第17話京都に集合3

もし我々が力を合わせて戦う相手があるとすれば、

それは邪悪そのものかもしれない。


オサムオサナイはそう思っていた。

人間の内なる邪悪と宇宙にも蔓延する邪悪。


日ごろは内に隠れていて縁に触れて顕在化する邪悪。

人間はなかなかこれをコントロールできない。


敵となるものは考えればたくさんあるようだ。

人間生命の奥に潜む権力欲支配欲その裏返しとしての

ジェラシーなどなど。


調和ではなく分離、建設ではなく破壊、共存ではなく独占。

自由ではなく束縛、話し合いではなく暴力。わがまま、

跳ね上がり、自己ちゅー等々敵は無数に存在している。


テロリストとの戦いになるかもしれない。この美しい地球から

邪悪をいっそうできれば、それは不可能かもしれないが、

この宇宙何が起こるかわからない。


石を手にしてからオサムオサナイはそう思うようになっていた。


ケムンは見るからに学者だ。黒縁のめがねをかけて口ひげ

を生やし威厳がある。


レイはチャーミングな小柄な少女だ。大きな黒い瞳に理知的なまなざし。

ネパールではまだ去年の乱射事件の余波がくすぶっていて、


指揮官だった一番上のおじが今王位を継承している。

ゲリラのテロも続いており政情はかなり不安定だ。


自己紹介が一通り終了すると、五人はそろって右手に石を握り

円陣を作った。呼吸を合わせて「ナムストーン!」と叫んだ。


するとその瞬間五人は空中に10cmほど浮き上がったのだ。

「エー?」皆驚いてたがいに顔を見合わせた。


話すことは一杯ある。とにかく京都に向かうことにした。

5人は大型ワゴンに乗り込んだ。レイの荷物が相当ある。


祖母がお供を付けようかと言ったのをもう大人だから

と相当絞り込んだのだが。


京都中央ホテルは河原町御池の角にあって15階建て

の高層ホテルだ。河原町をはさんで市庁舎がある。


このホテルは10年前にたった。それまでは観光都市

の規制で7階までしか建てられなかったのが、


どういうわけかこの年から規制が緩和されて15階

建てになった。まわりに高い建物がないから


最上階からは京都の町が一望できる。市のほぼ中央に

位置し賀茂川や繁華街にも近く、東西北と歩いて

1時間以内でで山すそに当たる。


男性4人は最上階の大部屋に入った。レイは向かいの

ツインルームに一人ではいって後で大部屋に来る。


ポーターは数人でレイの荷物をを運んでいる。大部屋

はツインが二つ合わさった部屋で各自ベッド脇に個人

用の机がある。豪華な男子寮4人部屋といったところだ。


中央の居間には10人ほど座れるソファーとテーブル、大型

スクリーンとビデオデッキ、電子ボードもセットされている。

完璧だ。皆とても喜んでくれた。程なくレイがジーパン姿で現れた。


「オービューティフル!マイフェアレディ。

さ、早く輪の中に入って」

ナセルが言った。


「今四人で空港でやったように右手に石を握り締めて

ナムストーンをやったんだけどぜんぜん浮かないんだ。

早くこの間に入って」


「OK!」

「せーの、もう一度。ナムストーン!」


みんなで唱和した。すっと30cmほど浮かび上がって

すとんと着地した。


「やはり5人じゃないとだめだな」

ケムンが言った。

「大声出してナムストーンと叫び続けてみようよ」


キーツがすかさず、

「そうだね、叫び続けてみよう」


みんなは大きくうなづいた。

せーのでみんなは大きく深呼吸して、

「ナムストーン、ナムストーン、ナムストーン・・・・」


10数秒がやっとだ。しかしその間は確かに宙に浮いて

いるような気がした。


どっと疲れて皆床にしゃがみこんでしまった。

ナセルは寝そべっている。オサムオサナイが言った、


「今日はもう休みましょう。長旅の疲れもあるでしょうから

シャワーを浴びてゆっくり休んでください。明朝9時から

明日一日かけて研究発表会をやりましょう」


みんなで叫んだ。

「OK!グッドナイト、ナムストーン!」


その瞬間、しゃがんだままみんなのからだが一瞬宙に浮いた。

寝そべったまま着地したナセルは頬杖であごを打った。

みんなの笑い声が大きくはじけた。

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