした、その時だった。

 

 Time is frow……

 Looks wind and water……

 Life is no forever……

 Because I……

 

 聞き慣れない歌声が、アニーの声が聞こえて、洞穴からアニーが出てきた。

 「うぐっ!」

 『なっ、何だ、お前は!?』

 「何って、友達だよ、コギトの最初の友達!」

 『……歌うのを、止めなさい……!』

 「おいおい、そりゃねえだろ」

 エドが洞穴から現れて、

 

 Time is frow……

 Looks wind and water……

 Life is no forever……

 Because I sing song……

   

 渋い歌声で歌おうとして、

 「ぐっお!?」

 脇腹をおさえた。

 「アニーちゃん、エド!どうしてここに!?」

 「傷を癒してここに来たんだよ」

 エドが、何でもないかのように言って、

 「お医者さんとヒーラーさんと私で、がんばったんだから!」

 アニーが、少しだけ胸を張って言った。

 『う、歌うのを止めろ!』

 サンドロスは、明らかに動揺の色を見せた。

 「いやだね。これはひいおばあちゃんの……あなたの母親が、あなたのために思い出した歌なんだ!」

 コギトが、叫ぶかのように言った。

 「皆、揃えて!いくよ!せえ、のっ!」

 

 Time is frow……

 Looks wind and water……

 Life is no forever……

 Because I sing song hopes and love……

 My hope to go down some one……

 

 五人は、心の底から歌い上げた。

 この戦いが終わるように、願いながら。

 『…………!!』

 サンドロスの動きが止まった。

 

 『ナゼコノワタシガウタナドニマケタンダ……』

 「言ったでしょう、ひいおばあちゃんが、あなたのお母さんが最期に遺した歌だって」

 『ソウ、ダッタナ……』 

 「そうですよ。……そういえば、今回どうしてこの星に襲撃なんてかけたんですか?」

 『……チョット、マッテ……。ああ、こっちの方が喋りやすい……。なぜこの星に襲撃をかけたか?そんなの、人間がこの星を汚していく未来が見えたからですよ』

 「未来が、ですか?」

 『そうです。人間は、二百年前の戦争で、この星は汚れに汚れました。それを、あろうことか、この星の人間は忘れたんです。私は、そんなこの星の人間が許せなかった。許したくなかった……!』

 「……まあ、そうですね。図書館の奥深くにしか、戦争の資料が無いくらいには、皆、忘れようとしていましたし、ね」

 ロブが苦い顔になって言った。

 『それに、この星は今、いつか侵略を始めるのではないかと、とても危険視されています。私は、そんな連合の斥候に選ばれたのです』

 「なるほど。どこもそんな感じなんですね」

 コギトが、納得した様子で言った。

 「どこも?」

 ハナが首を傾げた。  

 「うん。宇宙やら世界やら股にかけて活動する師匠に教えてもらったんだ」

 「何それ……」

 「私にもよくわからない」

 『私は、これから連合の説得に向かいます。ですが、どうか忘れないでください。この星が、危険視されている事を』

 「ええ。……でも、少しだけでいいですからこの星の人達を信じてあげてください。宇宙一ちゃぶ台が似合う宇宙人が、人間がすぐに滅ぶと予言した遥か未来にも生き延びて、元気に宇宙開拓している世界だって、あるんですから」

 『……そう、ですか。では、この星が醜くなった時、私はまた現れましょう。それまでは、さようならです、この星を愛する子ども達よ』

 サンドロスは、マザーシップから伸びる光を浴びて吸い込まれると、去っていった。

 この星から、飛び去った。

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