第184話 結合

一階  廊下



理沙vs芹沢



後ろ姿の理沙



その背を向けた状態から繰り出される数々の醜い肉の鞭



角度、速度、高低の抑揚をつけたいくつもの触手が廊下を飛び交い芹沢を襲っていた。



触手を串刺しにして天井へ付着させる糸



糸に糸を絡め、空中で触手を受け止める糸



何本かで巻き付かせ、床へと叩きつける糸



息もつかせぬ触手の襲来をことごとく空中でキャッチし捕縛する鋼糸群



芸術的に綾取られた糸の防衛で互いの攻防戦が続いているのだが…



戦況は徐々に傾きつつあった。



気づけば防戦一方となる芹沢



フフ… ほれ ほれほれぇぇ



キャハ まだまだまだまだ まだまだなんだよぉぉ~



ひゃは 行くよ 行っくよ~



かたや勢いも、余裕さも以前変わらぬ理沙



沢山の切断された触手が床へ落ち、蠢いているのだが、理沙本体に全くダメージを受けてる様子は無い



触手を切った所で…



髪の毛が抜け落ちた程度なのか…?



しかも…



無尽蔵…?



こちらへ背を向けたまま、余裕な理沙



ひたすら頭の中に、はしゃぎ声を響かす理沙の余裕な感じに…



芹沢から次第に疲れと焦りが生じ始めた。



化け物ビッチがぁ…



串刺しにされた触手が暴れている



また床へ抑えこまれた触手も脱出しようと足掻いている。



切っても、抑えても…



これじゃあラチがあかねぇ…



串刺しにされた触手、抑え込まれた触手の根元が切られ、掌や背中からは新たに生え伸びた触手



切っても抑えてもまるでトカゲの尻尾の様に根元から切られ、新たに生えて来る触手に芹沢は精神的に追い詰められていた。



好転の兆しも勝算の兆しも影に覆われ、絶望感満載なこのエンドレスループに疲労度が増していた。



次々と再生し飛来する触手群に…



芹沢が気を抜いた瞬間



糸の防衛網をかいくぐり



1本の触手が芹沢へ到達



芹沢の脇腹へ弓なりの触手が打ち込まれた。



芹沢「かはぁ」



唾液が吐き出され、動きが一瞬停止した芹沢に瞬く間に襲いかかる触手



そして芹沢の二の腕、太股、首へと複数巻き付いた。



キャハ… つっかまえたぁ~



あれ…あれ…あれれぇぇ…まさかもう終わりなの…?



