私の歌を、あなたに

 「…………う、ん……」

 コギトは、少し呻いて、

 「っ!」

 ガバリと起き上がった。

 コギトが辺りを見渡すと、そこは、

 「山小屋……?」

 コギトはそう言って、自分の体を見た。ジャケットとシャツがはだけていて、胸の辺りに巻かれた包帯が見えていた。

 「……師匠の技でも勝てなかった、か」

 表情を曇らせて呟いた。

 「あ、目が覚めた!」

 ハナが部屋に入りながら言った。

 「ハナちゃん……」

 「どこも変な所はない?痛い所はない?」

 ハナは、コギトの顔を心配そうに覗き込んだ。

 「うん。殴り飛ばされちゃったけど、ね。ところで、ここは?」

 「トッダ山の中腹の山小屋よ」

 「そっか。ハナちゃんは大丈夫?」

 「え、ええ。ちょっと前まで背中が痛かったけど、もう大丈夫」 

 「そう。良かった。アニーちゃんとエドは?」

 コギトが聞くと、ハナは表情を暗くした。

 「ど、どうしたの?まさか……」

 「いえ、死んではいないわ。それに、アニーちゃんはもう戦えるくらいには回復してる。ただ……」

 「ただ?」

 「……いえ、見てもらった方がいいわ。エドは寝室にいるから、一緒に行きましょう。立てる?」

 「あ、うん。大丈夫、行けるよ」

 コギトは立ち上がると、

 「……あ、包帯取ってから行くから、あっち向いてて」

 なぜか薄く頬を染めて言った。

 「なんで顔を赤らめるのよ……。いいけど」

 ハナはそう言うと、コギトに背を向けた。

 コギトはそれを見てから素早く包帯を取り、シャツとジャケットの前を閉めた。

 「……よし、行こうか」

 

 コギトとハナが寝室に入ると、そこには、ヒーラーの男と、アニーと、なぜかトッダ山の麓にいた医者がいた。

 「コギト!」

 「アニーちゃん、良かった。……それよりも先生、どうしてここに?」

 「その話は追々しよう。まず、彼の容態なんだが……」

 医者はそこまで言って、場所を退けた。そこには、ベッドがあって、その上に、

 「……エド……」

 コギトは、エドの姿を見て絶句した。

 エドは、全身に包帯が巻かれた状態でベッドに横たわっていた。目を覚ます様子が無かった。

 「肋骨を中心に、全身が骨折していた。複雑骨折じゃないのが幸いだが、ここから当分動かせないな」

 「え、エドは、助かるんですか?」

 「ああ、こんな状態だが、本人の運がいいのか、はたまた生命力が異常なのか、命に別状はない」

 「……良かった……」

 コギトは、胸を撫で下ろした。

 「……良かったです、本当に……皆さんの怪我は、私だけだとどうにもならなかったですから……」

 ヒーラーの男は、安心した様子で言った。

 「……それで、先生、どうしてここにいるのか、説明していただけませんか?」

 「ああ、それなら、なけなしの勇気を払って、お前さん達を命がけで助けたヤツがいるんだよ」

 医者は、どこかシニカルな笑みを浮かべて言った。

 「あ、あのお……、それ、いります……?」

 不意に、コギト達の後ろ、寝室の入り口から声が聞こえた。

 コギトが振り向くと、そこにいたのは、

 「……ロブ君」

 「ひ、久しぶり……でもないか。四日ぶり」

 ロブは、ぎこちない笑みを浮かべた。

 「久し振り、ロブ君」

 コギトは、穏やかな笑顔で言った。

 「感動の再開の所悪いが、お前さん達、これからどうするんだ?」

 医者が言うと、

 「決まってます。傷が治った以上、ここから先に進みます」

 「……そうか。だが、こいつは無理だ。こいつの事は、今はどうにもならん」

 医者は、エドをちらりと見て言った。

 「……そう、ですか……。正直、私とハナちゃん、アニーちゃんにエドの四人でも、ボロボロになりながらようやくここまで来たので、ここから先、エドに抜けられると厳しいものがありますね……。ですが」

