第17話 暴露

 私の返事を受けてハルは満足そうに頷きました。

 大きく息を吐いて、「いろいろひどいことを言って御免。君がそこまで覚悟を決めたのなら、本当のことを話すよ。」と言いました。


 ハルの雰囲気が少し変わったような気がしました。

 そして、「おそらくだけど、君をいじめることになっていたメアリーにも誰か精霊がつくと思う。」、ぼそっと嫌なことを言ってくれました。


 あの忘れもしない、私をいじめて私が自殺する原因をつくることになろうであろうルクセンブルグ公爵家の長女の名前が出てきます。

 先ほど聞いていた「駒」という言葉が頭をよぎります。


 「ほかの精霊たちが君に興味をもってしまった。」まるで私の考えがわかるかのようにハルは続けます。

 ただ、あのハルがどことなく困ったような表情を浮かべております。 


 「僕は君がここまで頑張るとは思っていなかった。精霊の加護は君が知ってしまったとおり、そんなに良いものではない。でも、君と約束してしまったから、僕から断ることはできない。」


 「しかし、一方で、このまま僕が手助けしないと君は死んでしまう可能性が高い。だから、ある程度手助けをして、それでさよならをするつもりだった。」


 「最初はとりあえず、痩せさせなければということで運動させたんだが、思ったより大変だったので、魔法を使えるようにと考えたんだ。マナを集めるのにはかなりの労力だし、血管にたまった老廃物をとって血行をよくすれば、間違いなく痩せるからね。」


 「ただ、想定外だったのが、君が途中であきらめなかったことだ。君が途中であきらめてしまえば、君が『加護などいらない』と言えばそれでおしまいになる。そこでさよならをするつもりだった。だからヒールを使わなかったり、冷たくしたんだけれど、君は最後まで頑張ってしまった。」


 「おまけに光魔法まで使えるようになってしまった。これは全くの想定外だったよ。おかげでほかの精霊たちが君に興味を持ってしまった。」


 「僕は多少だけど、未来を見ることができる。これは精霊でもやはり特殊なんだ。だから、ほかの精霊の注目を集めやすい。」


 「前に言ったように、子供の場合どうなるかわからないから、普段精霊は関わらない。ところが未来を見れる僕が君に関わったことから、どうやら君には何かがあると勘違いをしてしまったようなんだ。」


 「結果、君が学園に入った際に、敵対したであろうメアリー嬢に加担するものがでてくる未来ができあがってしまった。」


 精霊の加護の真実を教えるのは、駒になることを了承している場合に限られるという話を聞いたときは、実はハルが私のことを考えて冷たくしていたことを知りました。


 それからもハルはたくさんのことを教えてくれました。まるで、これくらいしか罪滅ぼしができないかのように。


 それによると、精霊どうしは、自分が加護を与えた者どうしがどういう行動をとるかを楽しむことがあるそうです。

 ただ、あくまで干渉できるのは自分の「駒」だけという制限がつくとのことです。ま、それはそうでしょう。精霊が直接相手の駒にかかわったのでは、最後は精霊どうしが直接戦うことになりかねません。


 そういう意味で、本来であれば精霊が誰に加担しているのかすら教えることはできないというのです。ただ、今回の場合はまだメアリー嬢には誰も関与しておらず、そうなる可能性が高いというだけなので、大丈夫ということでした。


 そして、当然ながらほかの精霊の情報も教えられないとのことでした。ま、高見の見物を決め込むためにはそのくらいの安全策が必要なのでしょう。


 それと、どうしても聞きたかったのは、私たちの会話がどうして筒抜けになっていたかです。

 なんでも精霊は、この世のことは全部というわけでありませんが、大半のことであれば見たり聞いたりできる能力が備わっているそうで、殆ど隠し事はできないということを教えてもらいました。

 結果、精霊たちは自分たち同士では「ゲーム」をして遊ぶことが難しいので、人間を使ってとなったようです。


 ただ、その際、知り得たことをすべて駒に教えたのでは、自分たちが戦うのと代わりがなく「ゲーム」が成立しないので、相手の手のうちは自分の駒に教えないというルールができたそうです。

 そして、他の精霊もその「ゲーム」を見ているので、「ゲーム」が始まるとズルはできないようになっているというわけでした。


 最初は人間を「駒」扱いするなんて、「ひどい」と思っていたのですが、精霊の見方を説明してもらえれば、許せないという気持ちは変わりませんが、ほんの少しですが、彼らが何を考えているのかわかって安心できたというのが本当のところでした。

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