第2話 チュートリアル

(さて・・・・・・何から始めるか・・・・・・)


「君たちの名前を教えてもらってもいい?」

「ございません」


 石斧を持った女が答えた。


「あ、そうなの? じゃあ名前を決めようか」

「はい」

「一人目は・・・・・・」


 剛は一番左端の男に目をやった。


「君は『アル』にしよう」


 彼らは男女交互に並んでいるため次は女である。


「その次の君はイリーナ」


 要するに『あいうえお』順で名前をつけるつもりらしい。


「君はウード。で、次がエリン。その次がオルガ」


 そして石斧を持った女の番である。


「君はカナだ。次はキラ。君はクミ。君はケイ。最後の君がコハルね」


 剛は何となく満足そうな顔をしている。


「まずは人数分の石斧でも作ろうか」


 剛はそう言って指示を出す。


「アルは石を一カ所に集めてくれる? ウードは木の枝集めね。太めのやつと石を挟む用の小さいやつもね。他のみんなは縄づくり」


 そう言うと彼らは一斉に動き出す。

 剛はなんだか心地いい気分になった。



 10分ほどで剛はアルの石集めが終わった。


(そっか。石を集めろとは言ったけど石斧に向いている形のものだけを集めろとは言ってなかったか)


 しかし、辺りを見渡すと12畳のこの狭い空間にはもう他に石はない。


「これさ、石同士で叩いて石斧に合う様にしてくれる?」

「分かりました」

「ウードさ、木の枝はそれくらいでいいからこっちの石割りを手伝って」

「分かりました」




 2時間ほどで10本の石斧が完成した。

 が、四方の壁は解放されなかった。


(一度作ったものではダメなのか。新しい物じゃないと・・・・・・)


 剛は少し焦り始めていた。

 辺りがだんだん暗くなっていたからである。


(このままだと食料も水もないまま暗くなってしまう)


「焚火でもやってみようか」


 ちょうど良さげな細い木の枝と太い木の枝を用意して、太い木の枝に石の破片の尖った部分でグリグリと穴を開ける。

 細い枝をその穴に差し込み手をこするように棒を回転させた。


(結構しんどいし痛いな・・・・・・)


「アルとウードは交代でもいいからこれで煙が出るまでこすってくれる?」

「分かりました」

「煙が出たらこの干し草に火種を移すんだ」

「分かりました」


 結果的に15分ほどで火が付いた。

 アルは経験者かと思うほど手際よくウードとも交代をせずに火を熾して見せたのだ。


「優秀、優秀!」


 すると西方の壁が広がった。

 倍々の要領なので24畳ほどの広さで木があることも考慮しても十分に11人が寝ることが出来る広さになった。


(食料や水らしきものはまだないか・・・・・・)


 その時、剛は何か閃いたように焚火の中に入れられた太い枝を手に持った。


「松明! ってのはどうだろうか・・・・・・」


 するとまたもや壁が広がった。


(これはアイデア勝負ってとこか)


「次は網を作るからみんな縄を大量に作って」


 彼らも慣れて来たのか2時間ほどで石斧を作った時の3倍の縄が出来上がった。


(これなら色々な物を作るのにしばらくは持ちそうだ)


「これを小さくてもいいから編み込んで網を作って。うーんとじゃあ、それはアルよろしく」

「小さくてもいいとはどれくらいの大きさでしょうか?」

「うーんと50センチくらい。網目は3cmくらいかな」

「分かりました」

「他のみんなは石や色々な木大きさの木の枝を集めて。ついでに葉っぱも切り取って一カ所に集めて」


 その時、剛は一つ思いついた。


(灰。焚火の灰を作ったけどそれはどうなんだ?)


