第41話9.11-2

ムシャラフはうっすらと額に汗を浮かべ現実に目覚めた。

小鳥のさえずりも淡い太陽の日差しもすべてが新鮮だった。

何かがムシャラフの奥底で変化した。


日ごとに見るものすべてが慈しみの対象となってきた。

実務は変わらず多忙ではあったが心にゆとりができた。

ナムストーンが心のありようをそのまま表すこともよく分かった。


ナムストーンと唱えると石も心にも生命力がわいてくることを

何度も経験した。そうしたある日パソコンの掲示板に、


「不思議な石をお持ちの方いませんか?今度激しく振動し

青黒く輝いたら必死でナムストーンと祈ってください。

詳しいことは下記まで御連絡ください」


「ナムストーンだって!」

ムシャラフは驚いた。あの石と出会ったとき無意識に口をついて

出た言葉が”ナムストーン”だったが、不思議な一致だ。


世界ではもうかなり存在するのかもしれない。今度輝いたら

ということは、この9月に世界中でこの石は輝いたに違いない。

必死で鎮めようとしたが静まらなかった。


これからもこのようなことが起こりうるということだ。

ムシャラフは大きくゆっくりとため息をついた。


ほどなくアメリカはアフガニスタンの空爆を開始した。

タリバンの掃討とウサマのあぶり出しのために連日

空爆とミサイルを撃ち込んだ。


地下深くを破壊する新型爆弾も投入された。

タリバンは降伏したがそれでもウサマは現れなかった。


ムシャラフはナムストーンが小刻みに震え続けている

ことを知っていた。不気味に青黒く輝きを増していた。

このアフガンから不穏な動きが始まっているようだ。


ムシャラフは基地をアメリカに開放しタリバン攻撃の

さなかである。パソコンに向かう暇はなかった。

パキスタン領内のイスラム過激派の中にはまだ

たくさんのタリバン支持者がいるのだ。


アフガン攻撃が長引くにつれムシャラフは不眠不休で

イスラム戦士と将軍たちをなだめに回った。


身も心も疲れ果てて官邸でぐっすり眠りこんだ

ムシャラフに真夜中ついにバイブレーションは起きた。


階上の小部屋に駆け上がり大声でナムストーンを叫び続けた。

30分間大きく震えたり青白く輝いたり閃光を放ったりしていたが、

必死で祈るとパッと明るい光を放って乳白色の美しい石に戻った。


「今回はうまく危機を回避できたようだ。

ナムストーンメンバーに連絡してみよう」


「はい、こちらは日本のオサムオサナイです。

今回は危機が回避できました。イラクでの

核発射を阻止することができました。

間もなく詳しい情報を送ります」


実はこの時イラクではとんでもないことが起こっていた。

一国の独裁者が判断を誤ったとき、それは

全人類の死滅を意味するのだ。

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