6畳の箱庭から始める建国サバイバル

はなか なるき

第1話 プロローグ

 皆方 剛(みなかた ごう)が目を覚ますとそこは庭のような6畳ほどの空間だった。

 ガラスのような壁がありその奥は煙なのか霧なのか分からない白いモヤがかかっている。

 空は青く、壁は高さ20m程の所で途切れている。

 四方をガラスで囲まれた6畳ほどの広さの中に剛と同じ背丈の木が生えていて、干しワラのような乾燥した草が山盛りに置かれている。

 また、土の地面に数個の石が転がっている。


 剛は体を起こして声も発せない程テンパり、辺りを見渡す。

 が、すぐに下を向き記憶を遡ろうと頭を回転させる。


「やぁ! 起きたかい?」


 どこからか声がした。

 辺りを見渡すが誰もいない。


「上だよ上」


 剛は言われるがまま素直に上を向く。

 そこにはスカートをヒラヒラさせながら空中浮遊をしているかのようにゆっくり降りてくるパンチラ少女がいた。


(あ・・・・・・!)


 ようやく剛の混乱して散らばった頭の中が一つのことに集中をして、ある意味正常に戻った。


 少女が6畳ほどの空間の地面に着地すると、


「ねぇ。どうだった?」


 少女はそれはそれはとてもうれしそうに聞いてきた。


「え?」


 剛はビックリした。

 逆に聞きたいことが山ほどあり、質問するのはこちらだとどこかで思っていたのかもしれない。


「どうだった? セフィーのパンツ!」

「え? パンツ!? あ・・・・・・え?」

「そ! 縞々のパンツ!」


 剛は悩んだ。


(見てないというべきか? それとも良かったですと素直な感想をいうべきなのか?)


「あ、嬉しくないわけないか! これはこれは聞くだけ野暮ってものでしたなーw」

(たしかに、こんなわけが分からない状態でも、なんかラッキーって思ったけど・・・・・・)

「なんたって神様のパンツなんてめったに見れるもんじゃないしね!」

「は? 神様?」

「そ! 神様!」

「え? 神様?」

「うん」

(あれ? もしかして痛い系の人か何かか? さっきもなんか浮かんでたし、超能力者か何かでその力ゆえに特殊な環境で育った痛い子ちゃんなのか?)

「で、君が王様!」

「は? 王様?」

「そ! 王様!」

「え? 王様?」

「そうだよー!!」


 何かにものすごく期待しているような、もしくは待ちに待ったこの日を迎えました的な満面の笑顔で話す「自称」神様は剛の顔を覗き込んだ。


「な、なんですか?」

「君は皆方 剛くん。30歳独身。社会人歴なし。趣味はアニメ・漫画・ゲームとAV鑑賞。他にやっていることはインターネットへの掲示板への書き込みってことかな」

「え? あ・・・・・・え? なんでそれを・・・・・・」


 痛い子ちゃんではあるが、ちょっと・・・というか、ものすごくかわいい初対面の少女に、自分のことを知られていることに剛は慌てた。

 個人情報的な物を知られているという不気味さや恐怖よりも恥ずかしさが勝ったようで、剛は硬直してしまっている。

 「自称」神様のセフィーはそれを見透かしたかのように話を続けた。


「まあ、そう恥ずかしがらなくてもいいよー! 知ってて君を選んだんだから」

「え? はあ・・・・・・」


 剛は委縮してしまい、あっという間に完全な上下関係が出来上がってしまった。


「剛くんはあれでしょ? ネットにさ、偉そうなことを書き込んで満足しているタイプでしょw」

「え、いや・・・・・・その・・・・・・」

「俺ならこうする。なんでそうしたんだよ。馬鹿じゃねぇの? みたいなことを書いてリアル世界の人たちのことを馬鹿にして自分の方が偉くて賢いっていう気持ちになってるでしょ」