 コギトは、ロブを見て、

 「ここに、たった一人でこの山の中腹まで登ってきた人が一人、います」

 「え、でも……、戦車で、だよ?」

 「でも、一人で登ってきたのは事実でしょ?」

 「だけど、調べてみたら、ここから先は、あのカルデラ湖を迂回しないと登っていけないんだ。カルデラ湖の脇の道は、あの戦車じゃ通れないよ。……僕がいても……」

 ロブが俯いた、その時だった。

 「……おい……」

 エドが目を覚ました。

 「……おい、お前……、ロブって言ったか?お前、俺が踏み潰されたあのロボット、ぶっ壊したらしいじゃねえか……」

 「でも、それは戦車を使って……」

 「俺は、その戦車を動かせねえ。……俺は、一つだけ、大きな勘違いをしていたらしい。力だてじゃ、あいつらに勝てねえ。お前には、俺にはあまりない、ち、知恵ってやつを持っている。お前のその知恵と、ここまで、たった一人で登ってきたその勇気を、貸してやってくれはしないか……?」

 「…………!コギト、ハナちゃん、それに、アニーちゃん……!」

 「うん」「ええ」「なんだい」

 「こんな、こんな僕でも、この山の化け物と戦えるのかな?」

 「……勿論だよ、ロブ君。ロブ君のその知恵と勇気、私達に貸して?」

 「……エドさん。エドさんに代わって、今度は、力のない僕が戦う番です。あなたは、ここで傷を癒してください」

 ロブは、はっきりと、凛々しい表情で言った。

 「あ、ああ……、そうさせて、もらうぜ……」

 エドは呻くように言うと、目を閉じて、規則的な呼吸を始めた。

 「……あの、コギトさん、ハナちゃん、ロブ君。私、ここに残って、先生とヒーラーさんの手伝いをしてもいいかな?」

 アニーがどこか気まずそうに言った。

 「いいよ、気にしないで」

 コギトが言った。

 「それでロブ君。あの湖に、漁船があるの。でも、古くなっちゃって、エンジンがかからないらしいの。見てもらえる?」

 ハナが言うと、 

 「それくらいなら、すぐに直すよ。案内して」

 ロブが、胸を叩いて言った。

 

 コギトとロブとハナの三人は、荷物をヒーラーの男に預けて、湖岸に突き出た桟橋の側に停められた漁船に乗った。

 エンジンがかなり古くなっていたが、ロブは、手早くエンジンを直して、漁船のエンジンを動かした。

 「凄いね、ロブ君」

 「このくらい出来ないと、ここまで登ってきた意味がないよ」

 「ね、ねえ。操縦できるの?」

 ハナが心配そうに聞くと、

 「まあ、戦車よりはずっと簡単だよ」

 ロブがさらりと言って、漁船が発進した。

 

 十分後。

 「見つかったー?」

 コギトは右舷で自らの視力で、

 「ううん、どこにもない」

 ハナは左舷でPSIコオリαを応用して作り出した、溶けないレンズを使ってジョニー・コーディ博士の研究所を探していたが、一向に見つかる気配が無かった。

 その時だった。

 漁船のエンジン音が消えて、ゆっくりと止まった。

 「……エンジンが壊れたの?」

 操舵室に入ってきたコギトが、おそるおそる聞いた。

 「あー……燃料がなくなってたみたい」

 ロブは、顔を青ざめさせて言った。

 「ちょ、ちょっと!それってここで立ち往生って事じゃない!?」

 操舵室に入ってきたハナが言った。

 「そうだけど……ん?」

 「なしたの?」「何よ?」

 「魚群探知機に、変な反応が……」

 ロブが呟いたのと同時に、

 「ちょっ!前、前!」

 ハナが叫んだ。

 コギトとロブが前を見ると、湖面が盛り上がって、何かが浮上してきた。

 それは、一言で表すならば、

 「せ、潜水艦!?何でよ!?」

 コギトが、思わず叫んだ。

 「凄い……、何でこんな所に……」

 そう呟いたロブの目は、輝いていた。

 「わかんないわよ……。どうするの?」

 「さあ……」

 コギトは、呟きながら無線を手に取り、

 「すいませーん、ごめんくださーい!」

 周波数を合わせずに言った。

 『はい』

 潜水艦から、返事が聞こえてきた。

 「って、ええっ!?」

 『こちらは、特殊潜航艇S16です。……生体認証完了。コーディ博士。どうぞ、お乗りください』

 自らを特殊潜航艇S16と名乗った潜水艦は、三人が乗る漁船の右に横付けすると、その左側面を開いた。

 「潜水艦的にあり得ない動きした……」

 ロブが呟いた。

 「まあ何にせよ、行くしかないよ。行こう」

 コギトはそう言うと、S16が開いたハッチの中に飛び移った。ロブとハナも、それに続いた。

 

