広大過ぎるマップ
村を出て3日。俺はまだ次の村に辿り着かずにいた。
朝から晩まで、どころか眠る時間も取らず不休で駆け足をし続けたにも関わらず未だに次の村はおろか、NPCの一人も見かけない。というかMobすらいない。なんて平和な世界だ。
無限に広がるんじゃないかという平原をひたすら走る。疲労のない身体ではあるが、ほとんど変化しない光景にそろそろ精神がやられそうである。
「すー……すー………………んぁ……」
俺の頭上では呑気にニキが眠っている。最初の1日は色々と喋っていたのだが、2日目からは飽きたのか一日の大半をこうして眠って過ごしている。
走っているのだからそれなりに揺れるはずだが、うつ伏せで器用にバランスを保って一度も落ちることなく惰眠を
別に疲れる訳ではないのだが、乗り物代わりに使われると非常にムカつく。
それにしても西に向かっているのは間違いないはずなのだが、ここまで全く手がかりがないと不安になってくる。
平原は果てしなく続き、北の方には険しい山が見て取れるがそれ以外は地平線が続くばかりだ。手抜きマップにもほどがある。
とはいえここまで来て引き返すわけにもいかない。進む方向を変えるというのも、手がかり無しで挑戦するには少し無謀が過ぎる。
ペースを落とすこと無く、ひたすら走り続ける。
4日目。変化は何もない。ニキが俺の毛髪であやとりを始める。
5日目。景色が変わらない。ニキが俺の毛髪で編み物を始める。ハゲるからやめろ。
「いや、なんか髪の毛抜いた瞬間に新しいのが生えてくるから……」
嘘ぉ。
6日目。ニキは編み物にハマったらしく無心で縫い続けている。プチプチ定期的に髪の毛抜かれるのが地味に痛いのと精神的に不安を煽られる。その前に編んでいたものはどこにいったのか尋ねる。
「え、髪の毛の服とか着たくないし捨てたよ」
即、編み物禁止令を出した。
そして7日目。事態に気付く。
足元に落ちていたのは茶色の塊。何かと思えば毛髪で編まれた服だ。こんな気の狂った物体がこの世にいくつもある訳がない。
ループしている。
手抜きマップすぎて景色が同じであることに全く違和感を持てなかった。どこの地点からどこまで戻されたのかは分からないが、確実に同じ道を通っているはずだ。こうなると西に真っ直ぐという計画を改めなければならない。
いや、そもそも何故ループしたのだろうか。これも
もし、ランダムにワープさせられるのであれば手がつけられないが、全く同じ道を通っていることから何らかの規則制がある可能性は十分にある。
まずはどこがループの発端になっているのかを調べてみれば良いだろうか。それから違うルートを模索してもまだ遅くはない。どうにもならなければ最初の村に戻るだけだ。
問題はどうやって調べるかだが、実はもう既に算段がついている。あまり気は進まないが。
『ヘンゼルとグレーテル』だ。道標を残せばどこでループしたかは判別できるはずである。だが、パンは貴重なニキの食料だ。であれば今回の手がかりと同じ物を用意すれば良い。
「えへーっ! 仕方ないなあ、まあボクのお陰で気づいた訳だし? もーソウイチロウは世話がやけるなあ」
嬉しそうにニキは笑う。えへーじゃねえよ。
幸い俺の髪の毛はほぼ無限に生えてくるようだし、捨てても惜しくない資源だ。現実では絶対に1本も無駄にはしたくないが、まあ背に腹は代えられまい。
一本だけでは目印にもならない。まあ編み物である必要は全くないのだが、ニキに編んで貰って道標にすれば良いだろう。
◇
という訳でぷちぷちと毛を抜かれながら走り続けた。
ニキはやけに嬉しそうに、鼻歌を歌いながら俺の毛髪で編み物をしては完成品をぽいぽいと投げ捨てている。段々と完成度が上がってきているのがなんかちょっと腹立つ。
そして半日も走った頃だろうか。突然として後方に転々と見えていた道標が消えた。ループの端を通り過ぎたらしい。
「ニキ、最後に編んだのって何だ?」
「えーっと花の模様のセーターかな」
こいつこの短時間で模様まで入れられるようになってるのか。
とりあえず方角を変えることなく走る。すると、じきに最初の道標を見つけることができた。やはり同じルートに戻されていたようだ。
また半日ほど道標に沿って走る。すると、ついに見つけた。花の模様のセーターだ、茶色一色だが。
この先がループの境界という訳だ。そこで俺は方向転換、またニキに道標を頼んで今度は南へと向かう。
このループの正体だが、
当然だがどんなゲームでもマップに果ては存在する。この世界でも同じだとしたら?
そのマップ限界が壁という形ではなく、一定のラインを超えると手前の地点にワープする。それがループの正体だとすればどうだ。
通常、マップには次のマップへの出入り口となる地点が定められている。西側に出入り口があるのが情報通りだとすれば境界に沿っていけばどこかで見つかるはず、というのが俺の読みだ。
そして推理は確信へと変わる。
1時間も歩かない内に、明らかに怪しげな場所を見つける。それは光の渦。地面に水たまりのように光が広がり、グルグルと渦を巻いている。
ほぼ間違いなくこれが出入り口だろう。といってもこんな未知の存在に無防備に飛び込むのは
一応ニキが情報を持っていないか確認してみる。が、返事がない。
「…………………………」
「ニキ?」
様子がおかしい。思い返せば鼻歌も突然途切れていた、光の渦が見えるようになった辺りでだ。
無理やり頭から引き剥がそうかと思ったが、その前に聞こえてきたのは小さな嗚咽。
泣いてる? え、なんで?
あまりにも突然の出来事に混乱し、ただ立ち尽くす。
「…………そこが、次の『まっぷ』への『出入口』で、間違いないよ」
嗚咽を必死に抑えながら、ニキは途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
俺の予想が正解だったのは良いのだが、何故彼女は泣いているのか。
その理由はすぐに彼女自身の口から明かされる。
「…………それと、ボクが一緒にいけるのは、ここまでみたい」
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