息巻いてた割には… 呆気ないのねぇ…所詮は…やっぱ人間なんて弱っちぃからこんなもんなんだねぇ…



芹沢「ぐっ…っせえ ビッチがぁ」



ん?ビッチ?…ビッチって何…? この子の中にビッチって単語無いんだけど…



手足に巻きつき動きを封じられた芹沢



アバラがへし折られ、咳き込み、悶絶する芹沢の頭の中に理沙の声が続いた。



あ~… もぉ… エレナ逃げちゃったじゃん~…



戦闘に夢中になり、今更ながらエレナの逃亡を知った理沙が嘆きの声をあげた。



もぅ… 貴方の相手なんかしてるからまた食べ損なっちゃったよ…



首から伸びた口付きの触手が芹沢へと近づき、眼前を浮遊する。



う~ん どうしよっかなぁ…



貴方なんか食べてもマズそうだし…デリケートなお腹壊しそうだしぃ…



う~ん…どうしよう…



ただ… 殺しちゃうかぁ…



あ!…そうだ!…へへ…忘れてた…いい物があったんだ…



身柄を拘束された芹沢が痛みで顔を歪めながら理沙を目にした。



数本の触手が芹沢を取り囲み浮遊



そして



背を向けていた身体が正面へと向けられ、1本の触手が懐からある物を取り出した。



器用に触手が取り出した物



それは拳銃だ



ジャーン…キャキャ…これこれ…これがあったのよ…



わき腹へ撃ち込まれた傷口が疼き、芹沢の目の色が変わった。



これこれ… これ試さないとなんだよね…



回転式弾倉が開かれ、これまた器用に触手が薬莢を摘み出した。



また、もう一本の触手には一発の38スペシャル弾が摘ままれ、そのまま薬室へと装填



カチャ



弾倉がはめられ、激鉄が引かれ、銃口が芹沢へと向けられた。



あったるかなぁ~ あったるっかなぁ~



芹沢の顔面に狙いを定め、トリガーへ触手が添えられた。



じゃあ~ 貴方はもう…死んじゃいなぁさぁーい



その時だ



突如スパッと口付きの触手が切られ、乱れ撃ちされた糸の乱舞が周囲の触手達を切り裂いた。



瞬く間に芹沢を取り囲む触手群が細切れにされ…



バラバラにされた。



芹沢「ざけろ ビッチ」



げげげ… まだ…刃向かう気なの…



死んでたまるかよ…



目の色を変えた芹沢



芹沢「死ぬのはテメェーだ」



必死な抵抗で瞬時に捕縛を振り解いた芹沢が即座に理沙へと球体を向け、無数の糸を発射させた。



切り落とされた口付きの触手が床で口をパクパクさせる中



急速に飛行する放糸が理沙の全身へと絡みついた。



理沙のくびれた腰、手首、腕、足へと巻き付く鋼糸が電灯の光に反射し、キラリと光る。



窮鼠が百獣の王の喉元へと噛みついた瞬間だった。



あれれぇ…



芹沢「もとい…死人は死人らしく…さっさと死にさらせ」



理沙が引き金を引くよりも先に芹沢が球体を揺すった。



スパスパスパ



面白い程、きれいに切られ



バラバラにされた理沙



腕、足のパーツが床を転げ、腰から切り離された上体、下体が分かれて転がった。



勝った…



たまらず両膝を付け、床へと落ちた芹沢



床へ垂れ落ちた鋼糸をたぐい寄せる余力も無い程、余すこと無く最後の力を使い果たした芹沢



逆転勝利した芹沢が天井を見上げ、笑みを浮かべた。



芹沢「く…くく…ふふふ…はっははははは… 弱ぇ~だぁ?はははは 弱ぇ~のはテメェーだろ 俺様の力を思いしったか… ざまぁーみろってんだよ」



笑いがおさまらない芹沢が天を見上げたまま勝利の余韻に浸っているや…



まさかの声…



芹沢の頭にあの声が流れ込んで来た



フフフ…



あぁ…?



芹沢が笑い声をピタリと止めた。



ウフフ…



どうなってんだ…?



フフフフフ…キャハハハハハ…



芹沢は目を見開き、床へ転がるバラバラなパーツへと目を向けた。



ざぁーんねん…理沙は… まだ死んでなぁーいのよ…キャハ



嘘だろ…?



もっと細かくしなければ…



恐怖に囚われた芹沢が強張った表情で、急いで糸をたぐり寄せた。



こんなになっても死なないなんて…



こいつ… 不死身か…?



バラバラ死体に今だ変化は無いが



声だけが永遠と脳内へ響き渡り、トラウマになりそうなこの声



この状態から何が… 起きるんだ?



でも…何かが起きる…



ただよらぬ恐怖と緊張感が芹沢を襲った。



そして…



理沙… 素早き満を持しての大ふっかつちゅ~~ キャハハハハハハハハハハ… がったぁ~~い



そして理沙の笑い声が響き、バラバラになった各パーツがカタカタと揺れ動き始めた。



すると 上体の両腕、腰の断面から数本の触手が飛び出し、螺旋状に絡み合いながら、切れた腕や足、下半身の断面へと突き刺さし、引き寄せ、結合をはじめた。



それを目にした芹沢



嘘だろ…



駄目だ… こんなデタラメな奴…



逃げなければ…



芹沢はガタガタ震えだした足腰に鞭打ち、必死に立ち上がろうとしている。



迅速に結合されて行く理沙の身体



ジョーダンじゃねぇ… もうこんな奴に関わるのは止めだ…



芹沢は不死身を思わせる理沙の真の恐怖を目の当たりにしながら



早く逃げねぇーと…



アバラを押さえ、必死に立ち上がった。



女王たる真骨頂



身体が合体して行く化け物を背に足を引きずりながら



芹沢は逃走を始めた。

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