第3話 食料

(セフィーはどういう意図でこの場所を選んだんだろう)


 剛はこれからのことを考えようとしたとき、フと思った。


(食料も水もないような場所を選ぶほど馬鹿だとは思わないけど・・・・・・)


 剛は7個目のナイフが完成した時の壁の解放のことを思い出していた。

 

(7回目以降は干し草が無くなっていた・・・・・・初回サービスが終了したようなもんか。これから何を作るにしてもやっぱりヒモやロープは必要になるし・・・・・・あ、その前に食料と水か・・・・・・)


 無事、壁の解放ミッションをコンプリートしたのはいいが、壁の解放を進めると色々なことが分かった。

 が、一緒にこれからの課題も増えていった。

 スタート地点となったのは芝がまだらに生えている平原と森との境目辺りであったこと。

 倒木の根の株の年輪からとりあえずの東西南北を決め、東側に森があり、西側に平原が広がっている状態である。

 綺麗にとは言えないが大体の感じで南北に森と平原の境目ができ、東の森はしばらくすると大地が盛り上がりそこまで高くはないが山と呼べるほどの形になっている。

 西側の平原の先には岩山らしきものが周囲をグルッと囲むように連なっていて、平原側の近くには食料や水がないことが確定した。


「とりあえず、水と食料が付近にないか探そう。松明の替えの木の枝も一応持って行ってね。あと、網袋もか・・・・・・大体の感覚で1時間後に集合ってことで」

「分かりました」


 彼らのことを大臣衆と呼ぶことにした剛はその大臣衆が森の中に入っていく背中を眺めていると、とある感情が襲ってきたことに気付く。


「やっぱり俺も一緒に行くよ。カナとキラは俺と一緒ね」


 つまり寂しさが襲ってきたのである。


「他の皆は2人一組で行動しようか」


 大臣衆は軽く頷くと近くにいた者で組みを作り森に散っていった。


 大臣衆の装備は発探索にしては充実しているように見えた。

 縄でベルトを作りそこに石斧を差し込んでいる。また、松明の替えとなる太い棒を5つ束にして縄でまとめ、それをベルトに固定している。

 松明と言っても特に油などの燃料がある訳ではないのでそれほど長くは持たない。ただ棒が燃えているものを持っているだけなので1本で10分も持てばいいほうである。そしてそれほど明るくない。

 縄袋もベルトに差し込んでいるが、網目がかなり粗いので小さな木の実などはまず持って帰れないであろう。


 3本目の松明が消えそうになってきたころ、野イチゴのような形をした実が群生している一帯を見つけた。

 剛はその実をかすかに噛みちぎるようにして舌先で味を確かめる。


「うん。たぶんいける!」


 病気などで死なないと言っても吐き気や目まいに襲われる可能性を踏まえ、にわか知識で舌先にしびれがないかを確認した。


「王様。あれをご覧ください」


 キラが松明で斜め上方を差した。


「ん? りんご?」

「ちょっと獲ってきます」


 キラはカナに松明を渡すと身軽に木を登り、あっという間にリンゴのように見えた木の実をもぎ採り降りてくる。

 剛がその実を受け取るとその感触に違和感を覚えた。


(形はリンゴっぽいけど感触はなんか桃っぽくて少しブヨブヨというか柔らかいな・・・・・・)


「お切りいたします」


 そう言ってキラはその実を受け取ると石斧の石の部分で皮に切れ込みを入れ手で剥き始める。

 そして全部を剥き終えることなく果肉の部分をほじり取るようにして味見をした。


「たぶん大丈夫です」


 そう言って差し出されたその実を剛はかぶりつく。


「うん。めっちゃうまい!」



 そろそろ引き返す時間になっていたため、大急ぎで大きいリンゴ型の木の実を採取することにした。

 キラとカナがやすやすと木に登り木の実を地面に落としていく。

 剛はまず、地面に落ちている枝をガサっと寄せ集め即席の焚火を作り、明かりを確保してから木の実を拾い集め一ヶ所に集め置いていった。


(地面はこんなに木の枝や石が転がってたのか・・・・・・大臣衆は俺と違って靴履いてないしな・・・・・・・明日はワラジ作りだな・・・・・・)


 持ってきた縄網にいっぱいになったところで採集を終えて引き返すことにする。

 行きは注意深く歩いていたので松明3本分の時間がかかった距離だが、帰りはその半分の時間でスタート地点に戻ってくることが出来た。

 

 スタート地点にはすでにケイとコハルが戻ってきていて焚火に火をつけなおしてくれていた。

 ケイとコハルも剛たちと同じ木の実を縄網いっぱいに持ち帰っている。


 それから5分ほど経つとアルとクミが戻ってきた。

 そして、クミは全裸である。正確にはベルトはしていて石斧はそのベルトに差さっているのだが、はっきりと全裸であるのは間違いない。

 クミの手には脱いだ服の布の頭の穴の両側を袋状にした即席の木の実袋になっている。


(あの野イチゴを持ち帰ったのか)


 イリーナとオルガは二種類とも持ち帰ってきた。

 ウードとエリンは野イチゴを持ち帰ってきたのだが、野イチゴを持ち帰るのはやはり服を袋にしている。

 そして、裸を晒すのが女の方だということはおそらく彼らなりの気遣いだろう。


 初の食事は夕食となった。

 リンゴ型の果実は一つ余ったのだが、空気的に剛が貰うことにする。

 過去に食べたことがない味ではあったが、とてもおいしく食べることができ、腹もそこそこ満たされた。

 

「今日はもう寝ようと思うんだけど、見張りをたてようと思うんだ」

「はい」

「もしかしたら獣がいるかもしれないしね」

「それらしき唸り声は先ほど採集しているときに聞きましたが」

「あれ? ほんと? じゃあ、見張りはたてたほうがいいね」


 剛はケイとコハルを夜間担当に任命した。


「朝飯と夕食は皆で揃って食べて、そこで報告会をしよう。で、・・・・・・」


 剛はその交代制の詳細を大臣衆に伝える。

 ケイとコハルは夜間の見張りを担当する。それで何かあれば皆を起こす。

 昼はクミをベースの見張りにしてケイとコハルは昼に寝る。

 担当は一日交代ではなく、何かしらの状況次第で交代することはあっても基本的には担当は交代しない。

 これは剛がニート生活で培った、生活時間帯のサイクルを戻すことの大変さを考慮してのことである。


「まあ、今日は大変だろうけどよろしく頼むよ」


 剛が手を合わせて二人に謝る。


「ついでにと言っちゃなんだけど、夜することないと暇だろうからみんなの分のワラジを作ってほしいんだ」

「分かりました。ありがとうございます」


 大臣衆は感情がない為、草履を作ってほしいなどという欲に似た感情は無いはずだが、これが剛の気遣いであることは理解できたため感謝の言葉を添えて返した。

 

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