「えっと・・・・・・いや・・・・・・」


 その動揺する剛の姿を楽しむかのようにセフィーの笑顔はさらにだらしない表情になっていく。


「そこで朗報でーす!」

「・・・・・・はい」

「君のような提唱者タイプの君には神様である私から王様になる権利をプレゼントいたしまーす!」

「・・・・・・はい」

「っていうか、もう王様でーす!」


 セフィーのテンションに図星を差されコミュ障が発症している剛はついていけなくなっている。

 痛い子ちゃんで自分より下だと思っていたのも束の間、すでに委縮して固まってしまってしまった。


「うーん。なんか君、今いろいろ説明しても話を理解できそうにないから、とりあえず石斧を作ってくれる?」

「え? いやムリです」

「なんで?」

「・・・・・・だって、作り方とか道具とかないし、材料もないし」

「はい? 石斧だよ? 道具が無くても君の手と石と木と縄があれば作れるよね?」

「いや、でも・・・・・・」

「君ってどうしようもない人間で口だけの人間だってことは良く知ってるけどさ自分を変えようと思ったことないわけ?」

「・・・・・・。」

「まぁいいや。 君が石斧を作るまで何にも始まらないし変わらないから。好きなだけそうやってジッとしてればいいよ」

「・・・・・・。」

「じゃあ、ばいばい!」


 そう言ってセフィーはその場で透明なるようにスッと消えた。


「え? 待って!」


 剛は取り返しのつかないことをしたような慌て方でセフィーを呼び止めようとしたが、間に合わなかった。


 ウジウジしていればこれまでは結局は誰かがやってくれた。別に自分じゃなくてもいいだろう。そういった「弱い」考え方は気がついても簡単に治せるものではない。



 それから3時間が経った。


 3時間も時間が経てば色々変わるものである。

 今回の剛に関しては心を入れ替えたという訳ではなく、時間が少し冷静さを取り戻させた。

 また、一人になったことで緊張からも解放されたのも3時間で冷静になれた要因である。

 そして、退屈や暇になったことが、『石斧でも作るか』と思わせたのだろう。


 剛は、まず両こぶし程の大きさの石を拾った。


(なんか石斧にしてくれと言わんばかりの形をしているな・・・・・・)


 そしてこの狭い6畳の空間に違和感をもたらしていた木のの前へ行き、枝を折ろうと力を入れる。 

 が、思ったように折れない。

 よって石で木の枝を叩いて折った。

 その枝にどのように石をとりつけるか考える。


 結果、小さめの二本の枝で石を挟み、その枝と持ち手の枝を固定することにした。


(括るヒモは・・・・・・どう考えてもあの干しワラみたいなのを編んで作れってことだよな・・・・・・)


 剛はネットで見た麻縄の作り方の動画を思い出しながら干しワラのようなものを編んでいく。



 1時間ほどで必要な分量の縄ができ、石斧をくみ上げていった。

 組みたては10分もせずに終わり、石斧が完成した。


 その時、音が鳴った。聞きならないメロディーだが、学校のチャイムのようなゆったりとした鐘の音である。

 同時に四方のモヤの壁がスッと消え6畳の部屋が12畳ほどの広さになった。

 