 十五分後。

 コギト達三人は、S16の中を進んでいた。

 「これ、設備が本で読んだ潜水艦の域を越えてるんだけど……」

 コギトは、キョロキョロと辺りを見渡しながら言った。

 「ねえ、コギト。それよりさっき、コーディ博士って言われてたけど?」

 ハナが小首を傾げると、

 「……多分、私の事ジョニー・コーディ博士と間違えたんじゃないかな」

 コギトは、おどけた様子で言った。

 「それ、ダメじゃん……。って、あれ!」

 突然、ロブが行く先を指さした。

 ロブが指さした先には、円筒形の透明な何かが直立していた。

 「何あれ、カプセル?」

 コギトは首を傾げたが、

 「って、あれ、人が入ってる!」

 コギトはそう言うと、カプセルに向かって走り出した。

 「え、ええっ!?」「ちょ、ちょっと!?」

 ロブとハナは、驚きながらコギトを追った。

 

 カプセルは何か液体で満たされていて、中には、エプロンドレスを着た、年端もいかない小柄な少女が浮かんでいた。

 「ひ、ヒト?」

 コギトに追い付いたハナは、小さく言った。

 「……いや、これは……」

 ロブが首を横に振って、

 「……手首とか、よく見たら繋ぎ目がある。だから多分、ロボットかな、と……」

 「誰の……、いやジョニー博士の趣味ね……」

 ハナが、顔をひきつらせながら言った。  

 その時、カプセルを満たしていた液体が引き始めた。

 「何だ?」「えっ?」「……何よ」

 三人が身構えた時に、液体は完全に引ききって、少女がカプセルの中で倒れた。

 「あっ、ちょっと!?」

 コギトがカプセルに触れると、カプセルの透明な部分が下に吸い込まれた。

 「大丈……」

 コギトが言いかけたその時、少女は目を開けた。

 「うおっ。だ、大丈夫?」

 「…………」

 少女は、コギトの顔をじっと見つめて、

 「……私は……、私は、イザナミ」

 「い、イザナミ?」

 「ええ、片仮名でイザナミ。コギト・コーディ。あなたを待っていました」

 「私を?」

 「そう。私の父はあなたの曾祖父ジョニー。外宇宙の彼方へ連れ去られて、そして帰ってきた人」

 「ジョニー博士が、私の曾祖父……」

 「私に与えられた使命、それは、あなたと、あなたのお友達を守る事」

 イザナミと名乗った少女ロボットがそう言った時、地鳴りのような音が聞こえ、揺れ始めた。

 「な、何だ?」

 ロブがキョロキョロと見渡すと、

 「ちょっ、ロブ、浸水!浸水してる!」

 ハナが指さした方向を見ると、隅の方から水が染み出していた。

 「……ジョニー博士、止めるって言ったのに」

 「え!?何!?」

 「私が目覚めると、この潜水艦、消滅する事になってるみたいですね」

 「ウソでしょ!?」

 ハナが目をむいて言った。

 「脱出は間に合いませんね♪」

 イザナミがいい笑顔で言った瞬間、

 潜水艦は、爆発した。


 「……ゲホッ、ゲホッ!」  

 コギトは、咳き込んで目を覚ました。

 「うう、シールドが間に合って、良かった」

 コギトは、爆発の瞬間に、PSIシールドΩを閃き、イザナミを含めた全員にシールドをかけていた。

 「大丈夫、ですか?」

 「んな訳ないよ……。シールドが無かったら今頃消し炭だよ……」

 ロブが呻くように言った。

 「何なのよ、せめて脱出の余地は残しておきなさいよ……」

 ハナは、天を仰いで言った。

 「……と、とにかく、頂上を目指しましょう。ここからなら、あと少しですから」

 イザナミがそう言った時だった。

 『ソウハサセルカ』

 そう言って現れたのは、ラストスターマンだった。

 「……お前は、エドが殴り殺したはずだ」

 コギトは、そう言いながら両腰の剣、『シルバーバトン』と『シュトロームソード』に手を伸ばした。

 『フン、ダカラ何ダ?アノきちがいハモウイナイ。こんどコソ、オまえたちヲころス』

 ラストスターマンはそう言いながら右手を持ち上げようとして、

 「させませんよ」

 突如眼前に現れたイザナミに右手を掴まれた。

 『ナッ、なんダ、オまえハ!?』

 「……解析完了。あなたの負けです」

 イザナミはそう言いながら、その右手をラストスターマンの胴体に当てた。

 その瞬間、ラストスターマンは吹っ飛ばされた。

 『ナ、なにヲ……、ガッ!?』

 立ち上がったラストスターマンは、突然苦しみ出して、五秒かけて爆発四散した。

 「イザナミ……ちゃん付けでいいかな?今の何したの?」

 「はい、コギトさん。共振現象はご存知ですか?」

 「えっと、エネルギーを持つ、系っていうのが、外部から固有振動数に近いエネルギーを与えられて、固有振動ってのを起こす、あれの事?」

 「ええ、そうです。対象のそれを手で触れて計測して、除細動器の要領で対象に計測した振動数と同じ振動を流し込んで爆散させる、『超振動波砲』という、私の唯一の武器です」

