ナムストーン

きりもんじ

第1話不思議な石

ナムストーン(南無石)


 不思議な石でその人の心、生命状態を映す石。

各人固有の石と独立して存在する石とがある。


その人の心がとても幸せを感じている時はピンク色に

明るく輝くが、落ち込んでいる時は灰色に暗く沈んでいる。


ナムストーンと祈りを込めて唱えることによって

石は明るさを取り戻し、勇気と希望と知恵がわいてきて、

色々な難問をきる抜けていける。


その石はさらに人類の危機を予告するセンサーでもあった。

そしてあなたもその石を持っているかもしれない。


さあ一日も早く開化して地球の危機を救う戦いに

全力で参加しよう!


     20XX年8月京都    小山内 治  

                OSAMU OSANAI

                KYOTO JAPAN


僕の名前は小山内治オサナイオサム。京都府亀岡市にある私立大学の2年生である。

京都市右京区のマンションに、両親と妹との4人で暮らしている。通学はJRだ。


最近とても変な出来事に出くわして、というより、変な石に取り付かれて、

誰にも相談できずに一人悶々としている。


その石は一ヶ月ほど前に僕のズボンの右ポケットに入っていた。

入れた覚えがないのに勝手に入っていたというのが正確だろう。


形は栗形の半透明で色が変化する。光によって変化するのではなくて

自ら発色するのだ。熱はなくそれこそ石のようにつめたい。


かなりの硬度で落っことしても傷ひとつつかない。磁気を帯びているわけでもないのに、

いつのまにか消えたりしていてまた元通り右のポケットに収まっている。


もちろん手に触れたりできるのだが、それはどうも本人だけらしくて、

あるときロッカールームでこっそりと石を手にしていたら、


誰かが急に声をかけてきて、のぞこうとした瞬間にするりと手の間から落ちて

すっと消えた。見せたくても見せられないのだ。


あるのに見えたり消えたりする。消えてるときはその体積も存在も確認できない。

自分の部屋でそっとポケットから出して机の上におこうとしたら、

すっと消えてまたポケットへ戻っている。


もう一度そっと出して今度は僕の帽子の上に具合よく置いてみたら、

うまくちょこんと収まった。居心地がいいところに存在するみたいだ。


寝ているときはたぶん消えているんだろう。確認の仕様がないのだ。

何度も手にしてまじまじと見つめる。ほんとに不思議な石だ。


3ヶ月ほどたってあることに気がついた。色や明るさ輝き具合は、

僕の気持ちのありように微妙に反応しているようだ。


気分がいいときはピンク色に明るく輝く。気分がよくないときは

暗い灰色で輝きもない。ピンクから黄色からブルー緑紫色まで

何十色と変化する。


ということはどす黒く沈んでいたらそれは地獄の生命状態だ。

幸い黄色オレンジ黄緑水色とをいったりきたりして、

適当に明るく輝いていた。


2年生になって単位の登録に忙しくなってきた。

今日は午前中にアルバイトの面接。午後から学校に出て

前期の登録を済まさなければならない。


家を出て大映通りのコンビににむかった。先日アルバイト募集の張り紙を見て

履歴書を持っていくと、今日の10時に来てくれとのことだったからだ。


これで5軒目だ。この正月明けから4軒。面接ですべて落とされている。

本屋が2軒とビデオショップが2軒だ。理由ははっきりしている。

アトピーのせいだ。


アトピー性皮膚炎のために顔面が赤くただれていて眉毛がまったくないからだ。

そのために接客のアルバイトはむつかしい。と思いつつやはり、

コンビにもだめだった。

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