高速レベリング

 前の村を旅立って10日ちょっと。ついに俺は2つ目の村を発見することが出来た。

 村に入る前にステータスを確認しておく。

 

 筋肉ムキ太郎 ノービス

 Lv28

 HP 1737/1737 SP 127/127

 筋力 80 ▲

 敏捷 30 ▲

 体力 30 ▲

 知力 5 ▲

 精神 5 ▲

 運気 10 ▲


 残りポイント 8

 

 レベル28。所持金も10000ゴールドを越えている、今のところ使い道がないが。

 高速レベリングの秘訣は『レミングス』だ。リンクするオピスを片っ端からかき集めて引き回し、『落とし穴』を飛び越えることで追いかけてきたそれらを全て谷底に叩き込む。

 この世界は近くでMobが死ぬと何故か討伐したと判定されるので、苦労せず大量の経験値とゴールドを得ることができるのだ。ただしアイテムや装備は一切手に入らなかった、もしかすると通常Mobからのアイテムドロップが無いのかもしれない。

 普通に考えれば通常ドロップ無しなどあり得ないのだが、アンリミでは否定しきれないというのが何とも辛い。普通に設定ミスとかしてそうだ。


 筋力中心なのは変わらず、近接戦闘であることを考えて敏捷と体力も最低限は確保したステータスとなっている。

 その他のステータスも試しに振ってみたが、変化は実感できなかった。もっと大量に振れば変わるのかもしれないが、効果の分からないステータスに貴重なポイントは割きたくない。

 というか転職はまだなのだろうか、そろそろMMOらしくドーンと派手なスキルとか使ってみたいのだが。

 タイミングとしてはそろそろだと思う。レベル的には十分なはずだし、初期転職としては2つ目、3つ目あたりの村というのはいかにもな場所だ。


 村の規模は前の村よりもかなり大きかった。建物も揃ったレンガ造りのものが多く村というよりは街にも近い印象だ。

 それでも家の周囲には畑が多く、農村であることがうかがえる。しかし経済とかあるのだろうかこの世界。

 とりあえず手近な名前無しの村人に話しかけてみる。


「おや、旅の方かい? こんな物騒なご時世によくやるね。ここはガウルの村だよ、たいして何もないがゆっくりしていっておくれ」


 そう言うと村人の男はさっさとその場を離れる。なんというか台本をそのまま丸読みしたような抑揚だった。お互いに顔を見て話をしているはずなのにまったく会話をした気にならない。

 名前無しノンネームは全体的にこんな感じである。本人の意志が感じられない、まるで操り人形である。見た目はごくごく普通であるだけに、違和感は引き立つ。

 肩をすくめて色々と情報を集めながら進む。


「はあ……最近魔物が増えてきて農作業に出るのが怖いよ。って、あなたが『資格者』様!? おお、これでこの村も救われる!」


「この間北の荒野でとんでもない化物を見たんだよ! 『資格者』とはいえ近づかないほうがいいかもしれないぜ!」


「南の森には魔女の家があるそうですよ、『資格者』さん。あまり会ったことはないですが、昔からこの辺りの魔物を倒してくれているんですよ」


 なんか普通に俺が『資格者』であることは知れ渡ってるらしい。無駄に得意気なニキがむっちゃ腹立つ。だが会話が終わると普通にまた歩き出すので村はいたって静かだ。


「何よ! もっと歓迎してくれてもいいのに!」


 途端にニキが不機嫌になっていたが、俺はなんとなく予想出来ていたことなので彼女をなだめながら情報収集を続ける。

 この村では名前無しノンネームから大量にクエストが受けられるらしく、みるみるうちにクエストウィンドウが埋まっていく。ただ、全てが討伐系なんだけど、このゲームアイテム採集クエストとか無いのだろうか。


 村を一周りして、構造を大体把握し終えたころには日が暮れつつあった。この村でも道具屋や武器屋は使えなかった。だが一泊100ゴールド、決定ボタンを押すだけの宿屋は利用できるようだ。

 肉体的疲労はなくても精神的疲労はある。ニキの食事も補充しなければならないので、まずは一泊して今後の予定を考えることにした。




 宿の部屋は簡素なワンルームタイプだ。まあニキだけで一部屋使っても持て余すだろう、というかそもそも彼女は宿泊客にカウントされているのだろうか。

 ベッドに腰を下ろす。マットレスなど無く、硬い木の上に布団を敷いただけのものだが座り心地は地面と比べるまでもない。ゆっくり休むのは久々だ。それこそ前の村以来ではないだろうか。


