第185話 拳闘

機械室



ハサウェイvsサイレンサー



水かさが踝(くるぶし)を越え、完全に靴が浸った。



眉間へシワを寄せた激怒の表情



サイレンサーが飛び出さんばかりに見開かれた両目の眼球を異常に動かしている。



「ごがぁあぁああああ」



野獣のごとくサイレンサーが地団駄(じだんだ)を踏み、水しぶきが舞うと共に両手を広げ向かって来た。



ハサウェイは身軽なフットワークでサイドへと身をかわし、側面に移動



がら空きな後頭部に、逆手で握るナイフを振りかざした。



こいつで決める…



そしてスピーディーにナイフが振り抜かれた。



だが…



ナイフは虚空を切り裂き…耳をハスった。



外した…



サイレンサーが頭を屈め、避けたのだ



それから正面を向け、拳を握ったサイレンサーがコンパクトでスピーディーな左のジャブをジョルトで打ち込んできた。



シュ



ハサウェイはそれを頭を上下左右にスイングしウィービングで回避



次いで左ジャブ、左ジャブ、右ストレート、右フック、左フックと



怒り狂った表情とは裏腹に…



先程の大振りなモーションとは別人の様に、動きに無駄の無い連打をかましてきたサイレンサー



ソツの無いシャープな連撃が放たれてきた。



ハサウェイはこれも素早い身のこなしでかわし、1打も当たる事無く回避した。



かわしながらまたもサイレンサーの側面に移動、バックステップで俊敏に間合いから逃れるも



サイレンサーはすぐに方向転換し、間を詰めて来た。



いつの間にかピーカブーな拳闘スタイルで身構え



インファイトを仕掛ける様に踏み込み、またも拳が振るわれてきた。



右フック、左フック、ガゼル(右斜めからのアッパー)、左ジャブ



生まれ変わったかの様なサイレンサーの放つ鋭きパンチ



元ボクサー経験者…?



経験者のように洗練されたパンチの応酬



合理的かつスピードの乗ったパンチへと早変わりしていた。



ハサウェイもそれをしっかりと見極めつつ回避



ボクシングで勝負か…?



おもしれぇ…



こっちは江藤に叩き込まれてんだ



そんなノロいパンチ当たるかよ…



そんな事を思考しつつ、ダッキング(上体を前に屈めかわすディフェンス技術)や



パーリング(掌で相手のパンチを弾く)



スウェーバック(頭を反らしかわす)に



スリッピング(相手のパンチをギリギリで回避する)と



あらゆるディフェンス技術を駆使し巧みにかわして行くハサウェイ



脳天へ叩き込む様に山なりで大振りな打ちつける右フック



ハサウェイは難無くそれをバックステップで回避し後退した。



逆手でナイフを握りボクシングフォームで身構えるハサウェイ



両者 間を挟み、一時静止された。



一間の静止する双方



動きを止めた途端思い出したかの様にハサウェイの身体中が悲鳴をあげ始めた。



やべぇ…痛ぇ…



ボクシングなんてやってる場合じゃねぇ…か…



そしてくるぶしを越えた水かさにハサウェイは一瞬目を止めた。



それに…そろそろ足を取られ、フットワークもおぼつかなくなってくるだろう…



身体中痛ぇーし…



こっちは時間がねぇーし…



これ以上スパーリングで戯れるつもりねぇ…



まだ動ける今の内に…



次で始末する…



ハサウェイは再び意識を戦闘に集中させ、アドレナリンを放出



水を押しのけ、ジリジリと間合いを詰めて行った。



呻きや咆哮を止めたサイレンサーがジッとハサウェイを凝視し、ピーカブースタイルで身構えている。



ハサウェイも鋭い視線でサイレンサーを目にし、ゆっくりと一歩一歩近寄って行った。



パチパチとコンテナから火花が散り



激流する水の音が聞こえる中



サイレンサーがピーカブースタイルからヒットマンスタイルへと構えを変えた時だ



今度はハサウェイが即座に動き始めた。



ヒットマンスタイル…



フリッカー… 調子こいてんな…



生前…アニメか漫画の見過ぎだぜ…



一瞬の隙を突き、ダッキングで懐へステップインしたハサウェイがアンカライトナイフをサイレンサーの左目へと突き刺した。



目に突き刺さるナイフにサイレンサーがよろける



教えてやるよ…



ストリートのボクシングってやつを…



こいつがサミング(目潰し)って奴だ…



そして… こいつが…



身を怯ませたサイレンサーがよろけ。



ハサウェイが素早く背後へ周り込みながら、身をクルッと回転させ、勢いをつけながらサイレンサーのテンプル(こめかみ)へと横殴りでナイフを突き刺さした。



そしてこれが反則技パート2…



ピポットブローだ…



それから… こいつが…



今度は完全背後へと周り込んだハサウェイ



のたうつサイレンサーの背中へ周り込み、即時に振るうやナイフを数回突き刺した。



反則技パート3…



これがギドニーブローってやつだ…



そして…最後に…



無防備にがら空きした背後



ハサウェイがナイフを順手へとスイッチさせた。



そして何の迷いも無く



握り締めたアンカライトナイフをサイレンサーの後頭部目掛け放った。



刺突されたナイフ



グリップまで刃が食い込んだ



グリップ半ばまでナイフが押し込まれ…



ラビットってやつだ… 覚えとけ…



サイレンサーの身体は崩れ落ち、両膝が付けられた。 っと同時に仰け反らせ、サイレンサーが急にハサウェイの首を掴んできた。



充血し、苦しみに満ちた表情のサイレンサー



最後の悪足掻きで首を締めてきた。



そして常人じゃない握力で握り潰そうとしている。



「がっがっがが…」



だが… 力は見る見る衰え



小刻みに身体が震え、首を掴む手が弱まり、静かに離れていった。



サイレンサーの首から掛けられた、スチール製の二枚式認識プレートを目にしたハサウェイ



そこには名、姓、JAPAN MSDF、認識番号、血液型などが記されていた。



やはりこいつは元自衛官…



海上自衛隊員…



「がっ…が…」



プレートと共に大人しくなって行くサイレンサーを見下ろすハサウェイ



そう… 既に…



脳天へ深々とナイフが刺し込まれ、活動を停止していた。



ハサウェイは素早くナイフを引き抜き、目を開いたまま沈黙するサイレンサーは水へと浸っていった。



サイレンサーを退治したハサウェイ



ハサウェイはすぐに立ちあがりコンテナへと視線を向けるや



配電盤、主電源に異変が…



コンテナから火花が散り



次の瞬間



小さな爆発と同時に



様々なランプが消灯



突然目の前で電力がショートを起こした。

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