ライブハウスで歌唱

 コギト達四人は、なんとか日暮れまでに安めのシャワー付きの宿を見つけ出し、そこに泊まる事となった。

 「さーて……」

 コギトが、何となく机の引き出しを開けた時だった。

 「あれ、何だこれ」

 机の中に、紙切れが五枚入っていた。

 「ライブチケット……?」  

 紙切れは、ライブハウスに出入りするためのチケットだった。チケットがあった下に、『サービスです。使ってください』と書かれたメモ書きがあった。

 「サービス、ね……。おーい!皆ー!」

 コギトは、三人を呼んだ。

  

 「ライブチケット?」

 ハナがチケットを見て言った。

 「どうする?全員分あったんだけど、行ってみる?」

 「うーん、行ってもいいんだけど……、ロブ君とアニーちゃんはどうする?」

 「ええ、治安悪いんでしょ?止めとこうよ」  ロブが気乗りしない様子で言って、

 「ええー?でもさ、案外情報が得られるかもよ?」

 アニーが言った。

 「私は、ちょっと行ってみたいんだけどなー」

 コギトは、ロブに誘うように言った。

 「……ちょっとだけだよ?」 

 「よし、決まり。じゃあ、明日、行ってみるって事で」

 

 翌日。

 この日は、コギト、アニーの順番に起きた。

 「アニーちゃん、早起きなのね」

 「コギトさんの方が早いよ。何?日の出の三十分前起床って」

 アニーとコギトは、窓の側に立って、そんな会話を交わした。

 「まあ、私は、剣術と武術の訓練があるからね……。師匠の所で何ヵ月か過ごしたら、自然とこんな時間に起きるようになったんだよね。あれ?」

 コギトは、窓の外を凝視した。

 「どうしたの?……あっ」

 アニーが窓の外を見ると、そこには、

 「あれが、聖なる山、トッダ山、ね……」

 コギトが呟いた。その視線の先には、標高八百メートル程の、険しそうな山がそびえ立っていた。その後ろから日が昇っていたのだが、今は山頂を黒雲のような影が覆っていて、日は見えなくなっていた。

 「……あそこに、黒雲のような影が飛び去って行ったって言ってたのよね?」

 「うん。真夜中で暗かったけど、方角がピッタリ、トッダ山の方だったんだって」

 二人は、緊張した面持ちで話した。

 ほどなくして、ロブとハナが起きてきた。

  

 「さて、これがライブハウスか……」

 コギト達四人は、建物の前に立って、看板を見上げていた。

 看板には、『ストリップ劇場』の上から、無造作に『ライブハウス』のネオンサインがくくりつけられていた。

 「ストリップ、って、何?」

 ロブが首を傾げた。

 「うーん……、ロブ君にはまだ早いかもしれないね」

 コギトは、困ったような笑顔で言った。

 「さ、行こう」

 コギトはそう言うと、ライブハウスの中に入っていった。

 「えっ、ちょ、ちょっと!早いかもって何!?」

 ロブはそう言いながら、慌てて追いかけた。ハナとアニーも、それに続いた。

 

 受け付けの青年にチケットを見せた四人は、ライブ会場に入った。

 会場の照明は、ピンク色と紫が混ざったような色合いの光で四人を照らし、染めた。

 「ちょっと薄暗いかな……」

 ハナがそんな感想を呟いた時だった。

 「はーい、そこの子ども達!歌に興味があるのかな?」

 中年の男性に呼び止められた。

 「……私達、ですか?」

 アニーが、念のため聞き返した。

 「そうだよ!見ない顔だけど、まさかとは思うけど、旅人さん、かな?」

 「ええ、そうです」

 コギトは即答した。

 「あー、そうだったか、まだ子どもなのに、子どもだけで旅だなんて凄いねえ。で、どうなの?歌に興味があるの?」

 「あー……、歌うのは、好きですけど……、あっ、もしかして、歌ってもいいんですか?」

 「モチロンだよ。歌うのなら、景気のいい奴を一発頼むよ」

 「わかりました。……というわけだから、ほら、ステージ上がるよ。楽曲は、×××××ね!」

 そう言うと、コギトはステージに上がった。

 「えっ、ちょっ、僕も!?」

 ロブはそう言いながらもステージに上がり、

 「私、ちょっと音痴なんだけど……」

 ハナはあまり気乗りしない様子でほやきながらステージに上がった。

 「……ま、いっか」

 アニーは、流れに身を任せる事にした。

 「さて……、はーい!コギト、ロブ、ハナ、アニー、一曲歌いまーす!」

 コギトが言ってから、四人は歌い出した。

 メインの旋律、高音のパートをコギトが滑らかに歌い、

 それに随伴するように、ロブが少しだけつっかえつっかえに歌い、ハナがやや音程が外れた状態で歌い、

 メインの旋律より下、低音のパートをアニーが丁寧に歌い上げた。

 歌が終わると、四人は拍手喝采を浴びた。

                 ―続く―

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