第2話『魔法は使えませんか、そうですか』

自己紹介が終わった後、俺は気になったあのプラチナブロンドの髪の子に話しかけにいった。セラスティナと言っただろうか。すんごい可愛かった。でも勘違いしないで欲しい、特にそんな助平な感情で行動した訳ではないんだ。そう、俺はただ興味があっただけだ。Zクラスなのにあの自信満々の顔。瞳。オーラ。一体何が彼女をそうさせているのか。それが、気になったのだ。

 

「ええっと、セラスティナ…だったか。自己紹介、だいぶ短かったけど、秘匿主義者だったりするのか?」 

 

ポップな感じで話しかける。

ちょっと馴れ馴れしい感じもするが。 


「……誰よ。アンタ。悪いけどナンパなら鏡をよく見てから来てくれるかしら。」

 

うっ……思った以上に冷たくされた。

心に若干の傷を負いながら、めげずに話しかける。

 

「は、ははは。ナンパじゃねぇよ。同じクラスメイトだろ?仲良くしようぜ!って、思って話しかけたんだけど。迷惑だったか?」

 

「迷惑?そう思うのなら話しかけないで。それに私はアンタを、いえ、アンタ達をクラスメイトだとは思ってない。私は違う。私は…違うの。」

 

そう言い残し、セラスティナは教室から出て行ってしまった。

なんで俺はこんな敵意を剥き出しにされているんだろう。疑問で仕方がなかった。

 

「よう!兄弟。入学早々フラれたか?」

 

立ち尽くす俺の肩に手をかけそう声をかけてきた誰か。

俺は後ろを振り向いて姿を確認する。

 

黒いバンダナに灰色の髪の毛。 

結構かっこいい顔をしている。

 

「なぁ、俺なんか変なことしたと思うか?」


俺は問う。

 

「んや?あの子が変わってるだけだろ。」

 

「そうか……めげずに話しかけてみるかな。」


「それがいいさ。」

 

一通り会話をしたところで、先の自己紹介を思い出す。コイツは確か。

 

「コバルト・デイズ、だよな。俺はカルト、よろしく」

 

「おう!コバルトでいいぜ!仲良くやろう!兄弟!」

 

「私はティリア!十歳なの!」

 

「おう!よろしく!ーーーって、誰!?」

 

流れで挨拶を交わしてしまったが、この子は…確か……


「私はティリアなの。天才なの!」 

 

そうそう。そうだ。

先生からも別に紹介があった学園超特別枠。ロリっ子こと神童のティリアだ。

確か紹介だと…


「ええっと…グレゴリウスの初等部から飛び級してきたんだったか?」

 

「そうなの!」

 

元気いっぱい答えてくれるロリ…じゃなくてティリア。まだまだ幼さが抜けなくて、可愛げがある。流れるような水色の髪が特徴的だ。

 

「そっかそっかー!……でもさ、それおかしくね?なんでそんな天才がZなんだ?」

 

「それは、私は魔法が使えないけど発明ができるからなの!えらい人に言われたの!君は学園で魔法を学ぶんじゃなくて、魔法についてを学びなさいって。だからなの!」

 

「ほほう。なるほどな…特別枠ってそういう意味か。」

 

「ティリアちゃーん!!可愛いね!俺の妹にならない?」

 

突然割り込んできたコバルト。こいつ機会を伺ってやがったな。


でもティリアは、

 

「嫌なの!でも、私、カルトの妹にならなるの!いい人なの!」

 

「え、俺かよ?」

 

「はぁ!?カルトてめェ!それは犯罪だぞ!!」

 

「お前が言うか!!!」

 

「にひひひ、なの!」

 

入学初日、妹と悪友が出来た。 

 

■□■□■■□

 

このグレゴリウス魔法学園では、制服の色が最上位、最下位、それ以外で違うということは前述したと思う。

ついでに制服の形だが………ああ言うのはナポレオンコートと言うのだろうか?ボタンの数はちょっと少ない気がするが、形はナポレオンコートが恐らく一番近い。

  

そして、色が違う。それが意味すること、それは。

 

『Zクラス立ち入り禁止施設。』


「……はぁ、またこれか…ホント徹底差別してんな。」


俺は学校見学も兼ねて、学園内をぐるぐる歩き回っていた。だが、どこへ行っても、Zクラスの入れない施設が多いこと多いこと。

ここに入りたけば一年間頑張って成績収めてZクラスから脱しろって事なんだろうが……それにしても待遇が酷すぎる。

 

改めてZクラスに人権がないことを確かめ、俺は寮まで戻ろうとしていた。

 

のだが。 

 

「……やっぱ人目気になるな。」

 

