第14話大洪水2

「ナムストーン、ナムストーンナムストーン!」

思わずナムストーンが口をついて出た。


脂汗がにじみ出る。慎重にハンドルを握って加速する。

あと十数キロでマインツだ。高い絶壁が両岸に続き

川幅は狭くなる。激流が空を飛ぶ。


土嚢も飛び越えて雨と水しぶきとでワイパーは全開。

土嚢がガードレールの目印だ。完全に水の中を走っている。


一瞬のきりそこないでたぶん即死だろう。緊張で

冷や汗がからだ全体を覆う。ナムストーンを叫ぶ。


流木が増えてきた。たまにある橋に木が絡まって河岸の

道路に流れが分流する。洪水の道路を慎重に土嚢を目印に

走り抜ける。ナムストーン!頑張れもう少しだ。


峠を切り抜けやっと視界が開けてきた。マインツだ。

川幅が広がり流れも緩やかになってきた。


『助かった!』

キーツは大きく息を吸った。


東へ向かえばマインツ市外からフランクフルトだ。

ここからラインの本流と分かれてマイン川沿いに走る。


ラインの本流が逆流いている。

水没していた道路がはっきりと姿を現してきた。


車も人影もまったく見当たらない。

ほどなくフランクフルト市街に入る。


激しい雨の中、町の中央を抜ける。

よく泊まったユースホステルが川沿いに見える。


あの懐かしい川床も完全に水没していた。

すごい川の水のボリュームに圧倒される。

早くゲッチンゲンに向かおう。


フランクフルトからアウトバーンに入る。

かなりの車が北に向かっている。

それでも移動のピークは過ぎたようだ。


このままいけば夕方には我が家へたどり着け殴打。

それにしても何度も通ったライン沿いのあの道も

今日は恐ろしかった。


何十年かに一度こういうことがあるそうだ。よくもまあ

軍隊も撤収したそのあとを無謀にも走り抜けるとは。

キーツはあらためてナムストーンに身震いがした。



キーツは夕方にはゲッチンゲンの家にたどり着いた。

両親はさほど心配していなかったようだ。


「どうだったラインは?」

と父が聞いた。


「ああ、少し荒れ狂っていたよ。何か気に入らないことが

あるみたいだ。特にシュバルツバルトのほうにはね」

と言っておいた。


早速みんなからのメールが届いていた。

案ずるなかれキーツカーンは健在なりだ。


オサムオサナイにはもう分かっていた。

ヨーロッパの異常気象でキーツカーンが

何かに巻き込まれるかもしれないと予測していた。


程なく全ヨーロッパに非常事態宣言が出た。

「キーツカーンがこの大洪水に巻き込まれそう

になっている。皆で祈りましょう!」


案の定キーツはナムストーンと叫びながら

危険が一杯のライン川をさかのぼっていたのだ。


テレパシーは感応し共鳴する。

強力なエネルギーを鼓動の中に感じて

キーツはこの難局を切り抜けることができた。


月日を経るごとにメンバーはナムストーンの力を、

とてつもない力を感じるようにになってきていた。

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