第11話大地震1

オサムは親父とたんすや棚を起こしながらテレビのスイッチを入れた。

神戸、淡路島あたりが震源でマグニチュード8を超える大地震が起きたのだ。


空と海からの最新映像が入った。伊丹、尼崎、宝塚、西宮、芦屋。

神戸市全域と淡路島が壊滅状態だ。


空からの映像で阪神高速の高架が大きく北側に倒れているのが見える。

海からの映像で神戸市内に数本の煙が大きく空に立ち上っている。


道路はパニック状態で主要幹線は完全にストップ。電車はもちろん

動いていないので人々は線路沿いを列を成して歩いている。


大阪方面へ避難して行く人々と神戸方面へ安否を確認しにいく人々とで

各線路上は大混乱している。各地からの救援の消防隊も立ち往生だ。


少し落ち着いて朝食のパンをかじりながらオサムは家族と

テレビにずっとかじりついていた。


神戸の友人に電話をしたがまったく通じない。

午前9時に大学の先輩から電話が入った。


「芦屋の研究所までできるだけたくさんの水を運びますので

手伝ってください。ワゴン車で途中拾っていきますのでよろしく!」


ワゴン車はすぐに来た。

「大学から朝一番下宿生に連絡があってクラスや部活単位で

神戸の支援に行くことになったんだ。皆今神戸に向かっている」

荷台にはキャスター付き大型容器が6個積んである。中身は水だとても重たい。


情報が交錯している。神戸は壊滅状態で火災があちこち起きているのに

水が出ない。自衛隊も動かない。政府も非常事態を宣言できない。


何が起きているのか事の重大さに政府首脳は気づこうともしない。

各国からの災害時緊急支援も受け入れ態勢が整わずに延びに延びた。


その間数千人もの人が焼け死んだ。空からの消火も山火事用の

消化剤が使用できずに神戸の空を旋回するばかり。


自衛隊は緊急出動をかけて待機していたが知事の要請が遅れて

足踏みしていた。その間瓦礫の撤去救出作業が遅れて数千人が圧死した。


オサムたちはワゴン車の前面に救援車両とおお書きして国道へ出た。

名神、中国道、2号線、43号線は渋滞と交通規制で通れない。


43号線の阪神高速道路は横倒しの映像をさっき見た。

ものすごく多くの人々が今下敷きになっているのだ。

火災があちこち発生して火の勢いは増している。


「芦屋の理化学研究所へ向かう。電気ガス水道特に水は緊急を

ようする。我々の任務はこの数日間水だけを責任持って

運ぶことだ。食料、衣料品、薬などは別の車が運んでいる」


池田から176号線の宝塚方面へ入る。

手前からずっと渋滞だ。

即席のおにぎりやが3個500円で売っている。


このあたりはあまり地震の影響を受けていないようだ。

宝塚市内を抜けて甲かぶと山を上り北西に迂回して

南下すると西宮市の夙川に出る。


途中間違えて阪神競馬場のほうに出てしまった。

新興住宅地の崖が崩れて十数軒が土砂に埋まっている。

ショベルカーがでて多くの人たちが動いている。


救急車が何台か来ていて赤いライトがまわっている。

皆黙々と作業をしている。今現在何十人かがこの下に

生き埋めになっているのだ。


道路沿いの一列だけが被害を受けているところがあった。

断層が一直線でずれたのだろうか?かなり傾いた家々が

そのライン上にずっと果てしなく続いている。


『この分だと神戸市内は相当すごいぞ』そうおもいつつ

道の間違いに気づいて北上する。やっと夙川が見えてきた。


病院ががけ下に見えた。人であふれている。

この先は間違いなく大変なことになっているはずだ。


夙川まで下りてくると家屋は壊滅状態だ。

前方に崩れた家。道路に弾き飛ばされてひしゃげた家。


屋根瓦だけで完全にぺしゃんこになった旧家。

車販売店のショールームはまったくつぶれて三階部分の

大きな社名入り看板がでーんとそのまま一階部分に居座っている。


高い建物がまったく見えない。道路の両側は

見渡す限りの瓦礫の山だ。


まだたくさんの人々がこの下にうずまっているはずだと思うと

身を切られる思いがする。


歩道には人があふれて焚き火で暖を取りながら

瓦礫の山ではところどころ作業の人々がいる。


商店街に入ったがここも壊滅状態。家財道具と人があふれて

車と接触しそうだ。やっと芦屋の山手に着いた。


研究所付近は高級住宅街のせいかそれとも衝撃は少なかったのか

ほとんど被災していないかに見えた。高層建築群はそれなりに残っていたのだ。


駅前の大きなビルが道路に倒れ市庁舎の四階部分が完全にへしゃげてしまう

ほどのすごい揺れだったのだが、場所によってその被災の様子はまったく違う。


古い二階建ての多い住宅密集地は完全に全壊である。火災もこの地に多く発生している。

一戸建ての多い芦屋駅前付近は家屋によってまちまち。頑丈なところ以外は


ほとんど傾いたりつぶれたりしている。新築でも安普請はあからさまに倒壊している。

かえって古い建物のほうが残っていたりするが瓦屋根でぺしゃんこに

つぶれた旧家も多く見られた。


つぶれた家々の下には多くの人々が生き埋めになっているのかと思うと

自分の非力さが情けない。救出作業はあちこちでやってはいるが点と点だ。


大都市が壊滅したのだ人力なんてほんとしれてる。クレーンとか大型機械がいるのに、

目の前まで炎が迫ってきているのに、水が出ない!最悪だ。

泣く泣く見殺しの悲劇が火災現場では起きていたはずだ。


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