「ソウイチロウ、大丈夫? 疲れてない?」


 心配そうに目の前に寄ってくるニキ。疲労の概念があるのは彼女の方だから、声を掛けるべきはむしろ俺なのだろうが、彼女はずっと座っていただけなので負い目があるのだろう。どこか申し訳なさそうだ。


「ん、大丈夫だよ。『資格者』は頑丈タフなんだ」


「……でも」


 表情を暗くする彼女が気に食わず、手をゆっくり伸ばす。また鷲掴みにでもしてやろうかと思ったが、最近ボディタッチにやたら厳しいので人差し指で頭を撫でるだけに留める。ニキのつやつやとした青髪は滑らかで非常にさわり心地がいい。外に跳ねた毛先がふるふると揺れる。

 されるがままにするニキは頭を左右に振られ、くすぐったそうにするが嫌そうな顔ではない。目を閉じて、動きを受け入れている。


「気にすんな、パートナーなんだから。頼れるときは俺を頼れ。俺もニキに頼る」


「……うんっ」


 彼女の顔が明るくなったのを見て、ポンと少し頭を押すようにして指を離す。彼女は少し名残惜しそうに頭に触れてぱっぱと髪の乱れを直した。


「んで、ニキ早速いくつか聞きたいんだけど。お前はここら辺の知識は持ってないよな?」


「ん、そうだね。来たこともないし、女神様からも何も教えてもらってないよ」


「そもそも女神様ってのは何だ? デュクス様っていったよな」


 確かそれに似た名前の女神は北欧神話だかギリシャ神話だかに居たはずだ。ファンタジー系ゲームでは割と良く聞く名でもある。元ネタの神話は正直あまり詳しくないのだが。


「うん、デュクス様はこの世界の調和を司っていらっしゃるの。それが乱れた時には『資格者』を呼び出して正す、ボクはそのお手伝いをするために作られたの。……直接お会いしたことはないんだけどね」


「女神に会う方法はないのか?」


 見たこともない奴に勝手に任せたと言われても困る。その女神がなんとかしろと言いたい。任せるなら十分な支援か、せめて仕様書を寄越せ。


「ごめん、それも分からないや。然るべき時が来ればきっと託宣を頂ける筈ではあるんだけど……」


 ニキはしょぼんと肩を落とす。知らないことは仕方ないのだから気にしなくても良いのだが、なんというか真面目な奴である。

 

「気にすんな。要は先に進めばいいんだろ?」


 MMOで説明不足、情報不足など日常茶飯事だ。分かれば役に立つが、分からなくてもプレイは出来る。

 とにかくレベリングしてクエストして先のマップへ。それが絶対の攻略法である。それ以外にない。

 まずは現状やれることをこなして行けば良い。考えるのはそれが無くなってからでも遅くはない。

 

「んじゃ、次は集めた情報の整理をしてくか」


「えーっと……なんか北に凄いのがいるんだっけ」


 十中八九ボスだろう。つまり直近の最大目標はそいつを討伐することである。いくらレベルが上がったとは言え、あのオークウォーリアの次のボスと考えると不安は大きい。兎にも角にも情報収集をもっとしなければ。

 ボスに備えてもっと戦力強化をしたいところだが、現状ステータスしか上がっていないのは痛い。転職情報が手に入らなかったのが非常に残念だ。いつまでノービスなんだ俺は。


「あとは南の魔女だな」


 話からして重要度の高そうなイベントだ。名前付きネームドがいる可能性も高い。村長の件を考える限り、この世界において名前付きネームドは非常に特別な存在だ。村には名前付きネームドは見当たらなかったし、出来る限り会っておきたい。

 さらにそこで装備などをもらえるクエストが発生すればおいしいのだが。

 他の討伐クエストに関しては道中で並行して行うのが効率が良さそうだ。


「それでソウイチロウ。結局明日はどうするの?」


 ボスは出来るだけ早く確認しておきたい。しかし一度手を出せば死ぬまで戦わなければならない。

 挑むのであれば、一番最後にすべきだ。


「南の魔女のところに行こう。北の魔物の情報も手に入るかもしれない」


 そして俺たちは次の日に備え、しっかりと休養を取ることにした。

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