第15話京都に集合1

7月は卒業のシーズンだ。キーツカーンは親元の

ゲッチンゲン大学の医学部精神科の助手になった。


キャンパスにあるグリム兄弟の象の前で両親とともに

撮った写真を4人のメンバーにパソコンで送ってくれた。


ケムンアタチュルクは大学院博士課程に進んだ。

ナセルベックハムは4年生になったが、この1年で


卒業して実業家になるそうだ。最後の夏休みに

日本に行くことをとても楽しみにしている。


ネパールのレイシッキムは、とんだ1年ではあったが

とにかく少し落ち着いて宗教学に没頭しようと思っている。


みんなが日本に来ることを心待ちにしていたのにはわけがある。

ナムストーンの秘密の力を少しでも明らかにしたいからだ。

できればみんなで力を合わせて。


期間は10日ほどしかないから各自自分の出来事や体験、

専門分野からの仮説などをまとめて、何を実験するか

いろいろと想像をめぐらした。


これは楽しくなりそうだ。

オサムオサナイはみんなの滞在要望期間の調整や

宿泊の準備をしなければならなかった。


滞在期間は8月の10日から20日までの10泊11日。

滞在場所は京都中央ホテルの最上階の二部屋。


その1部屋はレイシッキム専用の部屋。

男どもは雑魚寝で10日間一緒と決まった。


みんなが今一番知りたいことは5人で力を合わせれば

どのくらいの現象を引き起こせるかということだ。


レイは宗教的要素からこのような事例がないものか調べ

ることにした。ケムンはもっと多くの人々がこの石の

存在に気づいてもいいのではないかと思っている。


過去の歴史の中でこのような石の物語を古書の中から

いくつか探し出してみることにした。


ナセルは石そのものに興味がある。できれば石を砕いて

物理学的化学的詳しく調べてみたい。


宇宙の鉱物の中でもまれにみる石だ。輝石の部類に入る

と思われるがとても硬い。惑星からの隕石や


この地上に存在する鉱物とこの石との詳細な構成元素比

などを徹底して調べてみたい。


キーツカーンが最も興味を持ったのは生命とナムストーン

との感応の妙である。どのような生物学的生化学的システム

によってナムストーンは心に共鳴し、心は石の色彩に感応するのか。


音声との波動伝播の実相などなど。

夏休みの前半は皆自らのテーマの研究に専念した。


オサムオサナイは右京図書館の古書コーナーで

『大文字の送り火の謎』

と言う古書を手にした。


ちょうどみんなが来る時、8月16日にこの送り火がある。

その由来を調べておこうと思ったからだ。


この資料によると「平安時代の末期から中世の初め

にかけて天変地異があいついで起こり京都や鎌倉でも

おびただしい死者が出た。


その諸精霊を弔い天に送り返すための火祭りとして

京都禅宗の五山が中心となってはじめられた」

という説が定着してはいるが、実ははるかそれ以前から


京都盆地では東西北の三方向の五箇所から

八月中旬に火をたく風習があったそうだ。


まだ平城京のころの記録に次のように記されている。


『奈良平城の都の北方十里に大盆地あり。琵琶の水をしたため

底に水がめを擁して東西に伏流あり。北方より二水流れ来たりて


中央にて交わり下大坂へと流れ至りて大海へと注ぐ。北に三山

東西に各峰ありて七月の七日を過ぎて九日目、五山に火を放ち

天空より舟を呼ぶ云々』


原文は漢文だが意訳してある。平安遷都前に帰化人が調査した

ものと思われる。と著者の古書学者の注意書きがしてあった。

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