NPCとの合流
魔女の家だが、あっさりと見つけることが出来た。村で見た家よりは小ぶりだが、しっかりした造りのログハウスだ。周囲の木々は切り開かれかなりのスペースが確保されている。
道中にゴブリンや植物型モンスターのプラントなど魔物はいたが、レベリングの成果が出たのかかなり楽勝で突破することが出来た。順調といえる。
周囲に誰もいないことを確認して、木の扉をコンコンとノックをする。だが返事はない、留守だろうか。
少し迷ってから窓の前に立ち家の中を覗こうとしたとき、後ろから声をかけられた。
「うちに何か用?」
慌てて振り返ると目の前にはまだ幼さの残る少女。背は高くない、150程度だろうか。まず目につくのはその衣装。黒を貴重としたローブに巨大なとんがり帽子。手には
そして長い栗毛の髪。ウェーブがかかったその髪は腰まで広がるように伸びて、小動物が身体を膨らませて威嚇しているようにも見える。
頭上には『サラ=リリット』の文字。間違いない、
勝ち気な瞳はこちらを怪しげに見据え、身長差を意に介さず強い視線を向けてくる。明らかに警戒している様子である。
家を覗こうとしたのを見られたのは流石にまずかった。出来る限りの営業スマイルを浮かべて柔らかい口調を意識して話す。
「これは失礼いたしました。旅をしている者なのですが、こちらに魔女の方がおられると聞いて、お話を伺おうかと」
「……旅? それに、妖精?」
怪訝そうにこちらを見つめる少女。魔女というのはこの子のことだろうか。それとも彼女は魔女の身内なのか。
ニキは会釈だけをして、会話には入ってこない。俺が合図をするまでは基本的に必要以上に話さないと打ち合わせした通りだ。
「この森に済む魔女なら、私よ。要件は?」
彼女が魔女? 聞いていた話では相当昔からいると聞いていたが随分と幼い。それは見た目だけで、実は高齢なのだろうか。
魔女は明らかに会話を最短で済ませようとしている。随分と初期好感度が低い、家を覗こうとしていたのとはまた別の要因もありそうな気がする。
何とか興味を持ってもらうために探りを入れていく。
「ええ、魔物の討伐をガウル村の住人から受けまして。この森の魔物についてお話を聞ければと」
まあ魔物の討伐クエストは既にここに来るまでに規定数を倒して達成してしまっているのだが。
「村の人から……!?」
おや、初手からヒットしたようだ。サラの様子が明らかに変わる。
「……話を聞いてもいいわ。入って」
彼女は俺の横を通り抜け、杖を一度扉に当ててから中へと入っていく。
カギはついていなかったが、魔法でロックをしていたのだろうか。非常に興味深い。
今まで殴り合いの殺し合いしかしてなかったからなあ……。
彼女に続いて家に入ると、中は意外と広く感じる。天井が高いせいだろうか。
まず目に入ったのは簡素なテーブル。左手には台所だろうか、食器が収まった棚があり、食料の袋らしきものも見える。
右手は扉が二つ、間取り的に小部屋が二つあるのだろう。俺たちとサラの他に人の気配はない。
「そこ、掛けて」
短い言葉でサラが指差したのは部屋の中央にあるテーブルである。了解の声を出して、椅子に腰掛ける。キィ、と小さな音を立てて椅子がきしむ。
ニキは定位置である俺の頭上に。いつもの調子でキョロキョロと周囲を見回している。
そしてサラは対面に。杖を机の上に置いて、こちらを真っ直ぐに見つめてくる。目つき悪いなこの子。
「村人からの依頼って、どういうこと?」
「今日村を訪れたら色々と頼まれまして。大体は魔物の討伐でしたけれど」
「……あなた、ノービスのくせによく引き受けたわね」
少女の言葉に驚く。何故俺の職がノービスだとわかったのだろうか。
「見れば分かるわよ。ノービスの正装なんでしょ、そのふざけた格好」
正装。今、正装と言ったか。
だからこんな犯罪者じみた服装が認められてたのか。なにそのふざけた設定。
衝撃をなんとか押し殺しながら、会話を続ける。
「まあ、一応魔物を倒すことには慣れているので」