「おめでとー! やればできるじゃんかー!」


 セフィーがスッと現れた。


「じゃあ、私から最後のプレゼントだよ!」


 そう言って剛の後ろを指さす。

 剛が振り向くとそこには男女5人ずつ計10人の人が横一列に並んで立っていた。

 服はどう見ても原始人、いや、弥生時代風? な恰好で布に穴を開けてそこに頭を入れ、両横を紐で止めただけの簡素な物である。


「え? なんですか?」

「記念すべき君の国の国民でーす!」

「国民?」

「さあ! その石斧を誰でもいいから渡して!」


 よく分からないまま剛は1人の女に石斧を手渡した。


「はい! これで君たちは主従関係が結ばれました! 拍手!」


 セフィーはそう言って一人だけ拍手をして盛り上がっている。


「ま、そんなことしなくても初めから君の家来ではあるんだけど、なんというか何となく区切りとしてやってみたかったんだよね」

「はあ・・・・・・そうですか」

「この子たちは君の体の構造を真似て作った人形みたいなものだから感情はないけど君の言うことなら何でも聞くよ」

「え? なんでも?」

「そ。なんでも!」

「じゃあ、おっぱい見せてとかも?」

「うん」

「じゃ、じゃあ・・・・・・」


 そう言って一番胸が大きそうな女に向かって、


「おっぱい見せて」


 剛は夢か何かだと鷹を括ったのか、恥ずかしげもなく女に向かって指示した。

 女も恥ずかしげもなくある意味でワンピースの服を裾からめくり上げ胸を晒す。


「え? ノーパン?」


 剛は女がノーパンであることの方に気がいった。


「そうだよー! パンツを履くなんて地球の人間くらいなもんだよ。私も君のためにパンツを履いてみただけだし」


 剛はそのセフィーの言葉に違和感を覚えた。

 どうやら少しは冷静さを取り戻し、情報収集のアンテナが働いているようである。


「地球? 人間?」

「どうやら少しは話が出来るようになったみたいだね」

「・・・・・・はい。とりあえず色々聞きたいことが」

「いちいち初めから一問一答するのは面倒っていうか、君が聞きたいことは大体わかってるから、一通り説明するよ」

「はい・・・・・・お願いします」

「まずここは第18宇宙と呼ばれる宇宙の中にある心球と呼ばれる地球によく似た惑星のとある大地です」

「えっと、その・・・・・・」


 剛がさっそく出てきた意味の分からない言葉に対して質問をしようとするのをセフィーはジェスチャーでそれを制止した。


「君がいたのは第33宇宙の地球。で、ここが第18宇宙。そしてそれらをまとめた大宇宙には全部で現在36個の宇宙があります」


 剛は質問をしたくなる衝動を我慢したが、セフィーはそれを察知してフォローを入れる。


「まあ、ここはどこですかと聞かれると大宇宙の第18宇宙の心球のとある大地となる訳だよ。まあ、大宇宙とは何かとかまでを説明すると1年くらいはかかるからとりあえずそれで納得してほしいな。ま、ともかく君が元々いた地球とは空間的にも宇宙的にも別の所であることは間違いないのでこの辺で納得するように!」


 剛は少し諦めた表情を見せた。


「で、本題だけど軽く一から説明するよ。まず私はこの宇宙の管理を任された神様って言うやつです。神様の仕事はそれぞれの宇宙で知的生命体を生み出し、我々の仲間になってもらうこと。で、私は前任者の跡を継ぐ形でこの第18宇宙の神様になったわけだけど来てみてびっくり。知的生命体がいることにはいるけどこれがまた失敗作。現状のまま進化もしないし進歩もしない。300兆年くらいあれこれしてみたけどまったく進展なし。これはやばいと考えた私は地球換算で9424兆164億2000万歳の誕生日だと言うことを前面にアピールして第33宇宙の神に地球にはいらないけどこの星では王に相応しいであろう君を誕生日プレゼントにいただくことに成功したわけですよ! ムフフ」


 剛は納得したようにつぶやく。


「いらない人間ですか・・・・・・」

「元気出して! ここでは王になれるんだから結果オーライじゃん!」


 剛はため息をついた。


「大丈夫だから! 逆に君に合う世界に来たわけだし。君が見栄を張ったり恥ずかしく思わなければならない地球の人間がいないんだよ? もっとプラスに考えればこれ以上のラッキーは無いくらいだよ」


 剛は何かに気付いたようで顔を上げた。


(俺が劣等感を感じたりしていた世界や人たちがここにはいないのか)


「元の世界に戻りたいならそれでもいいけど、ここで生きる方が君にとってもいい話だと思うよ?」

「で、何をすればいいんですか?」

「当面は国作りかな。で、最終目的は私たちの謎の解明」

「謎の解明?」

「そ、私たち神は自分たちのことを何も知らない。この宇宙を作る力やその宇宙を行き来する力。こんな風に肉体を形成して人形を作ったり自分の姿を疑似的作り出す力。他にもまだ君には見せていない様々な力がある訳だけどその力がどのような原理で行われているか何のためにその力があるのか。わたしたちはどこから来てどうやって生まれて来たのか。それを調べることは私たち自身には出来ないんだよね」

