第三章 機械人形の国    

野兎

 「……ん、う……」

 コギトは気がついて、素早く起き上がった。

 「あっれ、ここは……?」

 コギトは、洞窟の中にいた。

 コギトは辺りを見渡して、自分のすぐ隣にあるリュックと、オーパーツレベルの小型ライトを見つけた。コギトはライトを手に取り、ためすがめつ眺めた。

 「……よかった、壊れてなかった。こっちは……?」

 コギトは次にリュックを調べた。こちらも、どこも破れたりしていなかった。

 「うん、よかった。で……ここは?」

 コギトは、首を傾げた。

 「うーん……」

 コギトは、もう一度、今度はぐるりと体を一回転した。すると、

 「あれ、これ……!」

 コギトの後ろに、三メートル程の、桃色の巻き貝のような物体がそびえ立っていた。

 「元の場所に戻ったのかな?」

 コギトは、小さく首を傾げた。桃色の巻き貝を見上げる。  

 「……」

 コギトは、右手を伸ばして、指先で触れた。

 「……?」

 コギトの頭の中には、何も響かなかった。今度は大胆に掌をしっかりと押し当ててみるが、何も変わらなかった。

 「あれ?何でだ……?」

 コギトは手を離して首を傾げた。

 「うーん……」

 コギトは暫く考えたが、

 「まあ、かんがえてもわからないから、とりあえず外に出ますか」

 コギトはそう言うと、リュックを背負って、ライトを点けて、前方に真っ直ぐ伸びる道に足を踏み出した。

 

 コギトは、洞窟の出口から漏れる夕日色の光が目に入って、出口へ駆け出した。

 「うわあ……!」

 外に出たコギトは、思わず感嘆の声を漏らした。

 森が、川が、全てが煌めいていた。 

 世界は夕日色に包まれ、所々黄金色に輝いていた。

 「あっ、あれ、国かな?」

 コギトは、遥か遠くにある円形の人口物を見つけた。間違いなく国だった。

 「……でも、今日はここで夜営かな」

 コギトは、肩をすくめて言った。

 その時だった。

 茂みの中から、茶色の野兎が飛び出してきた。紅い瞳でコギトを見た。

 「……」

 コギトは一瞬考えて、音を立てないように、慎重にシャツの袖の中からやや大振りなナイフを引き抜いた。

 「……シュッ!」

 擦り切れるような短い気合いと共に、ナイフを兎に投擲した。

 ナイフは、兎が避ける間もなく、その小さな頭に突き刺さった。 

 「……よし、今夜の晩御飯だ」

 コギトは、小さくガッツポーズして言った。

 

 その後、乾いた枝や松ぼっくりを集め、洞窟の少し手前に焚き火を作り、水を布製のバケツに用意したコギトは、焚き火の前に置いた兎の頭からナイフを引き抜いた。兎の頭から少しだけ血が出た。ナイフは、兎を横たえたその右隣に置いた。

 「……」

 コギトは、目を瞑った。少しだけ経ってから目を開け、ナイフを手に取る。

 コギトは最初に兎の腹を首の根本から肛門までかっさばいて、内臓を全てかきだした。兎の血は、バケツの水で洗い流した。次に後ろ脚を脱骨させ、前脚の手首辺りも脱骨。開いた腹からナイフの刃を入れて兎の皮だけを外側に向けて切り取っていき、頭から尻尾の方までしっかりと切り取った所で、

 「よいしょっと」

 頭から皮を引っ張った。すると、毛皮が服を脱ぐかのように剥けていき、

 「おっとっと、そうだった」

 コギトがそう呟いて、前脚を折り曲げ、器用に、まるでズボンを脱がせるかのように毛皮を剥ききった。

 「よし……うまくいった」

 コギトは、少しだけ微笑んで言った。

 

 内臓を洞窟から離れた目立たない場所に捨てて、兎の解体に使ったナイフをしっかりと洗った後。

 コギトは、兎の毛皮を太い木の枝にかけてから焚き火の前に戻り、

 「ウサギ鍋かあ……。まあ、ちゃんと加熱しとけば大丈夫かな」

 ぶつ切りにした兎の肉を新しく水を汲んだ一人用の鍋に入れながら、そう呟いた。鍋を火にかけて、沸騰するまで待つ。

 「てててん♪てんてん♪てれててーてて♪てんてんてんてれててーてて♪……お、大丈夫だね」

 コギトは、水が沸騰し、兎の肉の色が赤ピンクから火が通った色に変わっているのを見て、塩を多めに入れた。さらに暫く待って、

 「んー……」

 肉の中でも一番大きな一切れをフォークで刺して引き上げて、切り崩した。中までしっかりと火が通っていた。

 「よし。兎の塩ゆで、完成」

 コギトは、満足げに頷いて言った。

 辺りは、すっかり暗くなっていた。

 

 「はあ……食べた」

 コギトは、兎に感謝しつつ、ゆっくりと味わって食べ終えた。どこか恍惚とした表情になっていた。

 「やっぱり携帯食料とは違うなあ……」

 コギトは笑顔でそう言って、鍋の片付けを始めた。

 

 

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