初期設定
「さて…」
仕事も予定も何も無い不意の長期休暇を得た事によって、部屋に飾られたクリスタルユニットが目に入り意識する。
全感覚投入型のゲームに『怖さ』のような物を感じていたために、いわゆるレトロゲームと呼ばれるようになった、モニターとスピーカーを通して視覚と聴覚に情報を得るタイプのゲームしかしてこなかったために、クリスタルユニットへの全感覚投入については予備知識も何も無い。
聞きかじった噂程度の事故や注意をネットで詳しく調べてみる。
・痛覚遮断設定がリセットされた自作ゲームでショック死
・長期の感覚投入で餓死者続出
・長期の感覚投入による現実記憶の忘却により社会復帰困難者現れる
等々…
『クリスタルユニット、初心者、事故』の4つのキーワードでズラズラと出て来るタイトル群の中に一つ自分向きでは無いかというタイトルに目を着ける。
『自作クリスタルユニット初心者が一から始める管理者生活』
要点を解りやすくまとめられたそのサイトでのメインの説明は非常に文字が少なく、図解やスクリーンショットなどが多用され、より詳しく知りたい人は別ページへリンクされシステムやプログラムなどの専門的な部分も説明されていた。そして事故や事件、様々な問題点なども実例紹介という形で説明されていた。専門的な所は読んでも解らないのでメインページと実例のみをひたすら読みふける事半日。
全感覚投入用のグリアパルス無線のアンテナを複数部屋にセットして、首にパルスマーカーと呼ばれる機械を巻く。クリスタルユニットと情報のやり取りをするための台座型ソケットから無線機の親機へ直接ケーブルを繋ぐ。そして手探りで首の機械のスイッチを探し当て、捻るタイプのそのスイッチを入れてベッドの上の寝袋に入り横になる。
全感覚投入型のゲームでは肉体を動かす時に身体が動いてしまう。しかしゲームの中で動いているのと全く同じ動きをするわけでは無い。夢を見ている時に近いらしい。
人の寝相に個人差があるように全感覚投入中の動きにも個人差があり、慣れた人や適性の高い人はあまり動かないらしいが、人によってはかなり暴れるという話だった。
そのため全感覚投入型ゲームのために身体全て覆うカプセル状のクッションベッドなどもあるのだが、結構な値段がする為に一般に寝袋を使う方法が多用されている。
「まずはキャラメイクか…」
全感覚投入型のゲームにおいてのキャラクターメイキングでは主に二つの方法がある。
・一から仮想の自分を作り出す方法
・現実の立体スキャンと脳内サーチにより現実の自分そのまま、もしくはそれを元にキャラを作り出す方法
サイトの説明を思い出す。
『キャラクターメイキングにおいては現実を離れて仮想の世界で役になり切るつもりならば一から作る方がオススメではあるが非常に時間がかかるため、とりあえずダイブしてみたいならスキャンで良いだろうし、自分そのままに抵抗があるならスキャンデータを元にいじるだけならば設定で簡単に別人を作れるだろう。』
迷わずスキャンを選ぶ。
骨董品と呼べるパソコンとその近辺に配置された各種機械の中のスキャン装置から僅かな稼働音がする。
数秒も待てば、部屋のスキャン装置とグリアパルス無線機のスキャン機能のデータがリンクし自分そっくりな外装のキャラクターが出来上がる。脳内サーチにより更に〝自分らしく見える″補正がかかる。
改めて自分を客観的に見ると何とも言えない不快さがこみあげてくる。
40も半ばを迎えて額に僅かに入った皺を見て、簡単設定というウィンドウから20後半に予測修正を適用してみる。さらに同じページにあった全身のホクロの除去を選択。
「まぁこれで良いか…」
自分をどういじっても男前とは程遠いと分かりきっているので諦め半分にキャラ作成終了を選択する。
その他の設定で『レベル2を超える痛覚の遮断』『物理的肉体損傷の無効(肉体有・即時修復)』『管理者権限ON』『本人以外への管理者ウィンドウの不可視化』『現実刺激からの警報ON』
などなど、『暗視ON』や『筋力倍率5倍』等々プレイヤーでは決して使えない能力を含めた設定を終えて、まずどこに出現するかを世界地図から選択する。
人の多い所が良いのだろうが、この世界が今どうなっているのかは見当がつかない。村程度の場所の近くで周りに人がいない場所を選ぶ。
多少緊張しながら『降臨』を選択する。
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