第壱夜 少女ノ声

これは、私が中学生の頃に体験したこと。


中学二年の秋、父方の祖父と同居することになり祖父の家に引越しの手伝いをしに行った時のこと。


手伝いに行ったのは、私と両親、父方の伯父伯母そして二十以上歳の離れたいとこ。

私以外は大人で、手伝うことがなくなってしまった。私は大人達の邪魔にならないよう、玄関扉から入ってすぐの階段に座り、ぼーっと大人達が忙しなく出入りしているのを眺めていた。

ふと気づくと、二階から子供が…当時の私よりも、もっとずっと幼い…小学校低学年ぐらいの子が歌っているようなそんな声が聞こえてきた。私は驚き、すぐに後ろを振り向いた。


二階に行った人間などいない。

大人達はみんな、荷造りで忙しい。二階はただの物置のはずだった。

そして…。


…そしておよそ「子ども」と呼べる歳の子は、私しかいなかった。


私は怖くなり、すぐに座っていた階段から降りて両親や祖父のいる部屋へと行った。

ただ、私が聞いた声のことはその時の私には母にも、誰にも言えなかった。


そして、三年が経った今。つい最近の出来事だ。

また、あの少女の声が聞こえた。


地元の高校に進学した私は、演劇部に入部した。


その日も授業が終わり、部室として使っている特別教室へ行くと既に部員ふたりが来ていた。

その日の部活は、今度の公演の既成台本を探すチームと、創作のプロットを考えるために教室に残る側の二手に分かれることになり、私は後者…教室に留守番して考える方を選んだ。

しばらく考えていたが、なかなか進まず完全に行き詰った。

私は息抜きにでもと、既成台本の一つを読み始めた。とあるアニメ映画の挿入歌のメロディ―を口ずさみながら。

メロディ―がわからなくなり、口ずさむのをやめた時。一拍遅れて私が口ずさんでいた曲と同じメロディ―が聴こえてきた。

中二の時にきいた、あの女の子の声で。


普段部室として使っている教室は、たいして声が響かない。そこまで大きな声で歌っていたわけじゃないから、そこまで響くとも思えない。


…私は怖くなり、すぐにその教室に鍵をかけ他二人のいるパソコン室へと急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る