住宅街へ

 翌日。

 コギトは、ホテルのフロントで国の地図を見つけた。  

 「おーい!あったよー!」

 コギトは、ロブとハナを呼び、地図をフロントのカウンターの上に広げた。

 三人は、地図を覗き込んだ。

 「えっと、カウンターの奥の方に行く方向が北だったから……こうか」

 コギトはそう言いながら、地図の向きを調整した。

 「えっと……、あっ、ここか」

 コギトは、早々に住宅街を見つけて指をさした。現在地点から地図の右側、すなわち東に『住宅街』と書かれた地域があった。

 「……早いね、コギト」

 ハナは、軽くを頬を膨らませて言った。

 「……どうして怒ってるの?」

 ロブがハナに聞いた。

 「そりゃあ、一番に見つけたかったからに決まってるでしょ」

 ハナが、頬を縮ませながら言った。

 「そ、そう……」

 「まあまあ。とりあえず、荷物を纏めて、ここに向かってみよう。……誰か、いればいいんだけど」

 

 コギト達は、住宅街に向かった。

 住宅街は、繁華街に比べて荒廃していなかった。人々が住んでいて、急にやって来たコギト達を見て、駆け寄ってきた。

 「き、君達は!?」

 一番前にいた三十代前半に見える男に話しかけられた。

 「こ、今日こんにちは。私は、コギトと言います。旅人です」

 「ろ、ロブです。コギトさんと旅をしてます」

 「ハナです。二人と一緒に旅をしています」

 三人の簡単な自己紹介を聞いた人々は、あからさまに落胆した雰囲気になった。

 「え、あの……?」 

 「あ、いや、失礼……よく考えたら、子どもが隣国から助けになんて来ないよな……。あ、いや、失礼だったな。すまない」

 男は、そう言ってコギト達に謝罪した。

 「い、いえ、謝らなくていいですよ」

 「し、しかし……」

 「いいんですって」

 「そうか……」

 「はい」

 コギトは、やや強引に押しきった。

 「それで、君達は繁華街の方から来たのか?」

 男は話を切り換えてコギト達に聞いた。

 「はい。……酷い有り様でしたけど、一体、何があったのですか?」

 「それが、信じられないだろうけどね……、一週間前、この国を黒雲のような影が覆ったんだ……」

 「黒雲……!?」

 ハナが驚いた様子で言った。

 「な、何だ?心当たりがあるのか?」

 「……私のお父さんとお母さん、黒雲みたいな影に連れ去られたの」

 ハナは俯いた。

 「何だって……!?」

 「僕達、黒雲の正体を突き止める事と、ハナちゃんの両親を助け出す事を目的に旅をしているんです。お願いします、黒雲の事、わかってる事、全部、何でも話してください」

 ロブが言った。

 「そうだったのか……。わかった。全部話すよ。……話を戻すよ。その影は、黄色い雷みたいな光をこの国の繁華街に落としたんだ。その光は、建物に落ちたら、その建物を縦に潰し、人に当たったら、その人を消したんだ。そしてその後が問題だった……」

 「何があったんですか?」

 「……繁華街に、影から降りてきた銀色の人型の何かが居座ったんだ。もちろん何人かは立ち向かったさ。だけど、皆殺されちまった」

 男とその他の駆け寄ってきた住民は、表情を曇らせた。

 「え、でも僕は死体なんて見かけませんでしたけど……」  

 「……ロブ君、私がわざと避けるルートを選んだんだよ」

 ロブの肩に手を乗せながらコギトが言った。

 「えっ……」

 「どれもこれも、レーザーγで頭を吹っ飛ばされたモノばっかりだったからね……。兎の解体を見れないのに、そんなの見せられないよ」

 コギトがあまりにもさらりと言ったので、住民達は顔をしかめたが、

 「なあ、コギトさん、だったか?……頼みがあるんだが……」

 「何でしょうか?」

 「その……、良ければでいいんだが……、繁華街まで、護衛してくれないだろうか?俺達だけだと、危険で……、コギトさん達三人は、繁華街を突破してここまで来たんだろう?」

 「いいですけど……、うん?」

 コギトの視線が、男の後ろに向いた。

 「な、何だよ?」

 男が後ろを向くと、そこにはこちらに向かって全力疾走してくる老人の姿があった。このままだと、男がいる場所を通る事になるように走っていた。

 「うおおっ!?」

 男は、慌てて横にずれた。

 走ってきた老人は、できたスペースに納まるように止まった。

 「た、助けが、助けが来たとはほ、本当か?」

 老人は、息も絶え絶えになりながら言った。コギト達を見るや否や、

 「なんじゃ……、子どもばかりじゃないか!嘗めおって!」

 顔を真っ赤にして怒り始めた。

 「じいさん、落ち着けよ。助けじゃなくて、旅人だよ」

 「なんじゃ、助けかと思ったら、旅人じゃったか……」

 「なんだはないだろう……」

 男は呆れた。

 「そうじゃ、儂の頼みを聞いてくれないかのう?」

 「……なんでしょうか?」

 コギトの声が急に冷たくなったが、

 「儂の屋敷を、化け物共から取り返して欲しいのじゃよ!」

 老人は、それに気づく事なく続けた。

 「化け物、ですか?」

 「ああそうじゃ、化け物じゃ!幽霊にゾンビに、挙げ句の果てには甲冑が動き出す始末じゃ!……拒否権なぞないわ!た、の、ん、だ、ぞ!」

 老人は言うだけ言うと、ズカズカと歩きながらどこかに去っていった。

 「……すまないな、コギトさん、ロブ君、ハナちゃん。あのじいさん、この辺じゃ名が通った成金なんだよ。だからかなあ、誰に対しても、あんな傲慢な態度なんだよ」

 「いえ、大丈夫ですよ、ああいうの、馴れてるんで」

 ロブは何でもないかのように言った。

 「そ、そうか?」

 「はい、あんなのはしょっちゅうだったので」

 ロブは、まるで昔を懐かしむかのように言った。

 「……で、どうするんだ?あのじいさんの事」

 「……どうする、コギト?」

 ハナがコギトに聞いた。

 「一応、両方受けます。まずは、遺体の方の回収から受けようかと思います」

                 ―続く―

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る