第40話9.11-1
こうして最終戦争の危機は回避された。だがしかしそれは
また新たなる不毛の大掛かりなテロ戦争の幕開けでもあった。
7月には撤退を完了しイスラム武装集団はパキスタンにとどまった。
カシミール独立派の一部は地下に潜みまた過激なイスラム戦士は
国際テロリストとして欧米諸国へと散っていった。
指導者オサマを失ったカシミール独立派は軍部反シャリフ派と連携し
て軍事クーデターを起こしこの年の10月ついにシャリフ首相を解任した。
すぐさまムシャラフ総参謀長を首相にという声が上がったがムシャラフは
固辞した。ナムストーンの微妙な輝きの変化が首相就任を辞退させ続けた
のだ。それでも実権は着実にムシャラフに集中していった。
そしてついに21世紀、2001年6月にムシャラフは大統領に就任した。
すべての公的行事を終えて3ヶ月、大統領府最上階の祈りの部屋で
久方ぶりに至福の時を過ごした。
その日もカシミールを望む山並みは美しく9月の空はすがすがしく冴えわたり
火をつけたばかりの煙草の煙を大きく吐き出したその時だった。
右ポケットの石がにわかに大きくバイブレーションを起こした。
「ナムストーン、ナムストーン、ナムストーン・・・」
一度目はインドの核実験の時二度目は自らが核実験の
ボタンを押した時だった。
このバイブレーションは間違いなく何かが起こる前兆だ。
必死で祈ったが光は収まらずさらに青黒く輝きと振動を増大
させて閃光を放ち黒くて重い塊になってしまった。
何かが起きた。人類生命を脅かす何かが起きたのだ。
ムシャラフは大急ぎで執務室へ駆け降りた。
すべてのモニターが同じ映像を流している。
アナウンサーが絶叫する。
「ニューヨークの貿易センタービルに旅客機が激突し炎上しています。
飛行機丸ごとの自爆テロのようです。あ、またもう1機が突っ込みました」
「こちらペンタゴン。旅客機が炎上しています」
「旅客機2機がハイジャックされた模様」
「混乱しています。ニューヨークセンタビルに2機の旅客機が激突炎上
しています。ああ、中層から崩れ落ち始めました。最悪です、
センタービル崩壊です」
ムシャラフはウサマのあのひげ深い面長な冷徹なまなざしと、イスラム
よ永遠なれアメリカに死を!という言葉を思い出した。
『ただではすまん。これは戦争だ。国際テロとの戦いを宣言する』
すぐにアメリカ大統領からのメッセージが届いた。テロリストによる
アメリカへの宣戦布告と見なす。国際テロとの戦いに加わるように
との内容だった。
ほどなく首謀者はウサマであると断定された。
しかもアフガニスタンのタリバンがかくまって
いることが判明したのだ。
あのオマル教師率いる神学生イスラム原理集団
がほぼアフガン全土を支配している。ムシャラフ
は以前からタリバンを支援し続けててきた。
だが大統領となった今はすでにウサマとは
カルギル戦で決別し今は決断の時だ。
12月に入って5人の武装グループがインド国会
を襲撃した。数十名の死者が出てインドはこの
グループをイスラム過激派と断定しパキスタンと
インドの対立は一層激化した。両国合わせて数十
万人規模の軍隊が実効支配線付近に投入された。
ムシャラフは決断した。国際的な反テロ機運の
高まりの中でタリバンと決別することを。
しかしということはカシミールのイスラム武装
勢力とも手を切ることになる。そして自らがテロ
の標的になることを意味しているのだ。
アメリカはこれを歓迎した。パキスタンへの
経済制裁もこれを機に完全解除された。
そうしたある晩ムシャラフは不思議な夢を見た。
ナムストーンナムストーンと叫びながら空を
どんどん上昇していく夢だ。
宇宙からちっぽけなわが国土をじっと見下ろし
ている自分がいる。俺はいったい地上で何をして
いるんだろうと考えながら飛んでる自分がいる。
さらに上空に舞い上がって国境も何もわからない
青い地球がそこにはあった。かけがえのない地球
宇宙と同じ心を持つ宇宙、わが心生命とはいったい
何だ、生きてるって何だと思うとすさまじい感動が
背骨を突き抜けて湧き上がってきた。
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