「それで仲間?」

「そう。自分のことを自分で知ることが出来ないなら自分たち以外の観測者を作ればいいと思ったわけなんだよね」

「だから、本来ならこんな風に君たちのような知的生命体の前には自分から干渉することはないんだけど、さすがにこの現状では仕方がないという訳だね」

「失敗作って言ったやつですか?」

「そ。ここには君からしたら原住民と呼ばれる前任者が作った生命体がいる訳だけどとりあえずそれを倒してもらわないとね」

「倒す?」

「そ。私が作ろうとした知的生命体はことごとく彼らに絶滅させられたんだよね。君が彼らと仲良く共存できるっていうなら止めないけど長いこと彼らを見てきた感想としては難しいだろうね」

「どうしてですか?」

「うーん。なんというか・・・・・・保守的? だからかな」

「保守的?」

「そう。自分たち以外の物を排除したり、進歩しないという感じかな」

「馬鹿ってことですか?」

「うーん。学習能力はあるんだけどそれを生かさないというか・・・・・・進化や進歩する力が無くなってるっていうのが問題なんだよね。地球にもいるよね? 古代から姿かたちが変わらないある意味完成された生命体というか生物。シーラカンスとかは有名だよね」

「それの知的生命体バージョン?」

「まさにそれ! だからまず君には村・町・国といった感じで人類を発展させてほしいんだよ」

「で最終的に原住民を倒して人類を神様の仲間の地位にまで導く?」

「グーーーーッド! そういうこと!」

「まあ、いいよ。やっても・・・・・・。ニートにとって一番の敵は退屈とか暇とかそういったものだから」

「ありがとー! 君に断られたらまた100兆年待つところだったよ! なんせ君をここに呼ぶのにほとんどの力を使っちゃったし、彼らを作るのにも力を使ったからほとんど力が残ってないんだよね。この姿で君の前に現れるのも多分しばらく無理になるよ」

「そうですか・・・・・。じゃあ、これから他に注意することは?」

「じゃあ、この空間と彼らについて少し」


 剛は黙ってうなずく。


「この空間は私が作った特製の空間で、心球の他の大地とを物理的に行き来できないようにしてるんだけど、何か文明的な物を作ると倍々の要領で広くなっていくようになってるんだよ。でも、最大100k㎡までで、それ以上は広がらない。でもって最後の壁を消すには鉄の剣か槍を作ること。これは原住民の文明レベルってことだからそれまでは神のご加護で守られてるって思って崇めてくれてもいいよー!」

「原住民は鉄器を作れるレベルか・・・・・・」

「まあ、日本で言うと古墳時代レベルって感じだね」

「で、彼らについてだけど、まずは君のことも話さないとね」

「俺のこと?」

「そ。君は不老不死になりました! 拍手!」


 セフィーはまた一人だけ拍手をする。


「でも、傷つけば痛いし気を付けてね」

「首を落とされたりしたら死ぬってこと?」

「いや死なないよ? 多分100年くらいで再生するよ。核が破壊されない限りはね」


 剛が不安そうな顔をする。


「安心してよ。核は見えないしそう簡単には壊れないから」

「いや、そうじゃなくて俺って人間なの?」

「そうとも言えるし別物ともいえる。ま、私が特別製にしたって感じだよ。じゃないとこっちに連れてこれないし」

「で、彼らも不老不死。君と一緒で病気にはならないけど殺されたら死ぬってところが違うかな。あと、感情がないってところも君とは違うか」


 剛は彼らの方へ体を向けた。


「そ。さっきも言ったけど体は君と同じ人間の作りだけど感情はないよ。でも、絶対に裏切らない家来っていうのはかなり貴重だと思うから存分に活用しちゃってよ」

「子供はどうなの?」

「子供は年も取るし病気にもなるね」

「感情は?」

「あるよ。だから君が王としてふさわしくないと思われたら寝首をかかれるかもしれないから気を付けてね。ま、文明の進歩には欠かせないから」

「分かった」

「じゃあ最後にコレ!」


 そう言ったセフィーの手には石で出来たセフィーのフィギュア人形がいつの間にか用意されていた。


「何ですかコレ?」

「石製のフィギュアだよ?」

「・・・・・・」

「ウソウソw これでなんかあった時は声だけだけどやりとりできるようにしておくから、なんかあったら声かけてよ。必要があったら返事するから」

「そうですか」


 そう言って剛は『石像』を受け取った。


「ではではではでは! これから長い長いサバイバルの開始でーす! まずは国作りからいってみよー!」

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