嘘。

@kousimoumou

第1話

 俺は人生で一度も嘘をついたことがない・・・

すまない、嘘をついてしまった。もう治ったはずなのにな。


 いつからか俺は嘘しかつけないようになってしまった。些細な嘘から人を傷つけてしまう様な嘘まで。理由は自分でも分からなくて、人を騙すのが快感と思ったこともなければ罪悪感を覚えたこともなかった。


 これは中学3年の時の話で、この頃が一番嘘をついていたと思う。


「おい松本(俺)!提出物はどうした!あれは大事な書類だぞ!今日締め切りだと何度も言ったはずだっ!」これは担任の永田 学で、今年で50になる。頑固で生徒からは評判が悪い。


「もってくるの忘れました〜(実は未だにファイルの中にある。)」


「保護者のサイン貰ってるんだろうな!ったく、今日の放課後に家から持ってこい!」


家に帰っても親はいない。共働きだ。



〜放課後〜



「松本帰ろうぜー」これは古くからの友達の多田 翼で、俺と同じバレー部のキャプテンで身長が182cmもある。


「おう。あ、提出物...そういや翼、字キレイだったよな。親の代わりに書いてくれねーか?」


「いいけど、いくらお前が嘘つくのがうまいからってバレないのか?」


「バレやしねぇって!いつも持ち歩いてる消しゴムハンコはもあるし、あのジジイも年だろ?翼、お願いな!」


「お、おう」



〜1ヶ月後〜



「松本君、ずっと前から好きでした!付き合って下さい!」


「こちらこそお願いします」


放課後、俺は同級生の大川 結衣に告白され、なんとなくokした。



〜3ヶ月後〜



 夏休み前、俺は大川と付き合っているのに女友達のSの事が好きだと友達2人に嘘をついた。ある日そのSと友達2人と話していた時に事件は起きた。


「松本、Sちゃんに気があるんだってよ。な、松本」


「そんな訳ないだろ?松本には結衣ちゃんがいるんだぜ?な、松本」


「そうだ、俺は大川さんが好きだから。ごめんね、Sちゃん」


「勝手にフラないでよ。私は友達の関係でこれからもいるつもりだから」


この会話を大川は影で聞いていた。しかも、俺がSの事を好きという嘘は噂になっていて、大川の耳にも入っていたらしいのだ。



〜帰り道〜



「ねぇ、松本君」


「ん?」


「嘘...ついてたの?」


「何のことだよ」


「Sちゃんの事!」


「聞いてたのかよ。あんなの嘘だよ。噂話」


「それも嘘でしょ?もう帰る!」


大川は走って帰っていった。


Sのとこが好きだという嘘をついたから、本当に好きな人を傷つけてしまった。その時初めて罪悪感で涙が溢れた。自分が憎くて、悔しくて、大川の気持ちを考えると、胸が痛んだ。「もう嘘はつかない」小声で言ったその言葉は嘘ではない。初めて素直になれた。しかしこの素直な気持ちを大川に伝える事は出来ない。



嘘は、人間関係の中にあるととても厄介なもので、大きくなると崩れる。修復は不可能。



 俺はこれから素直に生きたい。心からそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嘘。 @kousimoumou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