ライブハウスの決闘

 四人が拍手喝采を浴びたその時、ステージにサングラスをかけた、髪型をオールバックにした青年が上がり込んできた。

 「よう!中々いい歌だったぜ!」

 青年は、いきなり四人に話しかけてきた。

 「……えっと、どちら様でしょうか?」

 コギトが首を傾げて言った。

 「俺か?俺は、ある時はしがないシンガーソングライター、またある時はしがない不良グループ、マッドネスフィスト団のリーダー、エドっていうんだ、よろしくな」

 「は、はあ……」

 「おい、そこの、真ん中の背の高いお前!」

 エドと名乗った青年は、コギトを指さした。

 「何でしょうか?」

 「言っておくけどな、調べはついているんだからな!お前が俺の可愛い弟分に恥を書かせた事は!」

 「子分……?ああ、あの、入国してすぐの頃に、絡んできた人の事ですか?」

 「ああそうだ!俺の子分を可愛いがってくれた礼はキッチリさせてもらうぜ!」

 「……わかりました。そういう事なら、私も出来る限りの抵抗を見せましょうか。ロブ君、私の剣、預かってて」

 コギトはそう言うと、ロブに剣帯ごと『シルバーバトン』と『シュトロームソード』を預けて、三人をステージの端まで下がらせた。

 「では、どうぞ」

 「そうかよ!おら行くぞぉ!」

 エドはコギトの眼前まで迫ると、その勢いを乗せてロブの『拳銃』から撃ち出される弾丸のような鋭い右ストレートを放った。

 「っ!」

 コギトは、腕の外側を沿うようにして、回転して避けた。エドの背後に回った瞬間、飛び退いて距離を取った。  

 「チッ……、おらぁ!」

 エドはコギトに向かって駆け寄ると、弾丸のような左フックを放った。

 「よっと」

 コギトは、気の抜けた掛け声を出しながら、半歩下がって避けた。続けて飛んできた右ミドルキックはしゃがんで避け、

 「シュッ!」

 地面スレスレのローキックを放った。

 「うおっ!?」

 エドは、この上なく綺麗に足払いされて、

 「シュゥアッ!」

 コギトがその上に覆い被さるようにして容赦なく鳩尾みぞおちに肘鉄を降り下ろした。

 「うおぉっ!?」

 エドはそれを見て、無理矢理体を左に捻って肘鉄を回避した。そのままゴロゴロと三回転してコギトから離れた。

 「くそっ……」

 エドが立ち上がりながら悪態をついて、

 「上手ですね」

 コギトは、立ち上がってエドを称賛した。

 「うるせぇっ!」

 エドは怒鳴り散らすと、コギトに殴りかかった。

 コギトは、今度は避けようとしなかった。

 「ディメンションスリップ」

 コギトが、ぼそりと呟いた。

 その瞬間、コギトがその場から掻き消え、コギトの顔面を捉えるはずだった左ストレートが空を切った。 

 「何っ!?」

 エドは、サングラスの奥で目を見開いた。

 その時、不意にエドの肩を誰かが叩いた。

 「あ?」

 「私の勝ちか、引き分けでいいですか?」

 肩を叩いたのは、コギトだった。

 「くっ、そ、がああぁぁぁ!」

 

 十分後。

 「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」 

 「もう、止めませんか?」

 「う、うるせえ!」

 エドは吠えたが、その顔に余裕はなかった。肩で息をしていた。

 「でも、もう立っているのもやっとじゃないですか……」

 「う……」

 「引き分けにしておきませんか?」

 「そうだな、はあ、はあ……。なあ……」

 「何ですか?」

 「お前のその強さを見込んで頼みがある。俺の両親は、この国の東にある山の化け物に殺されちまったんだ。山の名前は、ホーリートッダラゾキアマウンテン。トッダラゾキアとか、トッダ山とか呼ばれている山だ。あの山に登るのは、俺でもちと厳しいんだ。俺と一緒に、トッダラゾキアに登ってくれないか?」

 「…………」

 コギトは、直立不動のまま考え始めた。

 「頼む」

 エドは、頭を下げた。  

 「……私達も、トッダ山に用があるんです。ですから、一緒に行きますよ。ですから、頭を上げてください」

 コギトは、穏やかな声の中に決意を滲ませて言った。

 「ほ、本当か!?」

 エドは、頭を上げた。

 「はい。……皆、この人……エドさんも一緒に行く事になりそうだけど、いいかな?」

 コギトは振り返ってロブ達を見た。

 「目的他が同じなら嫌でも一緒に行く事になるわ。いや、別に嫌じゃないけどね」

 ハナが笑って言った。

 「おい、待てよ、お前達も行こうとしているのか?」

 エドが、驚いた様子で言った。

 「えっと、はい」

 ロブが言った。

 「止めとけ。あの山には、その辺の動物とは比べ物にならないような、あり得ない程の化け物がいるんだ。子どもが行って帰ってこれる場所じゃねえ。残るんだ」

 エドは、首を横に振りながら真剣に言った。

 「あの、私達、南の湿地帯を抜けてこの国に来たんですけど、それでも駄目ですか?」

 「何?本当か?」

 「ええ。証拠は、湿地帯の出口に置いてきてしまいましたが」

 「……なら、頼もしいな。四人共、頼めねえか?頼む」

 「いいですよ」「はい」「うん」「いいわ」

 四人は、頷きながら言った。

                 ―続く―

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