人捜し
コギトが暴漢三人を叩きのめした翌日の事だった。
コギトは、昨日と同じように朝早くに訓練をして、『シルバーバトン』は研がずに軽く拭いて、その後にシャワーを浴びて、朝食を食べた。
「さて、今日はどこに行こうかな……」
部屋に戻ったコギトが、外に行く準備をしながら、どこに行くか考えていた時だった。
部屋のドアがノックされた。
「コギトさん、ちょっとよろしいでしょうか?」
くぐもった宿屋の主人の声が聞こえてきた。
「あ、はい、何でしょうか?」
「ちょっとコギトさんに話があるって人が来てるのですけど……」
「……?わかりました、準備したら行きますんで、先に降りててください」
「承知いたしました」
ドア越しに主人がそう言うと、声は聞こえなくなった。
「さて、どちらさまなんだろ?……一応、剣持ってくか」
コギトはそう言うと、『シルバーバトン』を左腰に差して部屋を出た。
コギトが一階に降りると、背広を着た一人の三十代程の男が主人と一緒に受付のカウンターの前に立っていた。
「ご主人、この方が?」
「はい、そうです。コギトさん、こちら国長の官邸で働いていらっしゃる、エドワードさんです。エドワードさん、こちら、お捜しのコギトさんです」
「初めまして、エドワードさん。私は、コギトと言います。」
コギトは、ペコリと頭を下げながら自己紹介をした。
「初めまして、エドワードです」
エドワードと紹介された男も自己紹介を返した。
「コギトさん。急に来ておいて失礼なのは充分承知しております……。ですが、緊急のご用件があるのです。官邸まで来ていただけませんか?」
「その、緊急の用件とは?」
コギトは、小首を傾げながら聞いた。
エドワードは、ちらちらと周囲を見てから、
「……ここでは言いにくいのです。申し訳ありません、どうか、官邸に……」
気まずそうに言った。
「はあ……とりあえず、行きます」
コギトは、主人を見て、
「あの、私の荷物、部屋に置きっぱなしなので、部屋の鍵の管理、頼んでもいいですか?」
「あ、はい、いいですよ」
「お願いします。……それじゃあ、行きましょうか」
人当たりのいい笑顔をエドワードに向けながら、自分もこのくらいまでは回復したのか、とコギトは思った。
コギトは、エドワードに連れられて、国長の官邸に来た。
「さて……国長がお待ちになられております。急ぎましょう」
エドワードはそう言うと、足早に官邸の階段へ向かった。
「あっ、はい……」
コギトは、慌ててエドワードを追った。
コギトとエドワードが二階にある国長の執務室に着くと、一人の小太りの頭がかわいそうな禿げ方をした初老の男性が出迎えた。
「いやあ、コギトさん、この度はご足労いただき、ありがとうございます。私は、国長のゲハールです」
「お、おはようございます、国長さん。コギトです」
お互いに軽い自己紹介をしたところで、国長はコギトにソファーに座るように促した。コギトは、礼を言って座った。国長が、テーブルを挟んで向かい合ったソファーに座ったところで、エドワードは一言ことわってから退出した。
「あの、私を呼び出した理由とは……?」
コギトは、国長におそるおそる聞いた。
「いやあ、実は、コギトさんに折り入ってお願いしたい事がありましてね……」
「……?」
「この国では、最近ゾンビが出るようになってしまったんですよ……」
国長は、沈痛な面持ちで言った。
「ゾンビ……と言いますと、あの、死体が動く、っていう……?」
「そうなんです……」
国長は続ける。
「この国の南側には、共同墓地が広がっているのですが、人々の遺体が集まる以上、そこが一番ゾンビが出没する地点になっているのですが……」
「……なら、近づかなければいいのでは?」
「それがですね……アニーという少女が、二日前に遊びに行ったっきり帰ってこないと、相談、というより捜索願が出されましてね……。国中を捜索したのですが、一向に見つかる気配がない。となると、南の墓地にいるのでは?ということになりまして……」
「……なら、大人数を派遣すればいいのではないでしょうか?」
「それが……」
「?」
「コギトさんの言う通り、大規模な捜索隊を派遣したんですよ。そしたら……」
国長は、一呼吸入れて、
「誰も帰ってこなかったんです」
「そ、それって……全滅……?」
「……墓地内には教会があるので、生き残っている可能性は無くはないのですが……おそらく……」
「……」
コギトは、絶句した。そこまで状況がひどいとは思っていなかったからだ。
「そこで、最初に言ったように、コギトさんに折り入ってお願いがあるのです……。どうか、南の墓地に行って、アニーちゃんと、派遣した部隊の安全を確かめた上で、救出してきていただきたいのです」
「……わかりました。一つ、お願いがあるのですけど、」
「……なんでしょう?」
「部隊の総数は何人ですか?それと、アニーちゃんの特徴は?」
「あ、はい……。部隊の総数は、墓地自体がそれほど広くないので、五十人です。アニーちゃんの特徴は、ややはねっ毛が多い赤毛ですね。それと、バッヂを着けているとか」
「……わかりました。それでは、すぐに出発しますね」
「えっ、準備とかは……?」
「いなくなったのが二日前ということは、あまり猶予が残っていません。急がないと、手遅れになるかもしれません」
「そ、そうですか……」
「あっ、そうだ!国長さん!」
コギトは、何かを思い出して、大声を出した。
「ど、どうしました!?」
「墓地の地図を見せてください」
「あ、そ、そうですね!」
国長はそう言うと、慌てて机に駆け寄り、引き出しから地図を取り出した。コギトの前に戻ってきて、ソファーに挟まれたテーブルに地図を広げる。
「これが墓地の地図です」
「ありがとうございます」
コギトは一言礼を言うと、地図を端から凝視し始めた。
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