第190話 配下

芹沢の唇が震えた。



う…嘘だ…



いくらなんでもありえねぇ…



触手が急速に引っ込まれ



一歩、一歩踏み出された素足



あらゆる感情が飛び、込み上げる寒気、抑えられず震える口から息が吐かれた。



芹沢「あ…あ…う…」



「ふふふ」



念波などでは無い…直接口から吐かれた笑い声



きめ細やかに透き通る様な太股が非常光に照らされ



くびれた腰



美しい胸



妖しい唇



妖艶な紅い瞳



そしてなびかせる長く伸びた黒髪が照らし出された。



ありえねぇ…



目をひんむいたまま驚きの表情で言葉を失う芹沢の前に…



全身薄明かりに照らされた一糸纏わぬ理沙の裸体が芹沢の瞳に映し出された。



完璧にバラバラにした筈…



いくら再生するったって…



継ぎ目も無く繋がった手足、エレナに吹き飛ばされた筈の頭部さえも完全復元されている



限度があるだろう…



芹沢は何もかも元通りになる理沙の身体を見渡し、絶句した。



こんな奴に…



こんな化け物に…



勝てる訳ねぇ…



芹沢「あ…」



理沙「ふふ 晩晩わ… ねぇ~」



理沙が近づきながら愛らしい笑みを浮かべてきた。



そして理沙はおもむろに右腕を伸ばし、自らの腕を入念に見渡しながらなまめかしい指使いで直線的に肌をなぞった。



理沙「フフ… 魅了しちゃうのはむりないかもだよね~ この身体…モチッと柔らかくてスベスベなお肌、理沙好きよ」



傷1つ無い身体



復元出来なかったのは纏っていた衣服だけ…



芹沢「あ…あ…」



理沙「人間の身体も…大自然と一緒…川の流れ、大空に舞う雲、雨あがりの虹、色とりどりに咲かせた花、風に揺れる草木、その止まり木でさえずる鳥さん達、草原を群れをなし走り回る動物さん達、大海原を泳ぎ回るお魚さん達…この大地で躍動する全てが美しい、人間だってそうよ…この美しい髪、この美しい肌、見てるだけで理沙ウットリしちゃう…この地球で醜い物など何1つ無いの…全てが美しい造型物…その造型物全てに意味があり全てが不変で全てが美しい物なの、美しくなくちゃいけないのよ…あなた達だってそう…美しい物…そうなの… そう…汚れてるのは外見じゃなくて、それはあなた達の中身… 醜く汚れきったその中身が全部いけないの…心が歪んでて濁ってて臭くて汚なくて… だから駄目なの…そう…だって理沙達はその中身を取り除きに来たんだから…稚拙な知識も、無駄な権力争いも…この地にそんなものいらないの…あなた達は皆、原始へ戻り、自然へと戻らないといけないのよ… 余計な知恵や欲を全て省いてあげるんだから…そのお手伝いをしてあげるんだから… これ以上醜くい物を理沙に見せないで頂戴」



芹沢が尻を付けた。



芹沢「あ…あ…」



ニコリと微笑みを浮かべた理沙が

芹沢の前へとしゃがみ込み



両手で芹沢の頬に優しく触れた。



理沙「ふふ… 何をそんなに脅えているの?こんなにも震えちゃって…」



芹沢「く…くる…な…ふ…ふれんな…」



理沙「キャハ すっごい震えてる~ 怖いんだ~ ヒャハ」



芹沢「ち…ち…ちかよるな…」



芹沢の頬や額、髪を撫で回す理沙が、耳が損失した耳元へと口を近づけ囁いた。



理沙「ガッチガチよ」



そして声色を変えた。



理沙「絵本のキャラクターが描き手に勝てる訳ないでしょ 理沙はあなた達を裁く為に与えられたキャラクターよ いわば代役… 刃向かっても… 無駄」



横目で理沙を目にする。



理沙「あなた… さっき王になるとかなんとか喚き散らしてなかった?理想郷を作るですって…?」



芹沢「は…はあ…は…」



何でそれを…?