 「……何言ってるのか、さっぱりわからないんだけど……」

 ハナが、首を傾げた。

 「こ、今度教えるよ」

 ロブが言った。

 

 その後、コギト達は気を取り直して頂上を目指し、頂上まであと少しの所まで辿り着いた。

 「…………」

 コギトが振り向くと、そこには、爆発四散した怪物やロボットの破片や残骸が散らばる、凄まじくスプラッターな光景が広がっていた。

 コギトは、肩をすくめてから、歩き出そうとして、

 「っ、コギトさん。止まってください!」

 イザナミが叫んだ。

 「何?……って、この気配は……!ロブ君ハナちゃん、私達をボコボコにしたロボットだ!戦闘準備!」

 コギトは叫びながら両腰の剣を引き抜いた。

 「ウソ!?倒したはずだよ!?」

 ロブはそう言うと、ホルスターから『拳銃』を、ポケットからペンシルロケットを取り出しながら言った。

 「……直した、とか?」

 ハナが、腰の後ろのプレートメイスを引き抜きながら言った。

 コギト達の前に、エドの骨を折ったロボットが降り立った。コギトが付けた斬撃の跡と、ロブが戦車で風穴を空けた場所は塞がれていた。

 「私が先行します!」

 イザナミが言って、瞬間移動の如き速さでロボットの前に迫ると、両手を寸胴のような胴体に触れた。その瞬間、ロボットは軽くのけ反った。

 「……効いてはいますけど……!」  

 イザナミが着地した瞬間、

 「下がって!」

 コギトが前に出た。跳び上がり、 無印流剣術むじるしりゅうけんじゅつの原形となった師匠の技の奥義、怒濤の連続剣撃、『スプリームストリーム』を放った。

 「くそっ、硬い!?」

 装甲がさらに厚くなっていた。

 「……っ!PSIホノオΩ!」

 ハナは、PSIホノオΩを閃いて、ロボットに向けて放った。ロボットは地獄の業火と形容すべき蒼白い炎に包まれた。それでもロボットは効いている素振りを見せなかった。

 ロボットは、炎に包まれた拳をイザナミに降り下ろした。

 「がっ……」

 続けて、サッカーボールキックを叩き込んだ。

 「あぐっ……」

 イザナミは、地面を転がって、ロブの目の前で止まった。

 「だ、大丈夫!?」

 「え、ええ……。ですが……」

 イザナミはロボットを睨んだ。  

 ロブがそれに釣られて見ると、炎に包まれたロボットがコギトのハナに拳を降り下ろしていた。コギトとハナは、必死に避けていた。

 「決め手がない……。こうなったら……」

 イザナミは、何か覚悟を決めた様子で呟いて立ち上がった。ふらふらと歩き出した。

 「えっ?ま、まさか……、ダメだ、そんな事したら!」

 ロブがイザナミに伸ばした手は、エプロンドレスの裾を掴もうとして、空を切った。

 イザナミは振り向くと、ロブにそっと微笑みかけた。

 どこか、寂しそうな笑顔だった。

 イザナミは、ロボットに突っ込んで、コギトが付けた切り傷に手を突き刺した。

 「イザナミちゃん!?」  

 「……さようなら」

 イザナミは小さく言うと、ロボットを巻き込んで大爆発を起こした。

 

 「イザナミちゃん!?イザナミちゃん!?」

 コギトは、イザナミの残骸を揺さぶった。

 イザナミは、下半身が吹き飛んでいた。

 「ロブ君、何とかならないの!?」

 ハナがロブに掴みかかった。

 ロブは、無言でゆっくりと首を横に振った。

 「ここまで壊れていたら……、もう……」

 「そんな……!」

 「……う……」

 不意に、イザナミが小さく呻いた。

 「い、イザナミ、ちゃん……」

 「……コギト、さん……私は、もう、機能停止する、みたい、です……。さいごに、これ、を……、ジョニー博士が残した、あなた達が集めてきたであろう、歌の、最後の一つを……」

