アーク

 クリスタルユニットに作られた惑星に全感覚投入するタイプのゲームにおいては、ゲームのタイトルと言えばその惑星の名前という場合がほとんどである。

 アークという名前で公開されたそれは稼働時人気が出なかった為に企業向けの競売にかけられる予定だった。

 魔法という概念がある以外はリアルを追及したそれは内部のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が普通に文明を築き発展し戦争して滅んで行く。

 人間の脳構造データから人間と同程度の人工知能を与えられたNPC同士が殺戮を繰り返す中でプレイヤーはオンライン倫理協定によって、あらゆる暴力や性的行為を禁止されていたためだ。

 人間とかけ離れた外見、しかも知的レベルが意思疎通出来るレベルに達していない相手で無ければ仮想空間であっても暴力・殺害行為に及んではいけない。

 よりリアルなバーチャルを味わえるようになったがゆえにより厳しい法律が作られた。

 これにより様々なクリスタルユニットのコピーが裏で出回り、オフラインで好き勝手している者が後を絶たない中で、管理者権限のあるオリジナルのクリスタルユニットは裏でも出回らなかった。

 今回アークのオリジナルクリスタルユニットが手に入ったのは倒産した会社の資産処分という事と、企業向けの競売にかけられる前に、倒産した会社の元社員であったとう事によって優先的に処分対象資産を買い取る事が出来たからだ。

 だからと言ってアークをそのまま個人的にオンラインに繋いで公開する事は法的に出来ない。故にインテリアとして半年間飾っていたのだが…


 会社の整理も終わり、部下だった者達の再就職の面倒を見たりといった事がひと段落した時、自分の再就職先は探さなかった。ゲーム会社に所属していたにも関わらず人事部と言う面接やスカウトと言った、人を集める作業や能力や適性に合った人員配置を考える部署にいたために、全感覚投入型ゲームその物には全く詳しくならないどころか自社製品に興味すら持たなかった自分がゲーム会社で再就職先を探すというのには疑問を感じたし、だからと言って他の就職先と行っても年齢とキャリアから難しいと言わざるを得ない。

 いささか燃え尽きたという感もあって、しばらく貯金を食いつぶして考えようという事にした。その判断材料にでもなればと自分が元いた会社がどういう物を作って売っていたのかを今更ながらに見てみる事にしたのだ。

 しかし現実時間の400倍もの内部時間の速度に初期設定されていたクリスタルユニットを半年もの間放置したために内部では200年前後が経過していたために現在どうなっているかは当時の資料やデータからは分からなかった。

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