第五章 襲撃された国    

無人の街へ

 ドラゴンの甲殻から鍛え上げた、コギトだけの剣『シュトロームソード』を鍛え上げた後、コギトはエノキダ老人の元で、数日かけて『シュトロームソード』を使用した立ち回りの訓練をして、もう一つ、『ある技』の訓練をした。

 その間に、エノキダ老人はハナのために片手で持てるプレートメイスを二つこしらえた。

   

 「エノキダさん、ありがとうございました」

 右腰に『シルバーバトン』、左腰に『シュトロームソード』を差したコギトは、ペコリと頭を下げた。

 「ありがとうございました」

 「ありがとうございました!」

 ロブと、腰の後ろにメイスを差したハナも、それに続いた。

 「ああ、どうもな。……拵えた武器は、大事に扱えよ?」

 「はい!」「はい!」

 

 半日かけて、コギト達は山奥の村からコギトとロブが泊まっていた宿屋がある市街地に戻ってきた。

 「ロブ君、疲れてない?」

 コギトがロブに聞いた。

 「さすがに慣れた……とは、言えない」

 ロブが、少し疲れた表情で言った。

 「よければ、今日は教会で泊まっていってくれない?」

 ハナはコギトとロブに言った。

 「じゃあ、お言葉に甘えて」「あ、じゃあ……」

 

 コギト達は、ハナが住んでいる教会に着いた。 「あー、ちょっとホコリが積もってるし!」

 ハナが頭を抱えて言った。

 教会の礼拝堂は、コギトとロブが最初に訪問した時より埃っぽくなっていた。

 「掃除、手伝うよ」

 コギトがハナに言って、

 「あ、同じく」

 ロブがそれに続いた。

 「ありがと。ホウキ取ってくるからちょっと待っててね」

 ハナはそう言うと礼拝堂の奥に消えていき、そしてすぐに箒を三本抱えて戻ってきた。

 「それじゃあ、三人で手分けしてやっていこ!」

 「はーい」「わかった」

 何とか夕暮れまでに掃除を終わらせて、その夜は教会の二階の部屋で眠る事になった。コギトは床に毛布を敷いて、ロブとハナは子ども二人までなら一緒に寝れる大きさのベッドで寝た。

 

 翌日。

 コギトは日の出の少し前に起きて、教会の外に出て無印流剣術、無印流古武術の訓練を、それぞれ三十分かけて行った。

 コギトは、次に『シルバーバトン』を抜いて刀身の状態を確認した。『シュトロームソード』も、同じように確認した。

 「ふう……大丈夫だね。さてと」

 コギトはそう呟いて、教会に戻っていった。

 

 コギト達は、小さな丸いパン、具がやや少なめのミネストローネに似たスープ、牛乳といったやや質素な朝食を用意して、テーブルについた。

 「じゃあ食べよう、か……」

 コギトが手を合わせようとして、ロブとハナを見た。 

 「…………」「…………」

 二人は目を瞑り、無言で何かに祈っていた。

 「……」  

 コギトは、祈り終えるまで待っていた。

 やがて、祈り終えた二人は目を開けた。

 「……じゃあ、食べましょうか」

 ハナがコギトとロブを見て言って、パンを手に取った。少しずつちぎって、口に運び始めた。

 コギトがロブの方を見ると、ロブはミネストローネに似たスープを飲み始めていた。

 「…………」

 コギトは、自分の分の食事を見て、

 「……いただきます」

 小さく呟いて、パンを手に取った。

  

 朝食を食べ終えたコギト達は、荷物を纏めて商店街に向かい、食糧や砥石など、旅に必用な物を買い込んで、南の城門――コギトとロブが入国の際に通った門に向かった。

 「……えっと、コギトさん、どうしてハナちゃんを連れているのですか?」

 門番兼出入国審査官は、コギトに怪訝そうな視線を送った。

 「ハナちゃんが両親を探すのを手伝う事にしたのです」

 コギトは、きっぱりと言った。

 「……ハナちゃん?この方、信用できるの?」

 審査官は、ハナを見て言った。

 「はい、もちろんです!」

 ハナは、元気よく言った。

 「……そう、ですか。わかりました。……コギトさん」

 「はい?」

 「ハナちゃんの事、ちゃんと守ってくださいね?」

 「勿論です。守れる限り守ります」

 

 「そういえば、これからどこに向かうの?」

 雪道を歩きながら、ハナはコギトに聞いた。

 「えっとね、ここから南に三日歩いた所にある国に向かうんだ」

 「そ、そこに着いたら、雪道はなくなる?」

 いまだにおっかなびっくり雪道を歩きながら、ロブが言った。

 「まあ、一応南だし……多分大丈夫だよ」

 

 普通の暮らしをしていたなら、お昼のオヤツの時間帯になった頃。

 「出国早々、また兎鍋か……」

 雪を溶かしてお湯を作っておいた鍋にぶつ切りにした兎肉を投入しながら、コギトはぼやいた。

 コギト達はユキ国から南へ伸びる道のすぐ脇で夜営の準備をして、コギトがまた狩ってきた兎を調理した。解体は、コギトと、なぜかとても楽しそうにハナが行った。

 「まあ、やっぱり携帯食糧よりはマシなんだけどさ」

 コギトはおどけた様子で言うと、リュックから、ぺミカンという、野菜や果物や肉を炒めて動物性のあぶらで固めた、袋に入れて密閉しておくと長持ちする保存食を鍋に入れた。

 「ああ……、カレーが食べたい」

 この世界ではまず叶わない願いを口にしながら、鍋を少しかき混ぜた。

 「塩味にするか」

 コギトはそう呟いて、リュックから塩が入った小さな袋を五つ取り出して、袋を開けて塩を全て鍋に入れた。

 暫く煮込んで、今夜の夕食が完成した。

 メニューは、兎とぺミカンの塩鍋と、ハチミツ入りのお茶。

 「またずいぶん油ギトギトな料理ね……」

 ハナが鍋を覗き込んで言った。

 「いいや、冬山とか、雪の中だとこのくらい必用なんだよ?塩分も水分も、糖分だってれるんだから」

 三人は、ハナ、ロブ、コギトの順番で食べた。一人が食べている間に、他の二人が周囲を警戒していた。

 かなり早い夕食を終えると、世界はもう間もなく日が沈んで真っ暗になるところだった。

 「……寝よっか」  

 コギトはそう言うと、焚き火の確認をしてから、分厚い寝袋に潜り込んだ。

 「そうだね」「そうね」

 ロブとハナは同意すると、同じように分厚い寝袋に潜り込んだ。

 

 二日後。

 防寒着を脱いだコギト達は、ユキ国の南にある国に辿り着いたのだが、

 「城門が開きっぱなしだなんて……」

 コギトは、思わず呟いた。

 国の城壁は所々崩れ、城門は内側に倒れていた。

                 ―続く―

 

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