第2話いい響き
アトピーのことを思うとほんとうに気がめいる。JRで亀岡へ。
電車の中で誰にもわからないようにして石を見つめた。輝きがない。
青緑色だ。石を手のひらに載せたままボーっと外を眺める。
「そうだきょうTAの発表がある」
そう思った瞬間手のひらの石はは急に明るくなった。
TAというのはテクニカルアシスタントの略で資格が要る。
去年1年間講習と検定にチャレンジしてその合格発表が
今日の午後にあるのだ。
早く単位登録を済ませて発表を見に行こう。自信は十分にある。
これに受かりさえすればTAのバイトが学内でできるのだ。
そう思うと勇気と希望がわいてきた。手のひらの石が明るく輝く。
そうか悲しい気持ちが楽しい気持ちに切り替わったとたんに
石の色が変化した。逆に石の色を塩化できれば、
どんな苦しい心の状態でも明るく楽しくコントロール
できるのではないだろうか。ではどうやって?
それは今まったく分からない。不思議な石だ。
自分だけの秘密の石だ。手のひらの石をぎゅっと握り締めて
大学へ向かった。はたしてTAには合格していた。
ところが人生何が起こるかわからない。
「小山内君あなた左目が少し変よ、見えにくくないですか」
そういわれて医務室にいった。すると担当医師は、
「小山内君、これは明らかに白内障だ。紹介状を書くから
大学病院でよく検査してもらいなさい。他が悪くなければ
手術は1日で済む」
紹介状を持って大学病院を訪ねた。検査に時間がかかっている。
どうも白内障だけではなさそうだ。
「アトピー性白内障と網膜剥離が起きています。早めに手術をしないと
失明の恐れがあります。ご家族と至急相談してください」
大学病院のトイレに駆け込んだ。ポケットから石を出す。
かなりのショックだ。石もグレイに沈んでいる。
両親はここのところ会社も不景気で倒産寸前だとか言っている。
早くバイトを探せと父親はうるさい。こんな時に費用も相当かかりそうだ。
帰ったらまず母親に話さなければならない。かなりの勇気がいる。
落胆する母の姿が悲しく目に浮かぶ。思わず石をきつく握り締めた。
「俺に勇気をくれよナムストーン?」
心で無意識に叫んでいた。ナムストーン、いい響きだ。
「ナムストーン!俺に勇気をくれ!」
そっと石を見つめると少し輝きだしたみたいだ。
さらに心に強く祈るとぐっと輝きが増した。
「よしがんばるぞ。今日からこの秘密の石をナムストーンと名付けよう!」
オサムは勇気を持って母親に目のことを話した。
「わかったわ。大丈夫よ。あなたがしっかりしてればそれでいいのよ。
お金のことは心配しないで。今の調子でパパにも話するのよ」
その晩親父はじっくりと話を聞いてくれた。
「金のことは心配するな。それよりおまえ自身大丈夫か?」
「ああ、だいじょうぶや」
「そうか、それでいい!」
親子で笑った。こんなことは今まで一度もなかったことだ。
そして手術は成功した。若手の眼科の権威が出張直前で執刀に間に合ったのだ。
入院もゴールデンウィークをはさんでほとんど欠席にならずにすんだ。
手術と入院費用は保険と助成金とで70万円全額免除になった。
『うーん、アンビリーバブル!信じられない!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます