友達との再会

 翌日。

 この日も、コギトが一番早く起きた。軽く運動をしてから、

 「……今日は、研ぐのに集中しよっか」

 コギトは、いつもは右腰に差している『シルバーバトン』を研いだ。次に、いつもは左腰に差している『シュトロームソード』を研ごうとして鞘から引き抜くと、

 「あれ、これ……」

 コギトは、『シュトロームソード』の刀身を見て目を見開いた。

 「研がなくても、全然大丈夫だ……。なんでだろ……?」

 コギトは、首を傾げた。

 

 少年と少女と共に、コギトが用意した朝食を食べ終えた後。

 コギト、ロブ、ハナの三人は、荷物を纏めて、宿屋の外に出た。  

 「それじゃあ、ンイタンレバの国の人達に、言伝ことづてしに行ってきますね。……念のために言っておきます。期待はしないでください」

 コギトは、見送りに来た少年と少女に言った。

 「わかっています。それでもいいんです。とにかく、お願いします」

 「では、お世話になりました」

 コギトはそう言うと、頭を下げた。ロブとハナも、それに続いた。

 コギトは、頭を上げて、リュックサックを背負い直して、東の城門に向かって歩き出した。ロブとハナが、その後ろを歩いた。

 少年と少女は、その背中を、見えなくなるまで見つめ続けた。

  

 「コギト……」

 ハナが、どこか心配そうに話しかけた。

 「うん?」

 「あんな事、約束しちゃって良かったの?」

 「あー、まあ、普通はしないよね」

 コギトは、軽く頭を掻きながら言った。

 「じゃあ、どうして……!」

 「……こういう時、必要なのは人手だよ。そりゃ、人さらいとか出る危険性がない、なんて事は言わないけどさ」

 「それ以前に、他国に湿地帯抜けてまで助けに来るような国がどこにあるのよ。そんなの、聞いたことないわ」

 「期待しないで、とは言っといたよ」

 「……わかってはいたけど、あなたって、やっぱりお人好しなのね」

 「そうだね……、そうだったんだね」

 「んな、他人事みたいに……!」

 ハナが声を荒げようとして、

 「はいはい、止め止め!……とりあえず、言伝てだけはする、それで決まったでしょ?こんな不毛な会話を続けても意味ないよ!」

 ロブが慌てて止めた。

 「う……、そうね。ごめん、コギト。言い過ぎた」

 「いいよ、さっきの対応じゃ、怒っても仕方ないよ。私こそごめん」

 「……じ、じゃあ、気を取り直して、湿地帯に向かおうか」

 「うん」「そうね」

 

 「もう……!非道ひどい道だ……!」

 コギトは、珍しく苛立ち混じりに言った。

 湿地帯は、背の高い草と沼地が混合された場所だった。

 「湿地帯っていうくらいだから、予想はしてたけどね……」

 ロブが、げんなりした様子で言った。

 「それにしてもよ……」

 ハナが、うんざりした様子で言った。

 三人共、ブーツとズボンが泥だらけになっていた。 

 その時、突然三人の行く先のすぐ左にある沼の中から全長二メートル程の巨大なワニが現れた。

 やけに強そうなワニだった。

 強そうなワニは、三人を睨み付けると、ワニとは思えない程の俊敏さで三人に襲いかかってきた。

 「敵か!」「やばっ!」「ああ、もう!」

 コギトは『シルバーバトン』を、ロブは『拳銃』を、ハナはプレートメイスを両方引き抜いた。

 強そうなワニは、ワニらしからぬ動きで、ロブに体当たりを仕掛けた。

 「ちょっ!ディフェンスアップ!」

 コギトが慌ててディフェンスアップを試み、全員を一瞬琥珀色の光が包んだ。

 が、

 「うぐっ!?」

 ロブは吹っ飛ばされて、水溜まりに落ちた。

 「なっ!?」

 コギトは、驚いた。ディフェンスアップをかけて盛大に吹っ飛ばされた事は、ドラゴンと戦った時以外に無かったからだった。

 「PSIレーザーβ!」 

 それを見たハナが、PSIレーザーβを放った。レーザーは強そうなワニに命中したが、殆ど聞いている様子は無かった。

 「そんな!?」

 ハナは、愕然とした。

 強そうなワニは、間髪入れずにハナに尻尾を叩きつけた。

 「げほっ……!」

 「ハナちゃん!」

 コギトが慌てて強そうなワニとハナの間に割って入って、強そうなワニを蹴り飛ばした。

 「大丈夫!?」

 コギトは、ハナにライフアップαをかけながら聞いた。

 「ま、まだ何とか……。それにしても……」

 ハナは、強そうなワニを睨み付けた。

 「滅茶苦茶よ、アイツ……」

 コギトが強そうなワニを見ると、コギトの蹴りが全く効いていないと言わんばかりに、コギトとハナを睨み付けていた。

 強いワニは、コギトとハナににじりよってきた。

 不意に、強いワニの側にペンシルロケットが降ってきて、地面に突き刺さって、直後に爆発した。

 「……外した……!」

 ロブが、悔しそうに言ったのが、コギト達の後ろから聞こえた。

 強いワニは、ロブを睨み付けると、その頭をロブの方に向けた。

 「も、もう動けないのに……!」

 「……!」

 コギトが、右手を左腰の『シュトロームソード』に伸ばした、その時だった。

 「動かないで!」

 どこからか、少女の声が聞こえてきて、

 「たああっ!」

 背の高い草むらから、少女が飛び出してきた。飛び蹴りの姿勢だった。

 少女の飛び蹴りは、強いワニの横っ腹、丁度鱗が薄い場所に突き刺さった。

 強いワニは悶絶すると、もといた沼地に逃げ込んだ。

 「ふう、大丈夫でした?」

 少女は着地の姿勢から立ち上がると、三人の方に振り返った。

 少女は、白いシャツを着て、その上からベストを着ていた。沼地でも動きやすいように、ズボンの上から胴長を履いていた。

 髪は、はねっ毛の多い赤毛だった。

 「あ、アニー、ちゃん?」

 コギトは、ゆっくりと言った。

 少女は、コギトを見て、動きが止まった。

 「こ、コギト、さん……?」

 少女は、何とかそれだけ言った。

 「……さんは、いらないよ、アニーちゃん」

 コギトは、ゆっくりと笑った。

 「うそ、夢みたい……」

 「私もそう思った」

 コギトとアニーは、顔を見合わせると、クスクスと笑い始めた。

 「……あの、コギトさん、どちら様で?」

 水溜まりから上がったロブが、コギトに聞いた。

 「ああ、二人は初めて会ったんだよね。紹介するね。こちら、アニーちゃん。私の、最初の友達。勇気のバッヂをくれた娘。アニーちゃん、こちら、ロブ君にハナちゃん。旅先で出会って、一緒に旅に出る事になった、私の友達」

 「はじめまして、アニーです」

 アニーは、ロブとハナにペコリと頭を下げた。

 「はじめまして……」「はじめまして……」  

 ロブとハナも、それにつられて頭を下げた。

 「……何だか、皆、けがしてるみたいだから、私の別荘に来て。そこで手当てをするからさ」

 アニーは、三人を見て言った。

 「ありがとう……。じゃあ、お言葉に甘えようかな」  

 「こっちよ」

 アニーはそう言うと、コギト達三人を先導した。

                 ―続く―

 

 

 


 

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