第2話斯くて世界は……。
壮絶なる戦いであった、と記されている。
だが三千年たった今、その他他界の全貌を知る者は誰もいない。今はただ記述された本によって、その戦いを知るのみなのだ。
いくら凄まじい形容詞がその本に記されていようと、今となってはまるで絵空事にしか思えない。
それは
遙かなる太古の時代……世界の殆どを破滅に導いた『戦争』
其れによって使われた核により生物の殆どを絶滅させ、生き残った生物達は放射能から逃れる為数千年もの間地下へと潜らねばならなかった。
地下での生活は、生き残った生物達に独自の進化を与えた。
すなわち、見かけは太古の時代より変わらないが、『魔術』という能力を身につけた『オルディナリー』そして姿形はおろか、生活形態の全てまでを変化させ続け生き延びた種族『ミュータント』である。
自然が回復した地上に出た全ての生物達は共存し平和に暮らしていた。
だが、今より三千年前に『人間』より進化した『オルディナリー』と『ミュータント』の国の間に些細な小競り合いが起きた。
それを発端として戦渦は広がり、全種族を巻き込んだ戦争へと発展したのである。
この戦いが、『戦争』以来の大きな災いとなった。
戦いはつかの間の平和を打ち破り、全ての生物を巻き込んでいった。
この戦いが、やがて空間を歪め異次元の『龍』と形容されるものを呼び寄せてしまう結果になろうとは、誰が予想だにしえただろう。
全種族の力を上回り、巨大で邪悪な『龍』の前に世界は再び崩壊するかに思えた。
この『龍』はのちの書でこう書かれている。
大いなる戦いの中
邪悪なるもの 闇より現れり
その者 世を滅ぼさんとする闇の力なり
邪悪なる者 東洋と呼ばれた地の伝説の龍の如く 天空を舞い
その体 怨を潜む氣なり
故にその名は 魔龍と呼ばれん
異次元より飛来した『魔龍』による被害は甚大だった。
これを滅ぼすという名の下に和解した二つの種族は、共に選りすぐった魔法使い『ソー・サラ』達と剣士達を『魔龍』と戦わせた。
激戦に激戦を重ね、『魔龍』は選りすぐった中でも最強の存在である『魔法使い』ダルク・シャーマインによって石像へと封印された。
そして石像は北野森の奥へと安置され、その額には『魔龍』を封じた宝石『瓔珞の封印』がはめこまれた。
『瓔珞の封印』が破壊されぬ限り、『魔龍』は復活出来ない。
さらには深い大地の亀裂が森を取り囲み、そこから吹き上げる強い風……『風壁』は、どんなに腕の立つ剣士であろうとソー・サラであろうと無力と化す力を持ち、大地の奥より吹き上げる風を超えての侵入はおろか魔術も通過させることが出来ないように、ダルク・シャーマインによって封じられた。
そして。
『風壁』は『瓔珞の封印』を守り続けて三千年が過ぎていった。
この三千年間、何度となく邪心を持った者達が、この風壁を破ろうと試みたが、枷壁の力の前に敗れ去っていった。
――その中に『魔龍』を神と崇める集団『魔龍党』があった……。
魔龍の森 明智凜 @saltcape
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