第12話 矜持
「あ、そうそうはじめる前に、なぜお茶会が開かれるのか、それを考えてからミッションをクリアするように。」
何をしたらよいかわからない私にハルは更なる難題をふっかけてきます。
今まで家庭教師からお茶会のマナーについては学んだことはありますが、そもそもなぜお茶会が開かれるかなど考えたことすらありません。
とても自分ひとりでは手に負えないと思った私は、2歳上の兄のクラウドの部屋を訪問します。
といっても、お兄様にお聞きしようと思ったわけではありません。
お兄様の家庭教師に意見を聞かせてもらえればと思ったのです。
お兄様は私と違って、今後の領地経営のことも学んでいかなくてはなりません。結果、歴史や帝王学も学んでおります。
大半の先生はいかめしく、私もとっつきにくかったのですが、一人だけアーノルドという若い大学を出たばかりの先生は私にもやさしく話かけてくれていました。
幸い今日はアーノルド先生がいらっしゃっているはずです。
お父様が以前、私に面白がって、「領主は如何にあるべきか?」という質問をされたことがあり、そのとき、アーノルド先生に助けていただいたことがあったのです。
少し、はしたないとは思いましたが、先生がいらっしゃるまで、お兄様の部屋の前で待ちます。
しばらくすると、先生が出ていらっしゃいました。
「アーノルド先生、大変申し訳ありませんが、この後少々お時間をいただけませんでしょうか?」
いきなり私からこう言われて先生も少しびっくりしていらっしゃる様子です。
立ち話もなんですから、私の部屋に来てもらいます。 しかし、教師とはいえ若い男性と二人きりになるわけにはいかないので、後ろにはメイドが控えています。
「それで話というのは?」アーノルド先生がゆっくり口を開きます。
「お茶会について教えていただきたいのです。」と言うと、「それは、私ではなくマナーの先生に聞かれてはいかがでしょうか?」と答えられてしまいました。
「すみません。質問の仕方を間違えました。お茶会の内容ではなくて、なぜお茶会が開かれるかについて教えていただたいのです。」
「マナーの先生はお茶会の時には、こうすべきということは教えてくださいます。しかし、なぜお茶会というものが存在するのか、それについては教えてくださいませんでした。」
私のこの質問にアーノルド先生も納得してくださったようです。顎に手をあてて何か考えておられます。
「そもそも貴族とはどうあるべきだと思います。ミシェル嬢。」
思いもかけない質問で、私自身戸惑ってしまいましたが、国王への忠誠、領地経営、領民の保護など、思いつく限りのことを挙げてみました。
「そうですね。ただ、貴族の方々はお茶会や舞踏会を開催されますね。それと先ほどの答えはどう関連していると思いますか?」
それを聞いて、お茶会でしていることを考えます。といっても何も思いつきません。やっていることは、お茶を飲んで、おしゃべりをするだけです。
舞踏会も踊りを踊っているだけです。何のためにそんなことをするのでしょう。
私が固まっていると「矜持という言葉をご存じですか?」と聞かれました。
私が知らないというと、「プライド、自信、誇りそういったものです。」と先生は続けます。
「むろん国王への忠誠、領民等下々の者への対応を大事ですが、貴族は貴族であることにプライドを持って、それらしく生きなければなりません。」
「そして、上の者や下の者だけでなく、同じ貴族同志でも付き合いをしていかなければなりません。」
「そして、付き合いをする以上、他人を不機嫌にさせないための行動、マナーが必要になります。それに人付き合いは実践しかありません。いくらマナーの先生から学んでも実際に参加してみないと学べないことはたくさんあります。」
「そして、お客様に如何に気持ちよく来ていただけるか、また来たいと思わせることができるかが大事なのです。」
「ただ珍しいものを見せるだけでは貴族でなくてもできます。貴族としての矜持を見せつつ、お客様に喜んでもらう、それこそがお茶会の意味だと思っております。」
正直、先生の話は難しく、すべてが理解できたわけでありません。ただし、アナキン子爵のように、珍しいお菓子でつるという方法はおかしいということだけは理解できました。
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