真夜中の機械人形

 「そんな事が……、申し訳ありません、知りませんでした……」

 校長は、申し訳なさそうに頭を下げた。

 コギトとロブは、のびてしまったファムを保健室に運び(コギトが担いで運んだ)、事情を校医に説明した。少しして校長が慌てて駆け付け来たので、コギトが改めて事情を説明し、今に至る。

 「いえ、私もロブ君にけしかけたような物ですし……、すいませんでした……」

 コギトも申し訳なさそうに頭を下げた。

 「だとしても、カツアゲはこの国では犯罪ですし、いじめなんて、もっての他ですし……ごめんね、ロブ君。気付いてあげられなくて」

 「い、いいんです……。多分、気付いて、そうなのかって聞かれても、違うって言ってただろうし……」

 ロブは、首を振った。

 「本当にごめんなさいね。ファム君と逃げ出したサガラ君、あと二人のお父さんお母さんには、よく言っておくからね」  

 「は、はい……」

 

 「よかったね、ロブ君。お咎め無しで」

 コギトは、廊下を歩きながら、隣を歩くロブに言った。

 「う、うん……。その……」

 「?」

 「あ、ありがとう……。背中を押してくれて」

 「いいんだよ、別に。最後に動いたのは君なんだから。私は、少しだけ力を貸しただけなんだよ」

 コギトは、笑いながら言った。

 

 その夜。

 比較的安めな宿屋を見つけ、滞在中、そこに泊まる事にしたコギトは、珍しく夜中まで起きていた。というのも、

 「……何なんだ、この音……」

 ガションガションという音が外から響いていたからだった。

 寝巻き姿のコギトはベッドから起き上がると、『シルバーバトン』をベッドに置きっぱなしにして、ブーツを履いて窓の前まで行き、カーテンを開いて、窓を開けた。窓から身を乗り出す。

 「んなっ……」

 コギトは、音の正体を見て絶句した。

 最初は、音の正体は人に見えたが、すぐに違う事が判った。

 人――人型のそれは、コギトがこの世界に来てから一度も見ていない、まさに『機械的』という表現が似合う動作で歩いていた。

 街灯に照らされて全貌が明らかになったそれは、錆色で、黄色く光る五つの目が頭に付いていた。間接はモーターで駆動していて、ややうるさかった。全身にびょうが打たれていた。 

 「ロボット……?」

 コギトの呟きを聞いたのか、ロボットは、コギトの方を向いた。

 「やばっ!」

 コギトは、慌てて顔を引っ込めた。

 寸前までコギトの顔があった場所を、レーザーが焼いた。

  

 「わっ!?」

 コギトが頭を引っ込めた直後、レーザーが部屋の中に入ってきて、天井に穴を空けた。 

 「んなろー……」  

 尻餅をついたコギトは立ち上がると、部屋の出入り口のドアまで下がり、

 「ふっ!」

 短く息を吐きながら窓枠目掛けて走り出した。三秒で窓枠の三歩手前まで辿り着き、

 「ほっ!」

 浅い角度で跳び上がり、

 「たっ!」

 窓枠に足をかけて部屋の外、つまり空中に躍り出た。

 「っと!」

 コギトは、左膝と左手を付いて着地し、ロボットと対峙した。

 「……」

 コギトは、無言で立ち上がった。

 ロボットは、ピッピッピッピッピとリズミカルに奇怪な音を立てて、五つの目からレーザーをコギト目掛けて発射した。 

 「っ!」

 コギトは、それを二メートル程跳び上がって回避した。そのままロボットの後ろに回り込んで着地した。

 「シュアッ!」

 コギトは振り向きざまに地面スレスレのローキックをロボットに浴びせて足払いをした。ロボットは仰向けに倒れる。

 「はっ!」

 コギトはロボットにマウントポジションを取ると、レーザーを発射しようとする五つの目を

右ストレートと左ストレートのコンボで叩き潰した。

 それを受けたロボットがコギトのお尻を蹴り飛ばして、コギトをどかした。

 「いった……!」

 コギトはお尻をさすりながら振り向いた。それと同時にロボットは起き上がり、コギトの方を向いた。

 ロボットは構えると、やや鈍重な動きでコギトに向かって駆け出した。

 「……!」

 コギトは待ち構えた。  

 『ピッピッピッピッピ!』

 ロボットは、左ストレートを放った。 

 「っ!」

 コギトは左腕の外側を回転しながら受け流しつつロボットの後ろに回り込んでロボットの背中を右足で蹴り飛ばした。ロボットは海老反りになってたたらを踏んだ。

 「ああっ!」

 コギトはロボットが振り向く前に近づいて、顔面に飛び蹴りを浴びせた。ガアン!という音を立てて、頭が吹っ飛んでいき、胴体がうつ伏せに崩れ落ちた。    

 「ふう……」

 コギトは、額の汗を拭った。

 コギトは、慎重にロボットの首の付け根を見た。

 「あれっ……!?」

 コギトは、中身を見て驚いた。

 ロボットの中身は、空っぽだった。

                 ―続く―    

 

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