道中の通行人の目が痛いこと痛いこと。俺が勝手に思っているだけかもしれないが、黒の制服を着ているだけで蔑みの目を向けられている気がする。

寮までの道も結構あり、とうとう耐えられなくなった俺は、近くにあった図書館へと一時避難した。


この中ならまだ人目を避けられると思ったからだ。


本に集中している人が多いし、何より物陰が多いからあまり人の目には晒されないで済む。そう考え入った。

そして予想は的中だった。

人はチラホラしか散見されないし、何より皆視線の向かう先は本だ。

俺はほっと一息つきつつも、それでも人気のない場所を探して図書館の奥へと踏み入った。


図書館の人気のない所を探して歩くこと数分。やたらと大きい図書館に、やや感動を抱いていると、図書館の最深部近く。歴史書や魔法の専門書などの学術書が置いてあるところで俺は足を止めた。

 

「ここ、誰もいねぇ。」

 

やはり、普段読まないような本が置いてあるところには人も寄り付かないのだろう。 専門書などのちょっと難しい本が置いてある場所には誰もいなかった。しかも運の良いことに、僅かばかりのスペースに椅子と机が置かれているではないか。

ここだ!俺は適当な専門書を片手に机に座った。外に人がいなくなるまでここにいよう、そう決めて専門書を読み始めた。 


「適当にとったからよく分かんねぇけど…えー、なになに。『魔法原理と概要』ほー、俺には関係の無さそうな話だけど…まあ、一応読んでおくか。もしかしたら魔法を使うための手がかりがあるかもしれないしな。」

 

それに、まず、これ以外に暇を潰せるものが無い。

俺はページを繰った。

 

『本書では、魔法の原理と概要についてを述べていく。まずは魔法についてだ。魔法と言うのにはそもそも火、水、木、土、風、癒の下級属性がありその上に雷、毒、光、闇、聖の上級属性が介在している。そして、そのような下級属性の魔法を『スペル』と呼称し、上級属性の魔法を『スペリオル』と呼称する。また、上級魔法は扱う事の難しさから、使い手を『スペリオラー』と呼称するのが一般的である。』

 

スペル、スペリオルかー。俺には全く関係の無い話なんだよな。いいよなー、俺もスペリオラーとか呼ばれてみたかったぜ。

 

ページを繰る。

 

『ところで、下級属性、上級属性の他にもう一つ、無属性というものがある。無属性魔法とは加護や適性を持たないものにでも扱う事が可能で、身体強化や魔法障壁がそれに該当する。』

 

それを目にし俺は目を見開いた。


「え!?もしかして俺にも使えんのか!?この無属性っ……って…!」

 

思わず出てしまった声に自分で驚き、慌てて口を塞ぐ。驚きのあまりについつい声を出してしまった。


いや、それにしても、この本が本当のことを言っているのなら俺にも魔法を使うことが可能なんじゃないか?

 

再び読み始める。

 

『無属性魔法の原理についてを解説するために、今度は加護と適性についてを述べようと思う。』

 

ページを繰った。

 

『加護とは即ち、魔法を使うものに対し精霊が付いているかどうか、精霊に好かれているかどうかを言い換えたもので、簡単に言えば『魔法を使えるか』というものの判断基準である。また、持っている加護によって使える魔法が違う。例えば、火の加護を持っているものには火の魔法が、水の加護を持っているものには水の魔法が使えると言った具合である。』


「………………」 


「…へぇ、学術書なんて読んでるの?勉強熱心だねー」  

 

ページを繰る。

 

『下級魔法は加護が付いていなければ使うことが出来ない。そして上級魔法は加護がついておりなおかつ、適性を持っていなければ使うことが出来ない。例えば雷魔法を使いたいとすれば、風の加護、水の加護がついており、なおかつ雷属性への適性を持っていなければならない。この場合雷属性への適性を持っていても、風の加護と水の加護を二つ持ち合わせていなければ、雷魔法は使う事が出来ない。つまりこの適性とは、簡単に言えば『魔法への才能』となる。』

 

「……なるほどな。つまり俺は終わりか。」 

 

「なになに…?魔法原理と概要…?なんか難しそうだね…」

 

『また上級魔法には加護がない。それは、下級魔法と言われているものが本来の魔法の形であるからだ。上級魔法とは我々が呼称し始めたものに過ぎず、下級魔法を組み合わせて応用させたものでしかない。』

 

「………ほほう…」

 

「あの……ボクに気がついてる?おーい?」 

 

『そして無属性魔法だ。これは人が本来から持っている魔法に対する力で使うものなので、精霊の力は借りない。だから、加護がついていなくても問題なく使うことが出来るのである。だが、悲しいことに加護を持たない人間は確認されていないため、無属性魔法はあまり使われなくなっているのが現状である。』 

 

崇高な学術書にまで『加護を持たない人間はいない』なんて言われたもんだから俺は相当なショックを受けたのを今でも覚えている。

 

窓から外を見る。日も傾いてきて夕日が差し込んでくる。うん。いい時間帯だ。

 

俺は大きく伸びをして体をほぐすと、今日の晩御飯はなんだろうな、なんて下らない考えに頭を働かせるのだった。

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