十九話 動きし舞台へ、朱の布石を
「外……? どうかしたの?」
窓の前に突っ立つフウを見て、眠そうな顔のスイは首を傾げる。
「別に……早朝なのに、すごい賑やかだなぁって思ってさ」
フウは
「ふ~ん、どれどれ。本当だ、さすが商業都市だね」
そのまま二人はしばしぼーっと窓の外を眺めていたが、スイがふと口を開いた。
「あのさ、フウ。これからの事なんだけど……」
「っとあっほぉぉぉいっっ!!」
「おごおぉぉっ!?」
突然に放たれたフウの拳がスイの
「おぶっ……フウ
「うるさあああいっ!! だから私はゴリラじゃないわ!! これで内臓破裂しないお兄ちゃんのほうが十分ゴリラだし! ゴリラの兄はどう
『おい! 朝からゴリラゴリラうるせえ!』
「…………」
どこからか飛んできた
やがて何事もなかったかのようにフウが無言で窓を閉め直すと、にっこり笑ってスイに向き合った。
「お兄ちゃん、さっきの話は陽が暮れてからにしよ。殺しの話をするにはまだ早過ぎる」
「っ……」
先程までゴリラを連呼していた表情の無邪気さは
「ぷ、ふふふっ! これくらいでそんなに
思わず言葉を失っていたスイを見て、フウは目を細めながらくすくすと笑った。
見てくれ自体は可愛らしいが、実際にはとてつもない程の狂気と殺気をその身に
「勿論。それが出来たから僕たちはここに居るんだよ。……フウも考えてる事は同じみたいだから急ぐ必要はないね。この話はまた夜にしよう」
挑発的な視線を正面から受け止めると、スイはゆったりと口角を持ち上げそう言った。
「うむ! よろしい!! ではでは早速、買い物に行くぜぇっ!」
満足げに頷いてからベッドを飛び越えたフウは、部屋から出ようとスイの手を引く。
「ちょ、ちょいちょい待って!」
「へ? 何、お兄ちゃん?」
スイは慌ててドアの前に回り込み、フウを止める。
「いや、出掛けるにしても僕たち……寝間着のままだよ?」
「……あ」
***
「さぁお兄ちゃん! しっかり歩けぇぇ~!」
「い、いえっさぁあー」
「あぁぁん!? 私のどこが『サー』なんや! お兄やんしっかりしろぉおおおお!!」
ハイテンションなフウの
朝から街の店を寄り歩いた二人は衣類や靴等、これから必要になるであろうものを改めて買い揃えていた。
移動の妨げにならないように買うものは最低限にしたのだが、何と言ってもフウが断れない笑顔で荷物を渡してくるため結果的にスイだけが大荷物になったのだ。
「……ん?」
「うわっ、フウ急に止まらないで……ってどうしたの?」
広場に出来た
「……やっぱり」
遅れてやってきたスイに、フウは泉の前で掲げた羊皮紙を読み上げる人物を指すように目配せをした。
「国王の使者……? 『王都での戦勝記念
驚きの表情をするスイへ自慢気な笑顔を向けるフウ。
スイの脳内で、様々な考えが繋がっていく。
「見せしめには、最高の舞台でしょ?」
「それで今朝、僕の話を後回しに……?」
「さぁ、どーでしょう」
その
「くひひっ、さぁ~帰りましょ帰りましょっ♪ 『お祭り』は一週間後! とっとこ作戦会議と行きましょおお!!」
「了解っ!」
陽は未だ高く、辺りは賑やかさを増している。
使者が来たという事は、それだけアグスティも安全ではなくなるという事。捜索の手が伸びる前に街を出るべきだろう。
楽しそうに会話を弾ませる二人は、暗黙の了解でそれが分かっていた。
そして同時に自分たちがこれから何をするのか、それが何を意味するのかも、分かっていた。
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