第三章
彼女の日常
夕方6時12分帰宅。
明日は土曜で休日だ。
コンビニで買ったまだ温かい弁当を食べてシャワーを浴びると、パルスマーカーを首に巻いてベッドに潜りこむ。
起動と同時に視界に半透明のスクリーンが映し出されて、いくつものアイコンが浮かぶ。
惑星の形をしたアイコンを選択すると、インストールされているタイトルのアイコンがいくつも並んで出て来る。
その中でジェットエンジンの様な形をした物を選択して、IDとパスワードを入れログインすると視界が切り替わり、同時に横になっているハズの身体が立っている感覚に変わる。
毎回の事で慣れてはいるが、馴染む事が出来ない感覚によろけそうになりながら辺りを見渡す。
鉄の地面、鉄の建物、行き交う人々も鉄の身体。勿論自身の身体も機械だが、形は女性の特徴を持っている。
女性型の球体関節人形が身体のラインにピッタリ合った金属鎧を着ているようなシルエットで、色はかなり目立つメタリックなピンク。頭からはポニーテールの様にケーブルタイプのアンテナが伸び、目に当たる部分や関節などから緑色の光が漏れている。
『ニュークリアス・リアクター ― Nucleus Reactor ―』というこのゲームは正式サービスを開始してからまだ半年も経っていないが、5年以上全感覚投入型ゲームの人気ランキングで上位17位までが不動だったこの世界に、既に12位にまで登って来ている人気急上昇中のゲームだ。
惑星その物が一つの巨大なリアクターで構成されていて、世界各地に突き出した無数のチャイルドリアクターが存在する。言わば惑星が親機でチャイルドリアクターが子機という感じの星の表面で、ダートスコープというロボットに乗ってチャイルドリアクターを占領しあうゲームだ。
視界の隅にメッセージが届いているのを知らせるアイコンが出ているのを確認して内容を見る。
『3つ目で18時ジャストに防衛戦開始。樽に入ったら援軍よろしく。』
樽とはクリスタルユニットを一部の人間が略して言い始めて広まった、言わばネット用語だ。そこから樽に入るというのがゲームへのログインを意味している。
今の時間は19時35分。この世界での戦闘時間は通常1時間なので、もう戦闘は終わってしまっている。間に合わなかった事を詫びる返信をすると街を歩き出した。
しばらく歩くと声を掛けてくる者がいる。
「遅いッスよ、リッカさん。防衛はギリ成功したッスけど今回結構削られたッス。援助お願い出来ないッスか?」
「こんばんはイギーさん。こっちは社会人なんですからぁー。責められてもこれ以上早くインするのは無理ですよぅ。援助はOKですよぉ?5メガまでなら。」
「助かるッス。ユニオンの方に入れといて貰えるッスか?」
了解のポーズを取ってウィンドウを操作する。そのまま手を振ってさよならの意を伝えて歩き出すが、イギーと呼ばれた骸骨のような形のロボットが付いて来る。
「今日は何する予定なんッスか?良かったらご一緒させて欲しいッス。」
「今日は中央でログインボーナス貰いに来ただけですよぅ。明日朝から用があるんで。」
「またゴスロリのイベントッスか?リッカさん可愛いッスからねー。いつでも送り迎えするッスよ?」
「ありがとーです。でも明日は違うんでぇーす。私の未来の旦那様の様子を見に行くんでぇーす。」
「っ! 彼氏できたんッスか!?」
顎に当たる部分に鉄の指を当てて小首を傾げるポーズを取って「どうかなぁー?」と言って再び手を振ってさよならの意を伝える。
骸骨型のロボットがその場でガックリと両膝を突くと両手も突いて項垂れるが、そのままにして歩き去る。
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