 イザナミは、息を吸う動作をして、


 ……My hope to……

  

 イザナミはそれだけ歌うと、目を閉じた。

 その左胸から、薄い何かが射出された。

 「……何これ」

 コギトはそれを摘まんでその表面と裏面を見た。その表面には、『Izanami´s Memory』と書かれていた。

 「メモリー、カード……?」

 コギトは、イザナミのメモリーカードを、大事そうにジャケットの左上、バッヂが付けられたポケットにしまった。

 その瞬間、世界がピンク色に染まった。

 

 コギト達が目を開けると、コギト達の目の前には、

 「クイーンリリー……!」

 コギトは、驚いて呟いた。

 「コギト、ロブ、ハナ」

 クイーンリリーは、コギト、ロブ、ハナの順番に見て呼びかけた。

 「そしてここにはいないけど、……アニー、エド。そして……、世界中の勇気ある子ども達と、ここまで読んでくれた読者の皆様」

 クイーンリリーは、そっと目を伏せて言った。目を開けて、コギト達をまっすぐ見据えて、

 「あなた達が集めた歌を、私に歌って頂戴?」

 「えっ、でも……、最後の歌も集めたんですけど、何だか中途半端なんですけど……」

 コギトは、困った様子で言った。

 「それでも、いいの。……今なら思い出せると思うの」

 「……皆」

 コギトは、困った様子で振り返った。

 「コギトさん」

 「お願い」

 ロブとハナは、頷きながら、短く返した。

 コギトは、覚悟を決めた表情で頷き返した。

 

 Time is frow……

 Looks wind and water……

 Life is no forever……

 Because I sing song hopes and love……

 My hope to……

 

 コギトは、滑らかに歌い上げた。 

 「これに……、一体、何の意味が……?」

 コギトは、首を傾げた。

 「…………」

 「クイーン?」

 「そう……、そう、こんな歌だった」

 

 Time is frow……

 Looks wind and water……

 Life is no forever……

 Because I sing song hopes and love……

 My hope to go down some one……

 

 クイーンは、ささやくように歌った。

 「……サンドロス……」

 「えっ?」

 「本当の子どものように、可愛がったのに、駄目だった……。尻尾を振ってた……でも……駄目だった……」

 クイーンリリーは、涙を流して、首を横に振りながら言った。

 「さ、サンドロスって……、敵の親玉の名前なんですけど……?」

 「そう……、あなた達がどうしても戦わないといけない、最後の……。ごめんねコギト、私はあなたのひいおばあちゃんなのに、何も、してあげられなかった……。あなたがこの星から地球に飛ばされた時も、止められなかったのよ……。サンドロスも、止められなかった……ごめんね、ごめんね……」

 「あ、あなたが……、私の、ひいおばあちゃん……?」

 「ああ、ジョニー!あなたの妻ユリです!あなたの待つ天国に、私も向かいます……!」

 クイーンリリーは、ユリはそう言うと、ユリの体が消え始めた。

 「コギト、さよならね……」

 「えっ……!?待って、ひいおばあちゃん!」

 「コギト!」

 「消えないで、待って!」

 「……これからも、頑張ってね!」

 ユリは、太陽のような笑顔になって言った。

 ユリが消滅したのと同時に、クイーンリリーの城が、マギカンティアが、崩れ去った。

 

 マギカンティアは、ユリの創り出した幻だった。

 

 コギト達三人は、気が付くとトッダ山の山頂の手前に戻っていた。その目の前には、文字が掠れた、墓石のような石があった。かろうじて、『…………ユリ、………………』と読めた。

 「……ひいおばあちゃん……」

 コギトは、放心した様子で言った。がくりと崩れ落ちようとして、

 「コギト、辛いだろうけど……」

 ハナが、そっとその体を支えた。

 「……わかってる。この先に、サンドロスがいる。……どうしても、戦わないといけないのは、わかってる」

 コギトは、ゆっくりと立ち直した。

 「……コギトさん、あの洞穴……」

 ロブが、墓石のような石の向こうに見える洞穴を指さした。

 「ロブ君でも、わかるの?……うん。多分、あの先に……」

 「敵の親玉が……、私のお父さんとお母さんを、あの子ども達のお父さんやお母さんを拐った奴が……!」

 「……行こう。これで、全て終わるんだ」

 「うん」「ええ」

 三人は顔を見合わせて頷いた。

                 ―続く―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る