第11話 ミッション

 さて、それから本格的な魔法の訓練が始まるのかと思っていたのですが、「まだ早い。」と言われてしまいました。

 空中から思い通りの色のマナを吸収する訓練が大事なんだそうで、今はひたすら赤のマナを吸収する訓練をしております。


 ただ、正直あまり面白くありません。

 すごく地味です。赤の多いところに手を伸ばして、赤だけに注意を集中して吸収、それが終わると青、緑と繰り返すだけです。


 特に黄色は集めるのが難しいかったで大変でしたが、黒はまだ集めなくよいといわれたのは助かりました。


 一回やって気が付いたのですが、どうもうまく集められるものと、集めるのにかなり時間がかかるものがあります。

 黄色は本当に集めづらく大変でした。それと茶色もどうも苦手です。


 そのことをハルに聞いてみます。


 「光はもともと上位魔法で、マナそのものの数が少ないので、難しいのは当たり前なんだよ。」

 「茶色は、おそらく属性の関係だろうね。たぶんだけど君は土魔法があまり得意ではないのかもしれないね。」


 「ま、単純作業ばかりでは飽きるだろうから、少しお話でもしよう。」この言葉を聞いて喜びましたが、次の「だた、このマナの吸収の訓練はこれから毎日朝起きたときと、夜寝る前に1セットずつやってもらうから。」といわれてげんなりしてしまいました。


 やっとハルから魔法について教えてもらうことができます。


 「火や水はイメージがしやすいと思うが、水には治療効果もある。ヒールというのだけど、これを覚えるとケガをしたときなどに便利だよ。」


 「ただ、患部にマナをあてなくてはならないから、外傷の時は問題ないけど、内臓疾患などで、どこが原因かわからないときはあまり使えないんだ。ま、最悪全身にかけるという手もあるが、かなりのマナを使うから、よほどのときか、かなり偉い人ででもでないと使わない。」


 「それに内臓系の場合、下手に魔法ばかりに頼っていると、今度は病気に対する抵抗力もなくなってしまうから、子供には使うなと言われている。」


 それを聞いて、このまえ私が倒れたとき、お医者様が魔法を使わなかった理由がわかりました。


 私が納得したような顔をしていると、ハルが私の方を向いて、まじめな顔で「では、君に1つミッションを与えよう。」と言ってきました。


 「ミッション?」


 「そうだ、それに何も変なことをさせようというんじゃない。伯爵家にとっても役にたつことだよ。」

 「君は今君の母上が困っていることは知っているかい?」


 (あのお母様が困っていらっしゃる?)私には、全く想像もつきませんでした。


 そんな私の困惑など何一つ気にすることなく、ハルは続けます。


 「前に言ったように伯爵家は貴族の中では並み、だから変なことをしなければ、特に何の問題もないが、しょせんそこまで。何か目玉になるようなモノがないと、お茶会に招待しても、それなりの方々は来てはくれない。」


 「グーテンベルグ伯爵家の目玉はきれいな花々だったが、これからはどんどん寒くなって、花壇は見る影もなくなってしまう。」


 「温室にわずかな花はあるが、そこでお茶会というわけにもいかない。となりのアナキン子爵は鉱山で産出した銀を使って、かなり珍しい遠くのお菓子を大量に購入し、それでかなりの数のご婦人方を引き付けているという話だよ。」


 「そうなると、当然グーテンベルグ伯爵家に来てくれる人は少なくなるわけで、君の母上は頭を痛めているというわけさ。」


 「そこで、君への指令だが、魔法を使って、何か目玉になるものを見つけて、上流階級のご婦人方を我がグーテンベルグ伯爵家に来たいと思わせるようにしてもらいたいのさ。」

 「悪い話じゃないだろ。うまくいけば、君のご両親だけでなく、伯爵領や君自身にも益になることだよ。」


 「どうして・・・」と私が理由を聞こうとすると、「前に言ったとおり、精霊の加護はそれなりの徳がある人じゃないと与えられない。君にその能力があるか、常に確かめていかなくてはならないんだよ。」


 「別にできなくても気にしなくて良いよ。これから少しずつ学んでいけば良いことだから。」とハルは微笑みながら、言ってくれましたが、私はそのハルの笑顔も、言葉もそのまま信じることはできませんでした。

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