第九章 荒れた国

ンイタンレバ

 湿地帯の出口に、胴長を履いて、丈夫そうで防水性が高そうなリュックサックを背負った、一人の少年と三人の少女がいた。丁度、胴長を脱いだところだった。

 コギト、ロブ、ハナ、アニーの四人だった。 「いやー、助かったよ、アニーちゃん。胴長貸してくれて」

 コギトは、アニーに言った。

 「ううん、いいんだよ。困った時はお互い様でしょ」

 アニーは、少し笑いながら言った。

 「へえ、この世界でもその言葉があるんだ」

 「まあ、ね」

 「ねえ、この胴長どうするの?」

 「泥だらけだけど……」

 ハナとロブがアニーに聞いた。

 「あー……」

 アニーは少し考えて、

 「そうね、そこの草むらに置いときましょうか」

 湿地帯の入り口より少し手前の草むらを指して言った。

 「本当はポイ捨てなんだけど……、仕方ないか」

 コギトは、ぼそりと呟いた。


 コギト達四人は、湿地帯を北に抜けて、ンイタンレバに辿り着いた。

 「ようこそ旅人さん。ンイタンレバへようこそ。……あの、本当に入国するんですか?」

 門番兼入国審査官は、コギト達を心配そうに見て言った。

 「と、言いますと?」

 「ここ最近、ずっと治安が悪いんですよ。警察よりもずっと強い不良グループが大きな顔をしているような状況ですよ?それにその……、あなた達、子ども、でしょう?」

 入国審査官は、心配そうに言った。

 「コギト、どうするの?」

 ハナがコギトに聞いた。

 「湿地帯を抜けてここまで来たんだ、入国しないと、案内してくれたアニーちゃんに悪いから、入国するよ。ところで、その不良グループって、どんな連中なんですか?」

 「非道ひどい連中ですよ。ゴミは道に捨てるし、苛立てばその辺にいる人を殴ったり、たむろするし」

 「そうですか。ところで、その不良グループの名前は?」

 「ああ、マッドネスフィスト団というそうですよ」

  

 「これは確かに、治安が悪そうだね……」

 ロブが呟いた。

 ンイタンレバの街中は、ゴミが所々に捨てられ、柄の悪そうな連中がたむろしていた。挙げ句の果てには、道路の隅に血痕のような痕が付いていた。

 「……早いところ、この国に滞在する間の宿屋を探そう」

 コギトがそう言った、その時だった。

 「おうおうおうおう!何ガン垂れとんじゃゴラァ!」

 「うん?」

 コギトが怒鳴り声がした方を向くと、十代後半の若い男がいた。服装が乱れたその姿は、チンピラを思わせた。

 「ごめんコギト、目、合わせちゃった……」

 ハナが、小声で謝った。

 「いいって、大丈夫だよ。任せて」

 コギトはそう言うと、ハナの前に出た。

 「今日こんにちは。どうかしましたか?」

 コギトは、若い男に話しかけた。 

 「お前の後ろのガキがよぉ、俺にガン垂れやがったんだよ!」

 「そうでしたか。私の連れが失礼な事を致しました。私が代わりにお詫びしましょう。すいませんでした」

 コギトは、軽く頭を下げて、

 「さ、行こう」

 ロブ達を押すように進ませて、その場から去ろうとしたのだが、

 「おう、待てよ姉ちゃん」

 コギトは、若い男に呼び止められた。

 「……何でしょうか?」

 コギトは、ゆっくりと振り返った。

 「なあ、お前、旅人だろ?旅人なら、いらねぇモンもってるんじゃねえか?腰の剣とかよ!それ、全部置いてけよ」

 若い男は、ニヤニヤ笑いながら言った。

 「それはお断りします」

 コギトは、キッパリと言い放った。

 「あぁ!?」

 「もう一度言いましょうか?お断りします」

 「……てめえ、いてこますぞコラ!」

 「ごめんロブ君、私のリュック、頼むね」

 コギトはそう言うとリュックサックを降ろして、ロブに預けた。

 「あ、うん……」

 ロブは、コギトのリュックサックを抱えた。

 「殺れるのならば、殺ってみてください」

 コギトは、一歩前に出た。

 若い男は駆け出すと、コギトに殴りかかった。不様な右フックを放った。

 コギトは、若い男の右腕を掴むと、右足に足払いを掛けて男を浮かせ、両腕を使って男を横回転させ、地面に転がした。

 「は?」

 地面に転がった若い男は、ポカンとした表情になった。

 「……無印流古武術むじるしりゅうこぶじゅつ奥義、『風車かざぐるま』」

 コギトはそう言い残すと、ロブ達を連れてその場を去った。

                 ―続く―

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