日本国王 信長・織田

プロローグ１

「士農工商･･･。はて、何を言い出すことやら？！」

　堺の豪商、納屋格左右衛門は湧き上がってくる嫌悪が眼差しから溢れそうになるのを強い意志で隠すと、金糸銀糸をふんだんに使った絢爛たる着物に勝るとも劣らない、はち切れんばかりの笑顔を見せながら首を傾げていた。

　その上で、

「面白いことを言われる、御仁じゃ？！」

と言い、含み笑いまでをもしていた。

　納屋ほどの身代の主ともなれば、このような場合、世も憚らぬ程の高笑いをしても不思議はないのだが、何事も表に出すことを嫌う格左右衛門の性格が、それを許さなかった。

　縛り上げられ庭に転がされた孫六は、納屋の振る舞いに、何ともいえぬ恐怖を覚えていたが、そこはアウトローである。

「ふん！　どうせ始末されるんじゃ、あんたが何を言おうが関係ねぇ。世間じゃあ、士農工商と決まっているんだ。商人なんてものは、人の上前をはねるハエか、ノミみてえなもんじゃねえのか！」

と、ふてぶてしく言っていた。

　それを聞いた格左右衛門は笑みを浮かべたまま庭に下り、転がっている孫六にすり寄ると、

「良いことを、お主に教えて進ぜよう･･･。」

と言いながら、孫六の頭を片手でつかみ思いっ切り顔面を地面に押しつけると、

「よいか、この世は商工農士なんだよ。分かったか！」

　押し殺した声の中に、殺意を滲ませて言っていた。

　手足が自由にならず地面に顔面を押しつけられた孫六は、泥を唇で舐めながらも、けんめいに笑うと、

「ふん、寝ぼけたことを！　揉み手をしながら、人の懐を窺う盗っ人猛々しい奴が！　俺のような盗人が言うのもおかしいが、一番はイヤでも武士なんだぜ。力のある奴が、支配者なんだよ！」

　呻きながらも憎まれ口を止めようとはしない孫六に、格左右衛門はさらに手に力を込めると、大地にめり込むほど顔面を押しつけ、またもや耳元に口を寄せると、

「その減らぬ口の首をはねても･･･、このまま、埋めても良いのだが･･･！　秋は、夜長！　冥土の土産に、ゆるりと、一つ話して進ぜよう。」

と、ささやくのであった。