第39話危機2

千歳一遇のチャンスが到来した。

カシミール独立運動は激化していった。

ムシャラフはパキスタン東部にイスラム戦士を終結させた。


いよいよカシミール奪還の日は近い。

ムシャラフの心は高鳴った。


カルギルでインド軍施設へのテロが激化し

住民移動が始まった。


南は南へと難民の列が連なり、ついに

5月カルギルの町はイスラム過激派に占領された。


インド軍はミサイルともども南下しカルギルの町を捨てて

スリナガル山系まで退却を完了していた。

ムシャラフは50年目にして宿願のカルギルを奪還したのだ。


ここでパキスタン正規軍を大量に送り込めばカシミール南部の

制圧は可能かもしれないがあまりに危険すぎる。

決断しようとすると石が不気味に輝く。これは罠かもしれない。


和平交渉を探るシャリフ首相から待機の指令が来た。

国境で数万のパキスタン正規軍が待機する。

カルギルでイスラム武装勢力がじっと息を凝らして待機する。


1日が過ぎ二日がたち交渉は決裂した。三日目未明、

インド空軍による大規模な空爆が始まった。

カルギル周辺からカシミールの峡谷に沿って

日夜空爆は続いた。


実効支配線を越えれば全面戦争になる。

パキスタン側から対空ミサイルを一発でも発射すれば

これもまた全面戦争だ。全面戦争は核に直結している。


イスラム武装勢力の防空機能はゼロに等しかった。

カルギル近辺のミサイルや高射砲はインド軍が持ち去って

まったく無防備だ。


インドはパキスタンの侵略行為を国際社会に訴えつつ空爆を続行した。

仲介役のアメリカはインドに有利に動いた。アメリカは1年前の

パキスタン核実験からパキスタンに経済制裁を科していたのだ。


シャリフ首相は窮地に立った。カルギルではヒンディー過激派との

戦闘が熾烈を極め死者は1000人に近づいた。


カルギル南のスリナガル山麓に集結するインド軍は10万を超えた。

60発のミサイルはインド各地からパキスタン全土に照準が定めてある。


パキスタン側のミサイル「ガウリ」25基も発射準備は完了していた。

核弾頭搭載の可能性は大だ。実効停戦ラインからパキスタン側にも

6万を超える正規軍が待機していた。


日一日とカルギル北部の空爆は激しさを増しヒンディー過激派の

襲撃が激化していった。


カルギル占領部隊イスラム過激派の総指揮官はウサマだった。

独立派のリーダーとしてカルギルを拠点にテロを指揮し

パキスタンからのイスラム戦士を導きいれて一大勢力になっていた。


5月10日パキスタンからのイスラム武装勢力一万を迎え入れて

カルギルを制圧したが町はもぬけの殻で全く抵抗らしい抵抗はなかった。

空爆開始とともにヒンディー過激派が潜入してきた。


このころムシャラフは東部戦線司令部にいた。

右ポケットの小石は小刻みに震え続けている。

戦況が緊迫してくると振動と不気味な輝きは確実に増大した。


首相官邸と数分ごとに連絡はとっている。

シャリフ首相は開戦と同時にアメリカに連絡を入れた。

開戦時期はムシャラフ総参謀長に一任していたが

それは5月10日未明であった。


イスラム過激派を合流させカルギルを制圧したところで

停戦交渉に持ち込むという作戦であった。

ミサイルを配備し大量の正規軍を国境沿いに待機させて

おけばインド軍もおいそれとは手出しはできまい。


アメリカはインドに自制を促し国連でパキスタンの侵略

であると認めさせた。シャリフは条件次第でイスラム

過激派は撤退させるとアメリカとの交渉に入った。


交渉は難航し日増しに空爆とヒンディー過激派のテロが

激化していった。1ヶ月がたってやっと停戦合意に達した。

過激派同士の戦闘で1000名以上が戦死し、

ついに撤退命令が下った。


独立派にもパキスタン領への正式な撤退命令が下った。

独立派の指揮官ウサマは怒り心頭に達した。

裏切られたのだ。パキスタンにもアメリカにも。


アメリカとの交渉のためにカシミールは利用された。

アメリカはインドとパキスタン両国と取引をしたのだ。


ウサマは悩んだ。自爆すべきかとどまるべきか?

はたまたパキスタンのイスラム武装勢力と合流すべきか。


ムシャラフ総参謀長はウサマを将軍として正規軍に迎える

と約束していた。しかし数日後ウサマは10数名の腹心と

ともに行方をくらました。「イスラム戦士よ永遠なれ!

アメリカに死を!」という言葉を残して。

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