第187話 計略

1階  機械室



ボン ボン



またも火花と共に小さな爆発が生じコンテナの扉が勝手に開いた。



消灯、急に暗闇と化した機械室



機械室の電灯が全て消え、様々な機器も運転停止された。



まさか……



数秒後…電灯が非常灯へと切り替わりうっすらした赤色灯が辺りを照らし出す中



ハサウェイは慌てた様子で煙りがあがるコンテナへ近寄り、中を調べた。



充満した煙に咳込み、口を押さえながら覗き込むや



そこには手が着けられない程、焼け焦げ、破損した内部



ハサウェイの瞼がピクリと動いた。



ふざけんな…



ハサウェイは一瞬にして表情を曇らし、愕然とする。



サイレンサーが衝突した影響か…



暴れたせいか…



単なるショートによる故障なんてもんじゃない…



プラグ、漏電遮断器、制御装置、主電源スイッチ、などなど、電力を司る様々な回路が焼け、損壊された配電盤ボックス



高電圧回線の主幹線も予備線も何もかもが断裂し、どう見ても手に負える状態ではなかった…



ハサウェイがぶっ太く切れたコードを掴みあげ



流れてない…



断裂した線…電力は途絶えている…



ハサウェイはイレギュラーに戸惑いつつ、コードを投げ捨てた。



一難去ってまた一難かよ…



電流攻撃が無理となると… 参ったな…



どうする…?



完全に壊れた電気設備を前にし唖然とするハサウェイ



その際 流れ続ける水



ファンや換気扇も止まり、惰性でプロペラが回り続けている。



恐らくビル内は停電を起こしただろう…



電力が完全に途絶え、装置や機器が停止しているを見渡した。



そして…



計画がおじゃんになりその場で棒立ちするハサウェイに更なる不運が降りかかる。



装置音やファンの音が鳴り止み、静かになる室内に…



既にスネ辺りまで浸かる水の中…



バチャバチャと音をたて



奴等の足音が近付いて来た。



「んん~あぁああぁあああ」



「うぅぅううううううう」



存在をアピールするかの様にうめき声をあげ、水しぶきをたて、おぼつかない足取りで徘徊する奴等の姿



この室内にいる数十体全てのゾンビ、感染者達がハサウェイへと向かって来た。



不気味さが加担されたクリムゾン色に染まる奴等の群れと向かい合い



隠れるのが遅れたハサウェイは奴等を目にした。



20~30メートル離れた距離で奴等と正面で向かい合った。



しまった…油断した…



見つかった…



奴等にちょい待ちタンマはきかない…



ハサウェイの姿を見るや、奴等の集団が襲いかかって来た。



クソ…



素早くその場から走り出すハサウェイ



「うぐうぅぅぅうぅぅぅ」



「がぁああああああああああ」



血走ったまなこ



恐ろしい形相で一斉に感染者が走り出した。



先頭を走る感染者が水に足を取られ、転倒、バシャーンと大きな水しぶきを立てながらダイブするや後続がそれにつまづかせ、転倒、その後ろも…その後ろもつまづき、バシャバシャ音を立ててドミノ倒しで揉みくちゃになり通路がつかえて行った。



倒れて積み重なる奴等



お前どけよと言わんばかりに暴れる感染者、足掻くゾンビ達を尻目に後ろを振り返り、わやくちゃなその光景を目にするハサウェイ



どうする…?



どうする…?



あの数を…



弓で一匹づつ倒して行くか…



駄目だ…



弓矢の数が足りな過ぎる…



なら肉弾戦…



あの数相手に…果たして身体がもつかどうか…



チィ どうする…?



こうなったらやむをえない…純やに助けを求めるか…



ハサウェイは内ポケを弄りトランシーバーを取り出した。



小走りの中スイッチをオンにするのだが…



うんともすんとも反応しないトランシーバー



水に濡れ、衝撃により所々ヘコんだトランシーバー本体を目にした。



壊れてやがる…



脱出不能、策も絶たれ、仲間との連絡さえも絶たれた。



望みと可能性が次々絶たれ、奴等とこの室内に取り残されてしまった。



追われるハサウェイにピンチが訪れた。



ハサウェイはトランシーバーを投げ捨て、あてもなく歩を進める。



心が折れそうな、痺れる程のピンチ…



進退窮まる状況



万策尽きたとはこの事か…



へっ…純やの制止を振り切って…このザマじゃ…これで終いじゃ格好つかねぇーなぁ…



ここまでの男なのか…俺は…



もし…俺がここで死んだら…



エレナはどうなる…



純やはどうなる…



由美…スタイルさん…矢口さん…高林くん…生存者のみんな…



そして江藤はどうなる…?



無事脱出出来るのか…?



ここには凶悪なあの芹沢…



理沙だっている…



あの2人をどうする…?



あいつらだけで切り抜けられるのか…?



食い止められるのか…?



……………………………



……終われない…



まだ…こんな所で死ね無い…



芹沢を…理沙を…



あいつらをここで食い止めなければ行けないんだ…



あいつらを食い止めるまでは…



死ぬ訳にはいかない…



そしてエレナと交わした約束…



みんなを無事に家へと連れ帰るまでは…



終われない…



ハサウェイの目が一瞬にして変わった。



その気色が手繰り寄せたのか…?



廊下を通過するハサウェイの目にある物が映った。



あった…



まだ1つだけ残ってた…



その場で立ち止まりそれを見渡した。



「うわぁぁぁああああああ」



「がぁああああああああああ」



響いて来る奴等の声



ハサウェイは奴等の声の方向へと視線を向け、膝上まで増加した水を見下ろした。



かなりのリスク…



上手く行くかどうか…



自分の身さえもどうなるか分からないが…



奴等をまとめて始末するには



もうこれしかない…



これ以上考えてる時間も無い…



一か八か



この策にかける…



一つの策に賭け



ハサウェイが行動を開始した。

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