第27話天空の瞳1
キーツは「グッドラック!」
とって人ごみに消えた。
次は松ヶ崎だ。
かなりきついヘアピンカーブの手前で
ワゴンを止めてケムンを降ろす。
妙の字はここから歩いてすぐだ。
そのまま西に北上して西加茂の舟山の
ふもとでナセルを降ろした。
人々が続々と手にライトを持って
集まってきている。蒸し暑い夜だ。
オサムはレイを金閣寺の北の岩山に降ろして、
「足場には気をつけるんだよ!」
と叫んだその時、ピカッと稲妻が走った。
すぐに雷の音。夕立だ。雨具は用意してある。
少々の雨でも送り火は決行されるはずだ。
オサムが愛宕山登山口に車を止めたときには
雨脚はかなり激しくなっていた。車の中で
ナムストーンを唱え続ける。
今午後7時半だ。あと30分で雨は止むだろうか?
かなり激しい。みんなは大丈夫か?
キーツは右大文字の中腹で雨ををしのいでいた。
薪にはブルーシートがかけられ町衆とボランティア
がずぶぬれになりながら追加の薪のほうも保護している。
「止む止む、すぐやむ!」
人々は口々に叫んでいる。
ケムンもナセルもキーツ同様に土砂降りの中を
じっと止むのを待ち続けている。
岩山のレイは大丈夫か?
あそこだけは足場が悪い。
レイはふもとのコンビニにいた。
岩山は標高が1番低くて町の中にある。
ここからすぐに現場にいけるから
大丈夫だとのことだった。
よし!あと20分。
雨脚は少し弱まってきた。あと10分。
午後8時寸前、雨は小降りになってほとんど止んだ。
オサムは車のドアを開けて登山口を登る。
暗がりに多くの人影がうごめいている。
人の傘が邪魔だ。こちらはレインコートだ。
このまま空を飛ばなければならない。
足場を固めて東方の上空を見る。
天空は真っ暗だ。雨は完全に止んだ。
8時きっかり街の火がいっせいに消えた。
一瞬にして京の街は真っ暗闇である。
右大文字付近に幻想的な灯がともり始めた。
いよいよだ。松ヶ崎、舟山、金閣寺岩山、
鳥居本と灯がともる。
オサムは右手を大きく天空にかざし
ナムストーンを唱え始めた。
ツツツーッと体が空中に浮き上がる。
斜め45度、さらに上昇する。
見えてきた、左手にレイ、そのむこうに
ナセル、ケムン。一番遠くにキーツが
真正面に見えてきた。成功だ!
京都中央ホテルの上空700mあたり
右手を突きつけてしばしホーバリングをする。
天空の美景が広がる。北に向いて右手に大きな
如意ヶ嶽(通称大文字山)の大の字。
真北の松ヶ崎の妙法の二字。
左手上方の舟山にヨットのような船の形。
左手下方金閣寺岩山に小さな大の字。
最も西のほう左手奥が鳥居の形だ。
どんな意味があるのだろうか?
左手からみると鳥居、大、ヨット、
妙法、特大の大の字である。
よくよく見ると舟形を頂点とした
立体ピラミッドに見えなくもない。
『あ、そうか』
と気づいたその時、右手に握り締めていた
ナムストーンが震えだした。
みんなで目を見合わせる。そっと開けてみると、
なんとピンク色にバイブレーションを起こしている。
天空を見上げると真っ暗で何も見えない。
もう雨は止んでいたがおそらく上空は
暗くて重たい雨雲なのだろう。
数十秒ほどバイブレーションが続いたかと思うと
みんなの体が急に上空へと跳ね上がった。
斜め45度から水平を通り越して、
みんなの意思とは関係なくそのまま、
雨雲を突き抜けて、上空数百mを跳ね上がる。
雲の切れ目からまだ美しい炎文字が見ている。
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