第3話

ムクドリの大群はステージ上空で旋回しながらノドが潰れるかと思うほどの声で鳴いていた。あまりにも大きな鳴き声で、観客にはステージからのスピーカーよりも聞こえる程であった。動揺する多数の観客にメンバーは当然気づいていたが、それでもパフォーマンスを止めむしろ負けじと力が入った。ファンもそういったメンバーの必死さが伝わったのか、いつもより声援を送ってはいた。しかし、観客席やステージに大量のフンが落ち始めたことから場内は騒然となり、メンバーはMCのタイミングで舞台から下がって、一時中断となった。


幸いムクドリはその後5分程して飛び去り、ライブも再開された。


「皆さん、大丈夫でしたか?

ウチには雨女はたくさんいるけど、鳥女は居ないよね。」


リーダーのえみゅが早速MCでネタにして場を盛り上げ、メンバーも必死にパフォーマンスを頑張った。ファンも負けじとメンバーの熱意に応えて、なんとか無事終えることが出来た。ライブ終了後の楽屋ではその話題で持ちきりになった。


「何?あの鳥!」


「ムクドリっていうんだって。」


「ほら、駅前とか公園ですごい一杯飛んでるやつでしょ。」


「そうそう。ケヤキの木に集まるんだよ。」


「でも、木なんて無いじゃん。」


「だよねえ」


みきりんはこのライブの後にソロの仕事が待っていたので、楽屋での話もそこそこに慌ただしく会場を後にした。次の仕事場のビルの入口で車が止まった時に、スマホのイヤホンを外すと、ムクドリの鳴き声が車の窓を破ってくるかの様に聞こえていた。窓越しに上空を見上げると、ビルの隙間を埋めてしまうほどのムクドリが飛んでいた。

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