かれこれ10年か15年は倒し続けている。幼い頃を入れればもっとだろうか。全部ゲームの話だが。
「ふうん……? でも、あの村の人たちがね……?」
少女はこちらを訝しむ。何がそんなに引っかかるのだろうか。
取りあえず会話を進めていく。
「この辺りの魔物はゴブリンとプラントくらいですか?」
「ええ、この森ならそのあたりね。あとは西にはオピスがうじゃうじゃいるわよ」
知ってます。
「それと、北の方には……」
少女の言葉が途切れる。ここはこちらから引き出すべきか。
「北の荒野には、化物がいると聞きました」
少女は眉をぴくりと震わせ、目を伏せる。
「そう、知ってるみたいね。あれは並の魔物とは比べ物にならない、正真正銘の化物よ。死にたくなかったら近づかないようにしなさい」
随分と強い警告だ。それほどの強敵なのだろうか。
だが簡単に引き下がる訳にはいかない。アイテムドロップが期待出来るのはボスだけだし、いくつかのクエストの討伐対象にもなっている。
「死にたくはないですが、引き受けたことをそうですかと投げ出すのも難しいですね」
「……なんの義理もない村の為になんでそこまで? 大した報酬だってないでしょう。随分な善人ね、『資格者』でも気取ってるの?」
気取ってるというか一応本物らしいです。
資格者というキーワードにどう反応すべきか迷う。頭上でニキが動こうとしたのが分かったので、鷲掴みにして机の上に移動させることで余計なことはするなと無言で伝える。
大方「本物の資格者だから跪いて崇め奉れ」的なニュアンスのことを言うつもりだったのだろうが、今それはまずい。
少女の『資格者』という言葉には明らかに悪意がある。少なくともそれに好感は持っていないのだろう。ここで名乗るのは恐らく逆効果だ。
「他にやる人がいないのなら仕方ないでしょう」
だがこれは失敗だった。彼女はその言葉に激しく反応する。
「いるっ!!!!!」
勢い良く少女は立ち上がり、彼女の座っていた椅子がガタンと倒れる。
鼻息を荒くして少女はこちらを睨みつけてくる。戸惑いながらも平静を装って、彼女が何に激昂したのか考える。
「私はこの地を守る魔女サラ=リリット。私が村を守る。魔物は毎日討伐しているし、北の化物も絶対に私が倒すわ。よそ者は余計な手を出さないで」
なるほど、彼女の役割を俺が奪おうとしたから怒ったのか。
だが、これはむしろ良い展開なのではないだろうか。もしボスを彼女が倒してくれるのであれば、俺がわざわざ危ない目に合わなくても良くなる。
NPCが倒した場合、近くにいれば討伐カウントされるのだろうか? 経験値やドロップの扱いも気になる。
「わかりました。では私は手を引きましょう」
「……え?」
拍子抜けしたのか、少女は年齢相応の気の抜けた表情を見せる。
「その代わり、貴女が倒すところを見学させて頂いても良いでしょうか?」
勝てればそれで良し、討伐カウントされなかったとしても情報は手に入る。再度湧くのを待てばよいし、最悪ここのクエストを捨てて先に進んでもよい。
勝てなければ一緒に戦えば良いだけだ。協力すれば一人よりは楽に戦える筈である、俺に損はない。
「……見学?」
「ええ、魔法というものに興味がありまして」
これは本心だ。この世界に来てから原始的な物理攻撃しか目にしてない。敵がそれなりにファンタジーしてるのは良いが、やはり派手さに欠ける。
本物の魔法を見れる機会があるのならば、何をしてでも見てみたい。これは男子の本能みたいなものだから致し方ない。
そしてこの言葉は彼女の何かしらの琴線に触れたようだ。
「……魔法に? ふーん……うん、まあ、いいわよ」
明らかに敵意が薄れている。それどころかどこか嬉しそうだ。というかこの子、非常に感情がストレートで分かりやすい。
そうして俺たちは北の荒野へと急遽同行することになる。終始除け者になっていたニキは少し不機嫌そうにしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます