ダウンタウンの戦い
コギト達は、倒れた城門を踏み越えて国の中に入った。
国の中は、繁華街だったようなのだが、今は廃墟と化していた。
「これは……」
「
「廃墟一歩手前ね……」
暫く歩いた三人は、そんな感想を抱いた。
コギトは、崩れかけた建物の一つに、急に崩れてきても大丈夫な距離を保って近づいた。
「この崩れ方は……」
「コギト、どうかしたの?」
ハナが、そう言いながらコギトの左隣で止まった。ロブは、コギトの右隣に。
「私が最初に廃墟になった国に入った話をしたでしょ?」
コギトはロブとハナを交互に見て言った。ロブとハナは、それに頷く。
「……この建物……他のもなんだけど、その廃墟の中にあった建物と全く同じ崩れ方をしてるの」
「普通ならありえないね……」
ロブは崩れかけた建物を見て言った。
「……何があったんだろう……」
そう言ったコギトが周囲を見渡すと、
「あれっ?」
何かを見つけて声を出した。
「どうしたの?」
ロブが聞いた。
「……あれ」
コギトは、それを指さした。
その先には、ホテルがあった。明かりがついていた。
「開いてる……?」
ハナが呟くように言った。
「とりあえず、泊まれるか聞いてみよう」
コギトはそう言ってホテルに向かって歩き出した。
「当ホテルへようこそ、旅人の皆さん!当ホテルは誰でもウェルカム!お一人様銅貨一枚という破格の値段で一泊出来ますよ!」
フロントにいたボーイが言った。
「……銅貨一枚、ですか?いくらなんでも安すぎませんか?」
コギトが、首を傾げて言った。
「今だけの出血大サービスですよ!どうします?」
「コギトさん、嫌な予感がするよ。や、止めよう?」
ロブがコギトに言った。若干声が震えていた。
「コギト、どうする?」
ハナがコギトを見た。
「そう、だね……。もう疲れたから、今日はここで泊まるか」
「……杞憂で終われば良いんだけど……」
ロブも、渋々それに承諾した。
その夜。
コギト達が寝ている部屋のドアを、何者かが音を立てずに開けた。部屋の中は、真っ暗だった。入り口から部屋に伸びる通路は、外観に反して人が三人並んでも余裕がある程広かった。
何者かは、まっすぐベッドに向かい始めた。
その時だった。
突如、何者かは強い光に照らされた。
「何かしてくると思ったら……やっぱりでしたか」
何者かは、後ろから声をかけられた。やや低めの女性の声だった。
何者かは振り向いた。
何者かは、フロントでコギト達を出迎えたボーイだった。
光で照らしていたのは、コギトだった。その後ろには、ロブとハナが。
「お、起きていらしたのですか……」
「とぼけないでください」
コギトの左手が、右腰の『シルバーバトン』に伸び、柄を握った。
「仕掛ケルノナラ出シタ食べ物ニ毒デモ入レレバ良カッタナ」
ボーイの声が、顔の、そして体の輪郭が歪んだ。
ボーイの体は、徐々に星形になっていき、人のシルエットにも見える星形になった。
肌の色は、肌色から銀色に変わった。
「スターマン!?せ、戦闘用意!」
コギトはそう言って、『シルバーバトン』を素早く引き抜いた。ロブはホルスターからこの世界ではまず見かけない『拳銃』を抜き、ハナは腰の後ろからプレートメイスを二つとも引き抜いた。
『フ、フ、フ……。オまえガたおシタノハおれノむすこダ……。おれガ、おれコソガ、すたーまん!こんどコソ、オまえたちヲまっさつスル!』
スターマンはそう言うと、右手でコギトを指さして、PSIレーザーαを試みて、放った。
「っ……あれ?」
コギトは右肩をレーザーが貫くのを覚悟したが、レーザーはコギトの手前でかき消えた。
『ナッ!?さいこきのしーるどダト!?』
「サイコキノ……?」
「舐めないでよね、銀色人間」
ハナが言った。
「もしかして、今のハナちゃんが?」
コギトがハナに聞いた。
「そ、サイコキノシールド。PSIによる攻撃をある程度防げるの。……ひょっとして、使えなかったの?」
「私のPSI、身体能力を上げたりするのに特化してるみたいでね……」
コギトは頭を掻きながら言った。
『すきあ――』
スターマンが指をさそうとしたが、
「遅い!」
ぱん、ぱぱぱん。
『ウグアッ……!?』
ロブは、スターマンを躊躇せずに撃った。
「っとと、ちょっと油断した……、オフェンスアップ!ディフェンスアップ!」
コギトがそう唱えると、三人の体を一瞬琥珀色の光が包んだ。
「シュッ!」
コギトは、スターマンの眼前に踏み込んで、
「ヘアッ!」
右回転を加えて『シルバーバトン』で斬り上げた。スターマンの左腕を斬り飛ばした。
『グアアッ!?』
「シュアッ!」
コギトは、さらに回転して、左足で右回し蹴りを叩き込んでスターマンを吹っ飛ばした。スターマンは、壁に
『オ、オノレ……!れーざーγ!』
スターマンは、横たわったままPSIレーザーγを試みて、ハナ目掛けて放った。
「っ!」
コギトは、レーザーの射線に割り込んだ。それを見たスターマンは、歪んだ笑みを浮かべたように見えた。
コギトとハナを貫くはずだったレーザーは、五角形の対角線を中心で結んだような形に分かれた。
『なに!?』
レーザーは、コギトが着ているジャケットの左胸のバッヂの手前に集まっていった。
「その反応、息子と同じだ……!」
バッヂの手前に集まったレーザーは、球体になり、そして、
スターマン目掛けて、跳ね返された。
跳ね返されたレーザーは、スターマンの顔面を吹き飛ばした。
スターマンの体から力が抜けて、やがて消滅した。
「コギトさん、さっき、どうやってレーザーを跳ね返したの?」
手に『拳銃』を、引き金に指をかけない状態で持ったまま、ロブはコギトに聞いた。
「……この、勇気のバッヂの力だよ」
左手に『シルバーバトン』を握ったまま、コギトはバッヂに右手の指を触れさせて言った。
「スターマンの息子に勝てたのも、このバッヂのおかげなんだ」
「そっか……」
ロブは納得して何度か頷いた。
「まあ、なんにせよ、街がどうしてあんな有り様になっていたのか、わかったよね」
ハナが警戒しながら言った。
コギトとロブは頷いた。
「明日、住宅街に向かってみよう。国の人達がどうしているのかが知りたい」
コギトが言った。
―続く―
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