 剛は焚火の中に出来ていた灰を木の枝でかき出し、それを手に持った。


「灰だ!」


 何も起きない。


(これは文明ではなく『素材』ってことか・・・・・・木の枝とか石と同じ扱いなわけか)


 そのように剛が色々と思いを巡らせていると急に壁が広がった。


「え?」


 ハッとして見渡すとアルが立ち上がりこちらに網をこちらに持ってこようとしていた。


(文明が完成した時点で壁が広がるのか)


 ついでに彼らの能力についても気づいたことがある。

 50cmや3cmといった指示に的確に応えていたことである。


(俺の構造を真似たということはもしかして知識とかも俺と同じレベルなのかも知らない・・・・・・長さや編み方、網の四方の端の処理、指示していないのに俺の思っている通りになってる)


 剛はこの分だと指示を出すのがだいぶ楽になると思い少し肩の力が抜けたような気がした。


「じゃあ、それで網袋や網を二枚張り合わせて中に干し草を詰めて座布団にしてくれる?」

「分かりました」


 そんな網袋や座布団を剛は見たことがなかったが、形式上成立すればOKであることは50cmサイズの縄網で少し確信が持てた。


 辺りを見渡すと48畳の広さに木や石、干し草が点々と存在している。が、初めの6畳の頃と比べて明らかに屋外である感じがした。


(何となく6畳の広さだと外って感じがしなかったな・・・・・・)


 アル以外の彼らの終わりかけていた素材集めの仕事が増えたことに剛は少し笑いがこみ上げた。


(あーあ。終わりかけてた仕事が・・・・・・なんだかいじめっぽくなっちゃったなw)


「ごめん。とりあえず素材集めはその辺でいいや。次は木の枝を削ってヘラや手持ちスコップとかを作っていこう」


 そう言うとそれぞれに散っていた彼らは頷き、素材をまとめて置いていた剛の元へ集まってくる。


「じゃあ、とりあえず手持ちスコップとヘラでしょ、後はなんかあるかな・・・・・・」

「ナイフとかどうでしょうか? 石に縄を巻いて持ち手にする感じですが」


 カナが提案してきた。

 ナイフのアイデアにも、『あ、それいい!』と思ったがそれよりも提案してくれたことに驚いた。


「ナイスアイデア! それ採用!」


 剛はなぜだか嬉しくなった。


(アイデアまでくれるなんて至れり尽くせりだな。しかも感情がないから俺よりがダメダメでもイライラしたり嫌な顔したり拒否ったりしないってのが素晴らしいな)


「他にもアイデアある? なんでもいいから言ってみるだけでも言ってみて」


 すると、彼らからは色々なアイデアが出てきた。

 クワ、大きなスコップというかシャベル、縄網を長い棒の両端にぶら下げて天秤棒にして石や干しワラを運ぶ、何に使えるかは分からないが木の枝を縄でスダレ状に繋げた物といったものが提案された。


「全部採用! ところで誰か計算できる人いる?」

「簡単な物でしたら皆できます」

「じゃあさ、ここの広さが100k㎡になるのは何個文明というか道具を作ればいいか計算できる?」


 するとカナが皆を代表するように答えた。


「6畳を約11平方メートルとしますと13個で大体90k㎡になります。14個で100k㎡を超えますので14個が答えになるかと」

「あ、そうなの? なんかそう考えたらあっという間だな。100k㎡って途方もなくでかいから100個くらい必要なのかと思ったよ」


(じゃあ、今のアイデアを作ったとして・・・・・1,2,3・・・・・・)


 剛はこれまでの作ったものと先ほどの提案を含めた文明の数を数えてみた。


(あれ? 11個? もうすぐじゃないか・・・・・・)


「なんかさ、こうなったらあと三つ何とか作ってコンプリートさせたいよねぇ」

「でしたら木の槍と先端に尖った石をつけて石槍を作るのはどうでしょうか。鉄ではないので問題はないかと」

「カナ! それ採用!」


 すると、座布団と縄網を作ってきたアルが話に参加してきた。もちろん壁はすでに解放されている。


「さらに縄網を太く編んでロープというのはどうでしょうか」

「完璧! それでコンプリートだ!」

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