ボスがえぐい
筋肉ムキ太郎 ノービス
Lv12
HP 374/374 SP 68/68
筋力 50 ▲
敏捷 1 ▲
体力 1 ▲
知力 1 ▲
精神 1 ▲
運気 1 ▲
残りポイント 17
順調に名を体で表すステータスになりつつあるが、現状の戦闘スタイルを考えれば仕方ない。
試しに森から隔離したハウンドを殴ってみると、1発あたりのダメージは40前後。ハウンドのHPは60だから2確という訳だ。
筋力に振った効果はテキメンだ。あの死闘が懐かしい、二度とやりたくねえ。
ちなみにハウンドはリンクしないようだ。二匹並べて殴っても、もう片方は無反応だったから多分間違いないだろう。
このまま犬乱獲でレベル上げをしても良いが、流石にそろそろ効率も悪い。
またリスポーン地点は村を出た辺りに更新されていた。帰還の水晶で確認したから間違いない。
しかしリスポーン地点まで飛ぶとニキと離れ離れになるのが地味に不便だ。
これでは敵に囲まれた時に水晶で逃げる、というのもやり辛い。ニキだけが取り残されることになる。
彼女が死んだ場合生き返れるかどうか分からないし、生き返られたとしても見殺しにするのは夢見が悪すぎる。
一通り調べ終わった俺は、再び森の中を進む。
実際にオークとやらを見てみないと対策も出来ない。
手には30cmほどの枝。歩きながらぷらぷらと視線の先で左右に揺らす。
こんな枝では武器の代わりにもならないし、杖としても使えない。
もちろんただの手遊びでもない。こんなことをしている理由はちゃんとある。
カツンと音を立てて木の枝の先端が不自然にたわむ。
「あっ、まただ」
ニキが頭上で声を上げる。そう、これで三度目だ。
木の枝に当たったものは例の『見えない壁』。この森の中に入ってからちらほらと出始めた
一つ目の壁には無警戒だったので思いっきり顔から突っ込んでしまった。ついでに頭の上にいたニキも壁に突っ込んだ。
まあこうしてセンサーになるものを手に持っていれば怖くはないが、常に意識をして歩かなければならないというのは地味に面倒くさい。
「これも森の魔物の仕業なのかな……それとも、魔王が?」
この世界のマップの移動制限は意外と緩い。
森の一本道にしても、道から逸れて茂みの中へ入ることが可能だった。歩きにくいので普通に道に戻ったが。
元々の『アンリミ』がオープンワールドタイプのゲームなのか、現実化した影響なのかは分からない。それでも自由度が高いこと自体は好ましい。
ただこの見えない壁のせいで、妙に世界が狭く感じてしまうというのも事実だった。
犬の隙間を縫い、壁を避けながら森を進むと意外とあっさり目的の魔物は見つかった。
【オーク】 HP103/103
視線の先、ハウンドの群れが途切れた向こう側に巨大な人型が見える。
緑色の肌。盛り上がった筋肉。大きく口外まで突き出した牙。金に光る
なるほど、オークだ。
身長は2メートルあるかないか、少なくとも俺よりは大きい。
手には巨大な棍棒を握っていた。
近くに他のオークは見えない。
チャンス。そう思ってオークに歩み寄る。
距離が10メートルを切ったあたりだろうか。視線を
そして棍棒を構えると、まっすぐこちらに走り出した。
情報通りのアクティブMob。
ニキに離れるように指示を出して、こちらも身構える。
オークが目の前に迫り、大きく棍棒を振り上げる。
巨大だ。ただでも大柄なオークが、身体を広げると視界の大半をオークが埋め尽くす。
臭い。獣のそれとはまた違う、腐ったような不快な悪臭が鼻を刺す。
しかし遅い。ハウンドと比べれば欠伸が出るほどに。
棍棒が振り下ろされる。まともに受ければ人間などひとたまりもないであろう石塊。
大きく飛び退いて、その軌道から身体を外す。棍棒が身体の横を通り抜け、風圧を肌で感じる。
そして轟音。腹に響くようなそれに思わずたじろぎ、地面に突き刺さった棍棒が大きく足元を揺らす。
――――怖っ
回避自体は可能。だが思うよりも余裕はない。
敏捷を上げればもっと上手く避けられるのだろうか。
思考を巡らせながら隙だらけのオークの顔面に拳を叩き込む。
ごすりと音を立て、オークが仰け反る。思ったよりも硬い、だが手応えはある。
【オーク】 HP70/103
33のダメージ。ハウンドよりは硬いか、しかし十分なダメージだ。
再びオークが棍棒を振り上げる。口から青い血が滴り、ダメージはあるはずだが意に介した様子はない。
筋肉が隆起し、迷いなくまっすぐに棍棒を振り下ろしてくる。
躱すことは難しくない。が、ここは受け止める。
ガギッ
ガードは一応成功。しかしジャストガードではない、タイミング的には早かったのか遅かったのか。
HPを確認する。
【筋肉ムキ太郎】 HP334/374
ガードしても40ダメージというのは少し痛い気もするが、それでもHPが上がっている分大したダメージではない。
落下狩りの成果は予想以上にあったようだ。狩場の適正レベルを十分に満たしたおかげで、これなら楽勝だ。
二発の拳を叩き込み、繰り返される打撃攻撃をジャストガード。
少しタイミングが掴めた気がする。幸先が良い。
大きく仰け反り硬直を晒すオークの腹にトドメの拳を叩き込む。
鈍い音を立ててオークの巨体が地に沈む。
残念ながらレベルは上がらない。経験値情報が確認できないのが厄介だ、まだ見つけていないウィンドウがあるのだろうか。
ともかくクエスト情報を確認するが、討伐カウントはされていない。