息を荒げる芹沢



理沙の背中から1本の触手が伸び、芹沢の頭上を浮遊し始めた。



理沙「どんな理想郷を作るのかしら…? 教えて欲しいなぁ ウフフ」



芹沢「はあ…は…は…」



全身の震えがMAXへと達し、芹沢が恐怖で股間を濡らした。



失禁…



床を温かい小便が伝い広がって行く



理沙「ねぇ… どんな楽園を作るの…?興味あるんだよ… 理沙に教えて」



芹沢の首へと両手を回し、耳元で囁く理沙



恐怖で言葉が出ない芹沢



理沙「ウフフ」



芹沢の後頭部を両手で撫で回し、理沙が芹沢の頬をひと舐めした。



そして反対の耳元へ口を近づけ



呟く様に言葉を吐いた。



理沙「あなたに王は似合わない」



首へと手を回し、理沙が魅惑な眼差しで芹沢を見詰めるや、顔を更に近づけ、ガチガチに震える芹沢の唇を舌で舐めた。



理沙「人間は臆病で心の弱い生き物……あなたに王は相応しく無い…あなたに今必要なのは無よ…よこしまなその心を取り除く事… あなたがなるのは王なんかじゃなくて新しく生まれ変わる事… そうねぇ~まぁ せいぜい理沙の可愛い兵隊さんってところかしら」



理沙が芹沢へ口づけするや舌を絡ませ、舌を外へと引っ張り出した。



特別にすぐに変化出来る様にしてあげよう…



理沙の側近として家来にしてあげる…



そんな妄想する前に生まれ変わりなさい…



そして、理沙が芹沢の舌に噛みつき…そのままその舌を噛み切った。



芹沢「ううううううう」



芹沢の首へと腕を回す理沙が激痛で暴れる芹沢を包み込み



モグモグと咀嚼



噛み切られた舌が飲み込まれた。



涙を流し、痛みにもがく芹沢



噛まれた傷口から体内へといくつもの卵が散布され、侵入、血流に乗り凄いスピードで脳へと目指して行く。



芹沢「んぐぐぐぐ」



理沙「すぐに楽になるよ…嫌な記憶も…余計な感情も、くだらない夢も 何も持たなくてすむんだから」



感染された芹沢



わずか1分たらずで脳内へと辿り着き、複数の卵が大脳皮質へ着床



その1~2分後に孵化した幼虫達が脳内へと入り込んで行った。



理沙「さぁ~ 醜い人間なんて止めて目覚めるんだよ 理沙の下僕としてね」



急速に脳内で成長、身体や思考を乗っ取り始めた。



芹沢「ぐぐぐ~うっ うぷぷぷぷ」



芹沢が頬を膨らませた。



芹沢「ら…らんらほまへら…?らぁ?らぁ…らに?…ふるへぇー」



理沙「ふふ 来たね 来たね」



芹沢の身体が急激に反り返り、今まで味わった事の無い激痛が脊髄に走った。



芹沢「がぁああ…かはぁ…ぐぐぐ…あにをふる…?」



必死に何かに抵抗する芹沢



理沙「我慢しないでいいの 抵抗なんてしないで早く身を委ねて」



芹沢「んぐぅぅ~あにをふる…れてけ…れてけぇ…」



理沙「もう少しの辛抱だよ 目を瞑ってればすーぐに終わるから」



芹沢の口から流れる涎を指で拭き、髪の毛を撫でる理沙



芹沢「れてけぇ~あららの中れあはれるらぁ~」



芹沢の血走る目に異変が生じた。



そして…



芹沢「らぁ~らぁ~ラララライ ラララライ ラララ ライラ ライラ ララララ ライライ 」



右目の白眼に虫らしき物体が這いずり横切るや眼球が不自然に動き始めた。



芹沢「……よはへへ ほひへへ ひゃひゃひゃひゃーん ヒラー?ほひヒハー ん?ヒーハー?ハハハハハヒーハー ヒャ~ハハハハハハハ 」



理沙「可愛ぃ~ はじめましてだね幼虫さん」



両目をグルングルン回し上体を起きあがらせた芹沢



もう人間の目などしてない



芹沢「ヒャーハハハハハ」



理沙の忠実な操り人形となり



感染者として生まれ変わった芹沢



芹沢の生前の憎念として深く刻まれた記憶、思念



元芹沢から第一声が吐かれた。



元芹沢「ふ~ふ~ ヒャーハハハハハ エレナぁあああ~」



三つ巴の図式は崩れ



今ここに芹沢が理沙の配下へと堕ちた。

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