第1話「ゼロです」
「ぜ、ゼロです」
「…え、はい?」
「…か、加護、適正は共にゼロです」
言葉の意味が理解出来ない、と言うのは生まれて初めてだったと記憶している。
そう、あれは入学式の前日の魔法適性の検査の時。周りが緊張の面持ちで検査を行う中、俺も勿論緊張していた適性検査の時だ。
「次の方、どうぞ」
「は、はい。」
女の先生の声が聞こえて、俺は重たい木扉の中へと入った。入れ替わりでほくほくした顔をした女の子が横をすり抜けて言った。プラチナブロンドの綺麗な髪色の子だ。
その一方で俺はあまり魔法なんて使われてもない田舎から飛び出してきたもんだから、自分がどんな魔法を使えるのか分からず、未知の世界に胸を踊らせていた。
「では、この『魔結石』に手をかざしてしばらくお待ちください。」
女の先生らしき人にそう言われて、三十センチほどある歪な形の石に手をかざした。
ドキドキ。雷属性とかの適性持ってたらどうしよう。あ、聖属性とかもあったらカッコイイな。いや、もしかしたら全部ついてるかも!!
俺は心を踊らせていた。
自分には秘められた能力が備わっているんじゃないか、そう考えていた。
のだが。
「…か、加護適性は共にゼロです。」
脱糞不可避の事案が発生した。
■□■□□■□
半世紀続くグレゴリウス魔法学校でも、なんの適性も加護も持たない生徒は史上初めてらしい。何かしらの加護、適性を持たないと魔法は使うことが出来ないからだ。
そう、加護がないと基本的な六属性魔法が使えず、六属性魔法が使えないと適性を持っていたとしても上級五属性魔法は使えない。
つまり、俺はなーんの魔法も使えないのに魔法学校に入学してしまったわけだ。
ド田舎の村出身で魔法を使える人なんてほとんどいなかった、というか周りに使える人が長老しかいなかったため、詳しく魔法を知る機会もなく、ノコノコと王都に出てきてしまったのだが……
俺は見事に学園の最下位クラス、Zへと組み込まれてしまった。
その後俺は魔法を使えないんだという絶望の中、入学式へと参加した。検査結果が衝撃的すぎてさぞかし灰になっていたのだろう、気がついたら入学式も終わっていて、二千人席の端の方にぽつんとひとりで座っていた。
「……あぁ。入学式、終わったのな…はぁ…」
魔法学園内にある生徒集会場、それは生徒集会や行事の時に使われるらしいだだっ広いホールだ。
本当なら凄く興奮しただろうし、こんな施設がある所に入学出来たのかよ!なんてテンションもぶち上がっていたのだろうが、今の俺はそれどころではない。
もう一度言う、それどころではないのだ。
今まで期待していた分、魔法が使えないという事実で奈落の底へ突き落とさへた。これから毎日、魔法が使えないのに魔法についてを学び、魔法が使えないのに魔法の実技練習をするんだろう、ということを考えると、俺は本当に何をしに来たんだという悲壮感に包まれてしょうがなかった。
今日はもう寝よう。
そう考え、まだ日も高いうちから学園内の寮に入り、眠りについた。
授業は翌日から始まった。魔法の授業以外にも簡単な言語学、数学、歴史学なども学ぶらしい。必要あるのかはイマイチ疑問だったが、建前上は学校だからこなさないといけないのかもしれない、と自分を納得させた。
そして、授業初日、一時限目が始まって十分。
俺は今日も今日とて絶望していた。
何故なら。
「おらおら!!テメェら!俺様の魔法を見ておけよぉ!!?」
「で、出るでやんすか?!兄貴のあの技ァ!!」
「や、止めてくだせぇ兄貴!!そんな、そんなことしたらこの教室がァ!」
「うるせぇ!黙って見てろ!いくぞ、いくぞ!!!おおおりゃああああ!!」
スキンヘッド兄貴の手先から、ボッっと小さな炎が吹き出した。
「うるぁああ!!みたか!テメェら!これが俺様の力だァ!」
「す、すげぇでやんす兄貴!」
「さ、流石ですよ兄貴!!」
「はーい、以上、ルグドア君でした。じゃあ次の人。」
クラス内では無気力な先生の指導の元、とんでも自己紹介が始まっていた。
クラスZ。それはS、A、B、C、D、E、Zの七クラスがある中の最下位クラス。Zは即ち学園の最底辺を指し、差別の対象としてその名を馳せていた。
また、生徒達の意欲向上のためと、Zクラスだけボロボロの旧校舎があてがわれており、制服もSクラスは白、A、B、C、D、Eクラスは深緑、最下位Zクラスは黒とされており、学園の中では最悪の待遇で、ついでに言えば地位も最低だった。
そんなZクラスの自己紹介は続き。
「ーーーカルト・クロノス、居るかー。」
「あ、は、はい!俺です!」
どうやら自己紹介の番が俺にも回ってきてしまったらしい。面倒くさいがやるしかない。
ボロボロの床を踏み、前に立つ。教室の中には二十人程しかいない。
学園でも選りすぐりの役立たずを集めたのだろう。制服を気崩した不良っぽい生徒から、頭にバンダナをつけた謎の男子、地味ーな容姿のやつもいて。なんか小さな女の子がいる気が……プラチナブロンドの髪を下げた女の子も…って……あれ?あの子適性検査の時にすれ違ったような。
そう、とにかくかなり個性的な面々が集まっているのだ。まあ俺は至って普通だと自負しているが。髪型だって真っ直ぐなストレートでぺたーんとしてるし、髪色も特徴のない黒髪だ。目が蒼なのは父譲りだが大して珍しくはない。
あ、でも、この中ならこの無個性さは『無個性』という個性としてキャラが立つかもしれない。
適当な思考をしながら、やがて俺は自己紹介を始めた。
「どうも、カルト・クロノスって言います。……良かったら、仲良くしてください。終わります。」
一言でそう言いきると俺は席に戻った。
視線が痛い。
ああ、アイツが例の。なんて声もチラホラ。やはり魔法が使えないのに入学した変な生徒と言うのでクラス内では有名になっているらしい。
その後も自己紹介は淡々と進んでいった。
バンダナのやつ、ロリっ子、兄貴の舎弟一、舎弟二…
やがて、俺が気になっていたプラチナブロンドの髪の子の番になった。
そして、その子は颯爽と教室の前に出ると、教卓にバンッと手をつき言った。
「セラスティナ・ビクトリア。以上よ。」
すんごいサラッとしてた。
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