討伐目標にあるオークウォーリアというのは表記ミスではなかったようだ。となると、目標Mobはこの先に居るのだろうか。
ちらほらと徘徊しているオークを殴り殺しながら道を進む。オークのスキル攻撃はバットのように棍棒を握ってのフルスイングがあったが、あまりにも大振りすぎて余裕で避けられる。
さらに敏捷に10ほど振ってみると通常攻撃も先程より余裕をもって避けることができた。
10上がるだけでこれだけの効果があるのであれば、この先も敏捷ステータスを上げる選択肢もありそうだ。
時折オークが数匹でまとまっており、2匹や3匹を同時に相手することもあったがそれでもガードと回避を活用すれば対応は可能だった。
道中、レベルも1上がり13に。体力も満タンだ。
あれ、割とヌルい。
序盤マップであればこんなものか。最初の設定がおかしかっただけで、こうなってしまえばMMOとしてはごく普通の難度だ。
ゴールドは手に入るが、アイテムドロップが相変わらず無いのが気がかりではあるが。
それでも至極順調に、時折思い出したように現れる壁バグを避けながらマップを進めていくのだった。
◇
道を進み続けると、周囲の景色が明らかに変化を見せた。
一本道から広場へ。まず最初に気付くのは腐臭。
オーク独特のそれはこれまでになく濃密で、麻痺しつつあった嗅覚を強制的に覚醒させられる。
とっさに口を塞ぎながら周囲を見回すと至る所に骨が散乱している。大きな獣のものが目立つが、明らかに人骨も含まれていた。
広場の中央で動かずに正面を見据えているのは肌の紫がかったオーク。
肌の色以外の種族的な特徴は今までのオークと同じだが、明らかに一回りは大きい。また歪みの目立つ鉄の兜を被り、粗末ではあるものの革の鎧を身に纏っている。
その手に握るのは石の棍棒ではなく巨大な鉄斧だ。
【オークウォーリア】 HP1050/1050
明らかに今までのMobと格が違う。
フィールドボス。エリアボス。クエストボス。エリート。ユニーク。
呼び方はゲームによって様々だが、つまりはこいつがこの一帯の親玉なのだろう。
オークウォーリアはこちらを真っ直ぐに見据えたまま、動く様子はない。
一定距離に近づくまでは動かないのか。あるいはノンアクティブであるという可能性もある。
引き返すべきか。
少し迷うが、前に一歩踏み出す。
適正レベルは満たしている。ならばボスも対応は出来るはずだ。
その瞬間オークウォーリアーがだらりと下げていた武器を腰のあたりまで引き上げて構えた。そしてそのままこちらへ歩きだす。
どうやら
「ニキ、離れてろ。もし俺が倒れたら全力で村に向かえ」
「えっ、でも……!」
反論しようとするニキを遮るように言葉を重ねる。
「俺は瀕死になってもアイテムで逃げられる。お前が逃げてくれないと安心して使えない」
理解の色を見せるが、内心穏やかではないのだろう。複雑そうな表情で黙り込み、ニキは小さく頷く。
これでひとまず、ダメだった時の保険はかけられた。
あとは何事もなく勝てれば一番なのだが。
オークウォーリアとの距離はもう5メートルを切っている。
ニキが離れていくのを確認してから、意識を目の前の魔物に注ぐ。
肩を大きく揺らし、足を鳴らして歩く巨体から放たれる威は今までのハウンドやオークとは比較にならない。
ステータスやバフ、デバフとは違う次元で感じるそれは殺意だ。
奴に意識があるのかは分からない。それでも確実に俺を殺すためだけに設定された動きに思わず冷たい汗が流れる。
あえて攻撃を待つ必要はない。
距離は詰まり3メートル、もう少しでオークウォーリアの射程圏内に入るはずだ。その前にこちらから前に出る。
ぴたりとオークウォーリアが足を止めて鉄斧を振り上げる。
それを確認して、全力で横に回り込む。オークの視線はこちらを追いかけていたが、鉄斧の軌道は変わらない。
振り下ろされつつ鉄斧を無視して、隙だらけの横面に拳を叩き込む。
少し遅れて、衝撃。
破滅的な轟音と共に大地が揺らぐ。地面が大きく
何が起こったか理解ができない。見れば大地の破壊の中心地点には魔物の鉄斧。
まさか。オークウォーリアの一撃で大地が砕けたというのか。
ただのオークが地面に棍棒を打ち付けた振動は今までに何度も体感した。しかし、こんなもの、見るからに破壊力の桁が違う。
【オークウォーリア】 HP1031/1050
硬い。こちらの攻撃が通じない訳ではないが、防御力もHPもオークよりも遥かに高い。
オークウォーリアはダメージに怯んだ様子もなく、再び鉄斧を振り上げる。
冗談ではない、あんな攻撃まともに受けたらタダでは済まない。
全力で距離を取ろうとして、異変に気付く。
足が動かない、それどころか全身の筋肉が硬直したように動かない。
直感と共に、視界に浮かぶ状態異常表示で理解をする。
――――スタン!!
直撃はしていない。それでもあの一撃は、一定範囲内に
オークウォーリアの斧が頂点に達し、振り下ろされると同時にスタン状態が解除される。回避はもう間に合わない。
とっさに両腕を構えて防御の姿勢を取る。幸いオークウォーリアの攻撃モーションは雑魚オークと変わらない。ガードタイミングも同じなはずである。
ガギッ!
ガード発動の音が耳に響く。同時に視界が黒く染まる。
薄れ行く意識の中で見えたのは、0になった自分のHP表示だった。
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