第19話研究発表2
キーツが今回帰国したらすぐにロンドンに行って
その石を確認してくるといった。今確認できているのは
五つのナムストーンと四つの光る石。五人は昼食を食べながら
頭の中は謎だらけでめまぐるしく思いをめぐらせていた。
昼食を終えてレイの研究発表に入った。レイは古代の宗教、
アニミズムやシャーマニズムの発生の初期からすでに黒石
玉石水晶などの石は世界の各地で占いや予言や魔よけや
呪術のために用いられてきた。自身守護のためには勾玉や
宝石輝石を数珠状につなぐネックレス。十字架もどきの
魔よけペンダント。こぶしに魔力をこめるためのブレスレット。
金銀の貴金属とともに古来から現代に至るまで数多くの
パワーストーン信仰があるものと思われる。効力の差こそあれ
自己暗示が加味されて間違いなくいくらかの力は与えられるようだ。
レイはその中でも水晶の大玉占術に注目した。よく磨かれた
水晶の玉は顔を近づけると第一表面と中央層、反対側の裏面と
三つの写面層が現れる。第一表面は丸く大きくまのびして鼻と顔の
中央部分だけが大きく映る。裏面は逆に顔もろとも小さく回りの
景色まで写してしまう。この両面とに乱反射も加わって間接照明
の光の具合でスペクトルが現れる。
屈折率が微妙に違うのですべてがミックスされて謎の顔が中央に浮かぶ。
それは自分の顔ではあるのだが自分の心のままにうれしい時はうれしそうに
悲しい時は悲しいように映りまたそう見える。
ここにひとつの活性要素、つまり自分がこうあってほしいと言う思いを
強く加えると、そのようにすべてが見えてしまうのだ。
白雪姫の悪い女王のように鏡よ鏡と呼べば鏡は女王の好む答えしか応えない。
まさに水晶の玉は占う術者の意向のままに反応するのだ。
大確信に基づいた音声は人を金縛りにする。確信の波動が言霊ことだまとして
民衆に伝わり民衆は勇気を得て集団(催眠)行動にでる。
戦にしろ巨大獣との死闘にしろ天災にしろ、人々は太古の昔から
大災難に遭遇すると知恵を絞り一致団結して勝利してきた。
その要がシャーマンだったのだ。
水晶の玉の実態は術者の確信の増幅器だったようだ。
ナムストーンとはまったく性質内容が違う。
結論としてナムストーンは宗教ではないというものだった。
ここで休憩。五人はさらに寡黙になる。
オサムオサナイが言った。
「石の色が濃い緑色になっている。皆もそうだと思うので
五分間みんなでナムストーンを唱えよう」
「OK!」
全員が賛同して座りなおした。
パソコンの脇に各自ナムストーンを置いて小声で唱和する。
すぐ美しい合唱となってみるみるみんなの石はピンク色に輝いた。
数センチ浮かんでいたような気もする。
さあ今度はオサムオサナイの番だ。
まずはじめにこの16日の夜の大文字の送り火の由来を説明した。
さらに古書によるそれ以前からの、
『五山に火を放ち天空より舟を呼ぶ』の一説を紹介した。
皆身を乗り出して聞き入った。
「8月16日の夜に天空より舟を呼ぼうというわけかい?」
キーツが聞く。ナセルがすぐさま、
「どうやって舟を呼ぶんだい?」
「それを明日からの実験で決めるんだ」
みんなはなるほどと言ってうなづいた。
細かい実験のスケジュールはみんなの要望を振り分けて
この三日間すでに決まっていた。
「16日は今世紀最大の実験と言ってもいいほどの実験を
やりましょう。幸い前日はまとめで一日あいています。
三日間である程度の精密な実験結果を出して15日には
壮大なリハーサルをやってみようと思います」
そう述べて締めくくりにオサムオサナイは
ナムストーンの予知力に触れた。
「午前中のケムンの光る石に関しては何らかの人類的な
危機に際して警告を発するような気がしてなりません。
詳しい発光の記録を照合してみなければ分かりませんが
ナムストーンとも何かの関連はあるものと思われます。
とするならば訓練すれば皆何らかの予知が可能になる
ような気がします。
現に私は仲間が危機の時にはどうも胸騒ぎがするようです。
では以上で私の研究発表を終わります」
休憩に入った。トイレに行ったりコーヒーを沸かしたり。
レイがオサムに聞いてきた。
「予知のときってどんな風になるの?」
「時間がなくて説明できなかったけど、まず胸騒ぎがして石を
見ると濃いグレイに沈んでいていくら祈っても明るくならないんだ」
「いくら祈っても明るくならないの?」
「レイの王宮での事件の時にはまだそういうことはなかったんだけど」
みんなが戻ってきて最後のキーツカーンの研究発表が始まった。
テーマは『共鳴』だ。
ナムストーンは心のセンサーとして所持者の心の状態を
色彩と明度輝きによって表現する。真空中でもそうなのかと
疑問は湧くが間に遮蔽物を置いても何の影響もなく変化する。
それも心と同時である。逆にナムストーンと念じることによって
その明度色彩輝きをより明るく鮮やかな方向へと変化させることが
できそうなのだ。心をコントロールすることが可能になるかもしれない。
この効果は個人だけのものではなさそうだ。ナムストーンどうし
が影響を与える。まさに共鳴だ。かなり遠方でもそれは可能のようだ。
現実にレイは猟銃を向けられていた時耐えがたい強烈なエネルギー
を感じている。ナセルもバス爆破事件の時にみんなの祈りの力を
感じているし、キーツ自身もラインの濁流を駆け抜ける時に
みんなの顔が浮かぶほど強烈な念力を感じている。時空を越えて
ナムストーンの波動は伝播する。瞬時にどこにでも、それこそ
五人が念力を合致させれば何が起こるか分からない・・・?
キーツはテレパシーやテレポートなどの超自然現象を列挙した。
そして最後に一人ひとりの顔をじっと見つめながらキーツは言った。
「今我々はこの超自然現象を体験できる当事者としてここにいる」
さて五人の研究発表はひとまず終わった。まとめてみると、
ナムストーンは人の心を映す不思議な石だということ。石どうしで
感応共鳴し増幅されて大きな何かを現出しそうだということ。
よく似た光る石の存在。光る時期が一致しているようだということ。
警告や予知の可能性を秘めているということ。ナムストーンは
宗教ではないということなどがはっきりしてきた。
意見交換が始まって、まずオサムオサナイの予知の様子を詳しく
再現してみることになった。
まずはじめに胸騒ぎがする。石を見ると濃い灰色で透明度も悪く
輝きもない。祈ってもなかなか明るくならないので不安がつのる。
それから数時間後に何かが起こる。ナムストーンを持ってる
ものの身に何かが起こる。ナセルが自爆テロに出くわした時、
テレビにテロップが流れて続いてナセルの顔がテレビに映った。
みんなからのメールが入りみんなで祈り始めると石は明るく
輝き始めた。次は阪神大震災のときだ。寝る前に強い胸騒ぎ
を感じて石を見ると真っ黒く震えている。
いくら祈っても明るくはならなかった。疲れてそのまま
眠ってしまった。その明け方オサムオサナイは大地震に遭遇した。
三回目はキーツの大洪水の時である。このときはもしかしたら
キーツが巻き込まれるかもしれないという予感がしてて、胸騒ぎ
を期待していた節がある。案の定胸騒ぎが来て石を見ると真っ黒だ。
やはり祈っても明るくならない。この時はすぐに皆にメールを送った。
「祈ってください!キーツが危ない!」
キーツからは何の連絡もなかったがオサムにはもう分かっていた。皆の
祈りで石が輝きだした頃キーツは濁流の中を必死で走りぬけていたのだ。
ケムンの時はケムン自身が胸騒ぎを感じてトルコ地震の前日に家族へ
電話を入れている。このときはオサムオサナイは何も感じ取ってはいない。
今はまだ予知には個人差があるのかもしれない、がその能力は各自必ず
顕在化して来るものと思われる。いずれにしても祈っても明るくならない
という時には慎重に神経を研ぎ澄ます必要があるようだ。
さてもうひとつの大きなポイントは光る石の存在だ。今なら昆明の博物館
にアクセスできる。光る石の詳細なデータ類を送ってもらおうと打信したが
データ類は公安当局のチェックが入るので一切国外へは送れませんとのこと。
折り返し館長の段思平さんから電話が入った。
「まことに申し訳ありませんがデータは公安の許可がなければ送れません。
できればぜひ一度雲南省へお越し下さい。四川省青海省を含めてこの地域
には興味深い謎がたくさんあります。恐竜の化石はいたるところにありますし、
おびただしい洞窟群や前人未到の奥深い山々には不可解な現象や古代の遺跡、
謎の類人猿の棲息跡など、つい最近では数万年前のものと思われる不可思議な
宇宙土器がこの町のすぐ近くで発見されました。また四川省では昨年古代人の
冷凍ミイラが見つかっています。まさにこの地域は古代ミステリーの宝庫です。
来ていただければかなりの資料をお見せできますのでぜひ昆明へお越し下さい」
博物館館長の段さんはかなりの情熱家のようだ。それに極秘の何かがあるような
気もする。オサムオサナイは、
「必ず年内にお伺いします」
と言って電話を切った。
メキシコ、ペルー、英国は今夜未明にアクセスすることにして
本日のプログラムは終了した。
夕食は午後八時に祇園平八亭の2階に予約を入れてある。みんなは5分間
ナムストーンを唱和したあと京都中央ホテルから河原町をくだり四条から
鴨川を渡って八坂へ向かった。蒸し暑い中浴衣姿の少女たちを皆珍しそうに
見とれていた。『この大空に舟が来るのか?』オサムは一人曇天の空を
見上げながら四条大橋の上をみんなとそぞろ歩いていった。
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